2-12
他の生徒を体育館の外に出してもらえるよう永谷に頼む。できる限り雑音のない環境で行いたかったのだ。
彼は了承し生徒たちを促したが、琴子のクラスメイトたちは頑としてそこを動こうとしない。
肩を竦めて彼女に目配せする永谷にふっと微笑み、琴子は改めて藤の身体と向き直った。
私が助ける、と言いながらも、具体的に何をしようとしているのか琴子は自分でもうまく説明ができなかった。
ただ、身体で熱く滾っている何かが、これからやらねばならないことを彼女の指先に感じさせていた。
止血の処理を取り去り、露わになった藤の肩口に手を添える琴子。
筋肉の繊維を、神経を、骨を、細胞を感じる。
どこをどう繋ぎ、足りないものは何から生成すれば良いのか、琴子には文字通り手に取るようにわかっていた。
傷ついた細胞、神経、筋繊維を、彼の脂肪からわずかな欠片を作り出し、正常なものに治していく。
そして左腕を接合しようと手を伸ばし、琴子はそこである事に気がついた。
(血が足りない…)
意識が残っていたのが不思議なほど、彼の体内にあった血液は外へと流れ出ていた。
今残っている血液から生成しようにも失った量が多すぎて、作る元となる血も少量では済まない。
このままだと失血死してしまうかもしれない状態であった。
ほぞを噛んだ琴子の脳裏に、輸血という言葉が浮かぶ。
ふと気がついた。
勿論ここには輸血の道具も何もない。
しかし今の自分ならば、道具も、輸血に使う血液さえも選ぶ必要はないのだ。




