2-11
「…!おお…白井……無事だったか……よかった……怪我は……してないか…………?」
自らが死の淵に追いやられているというのに、生徒の身を案じ続ける藤。
そのあまりにも痛ましい姿に耐え切れず、琴子は瞬きとともに涙を零した。
「先生……」
「みんなを逃がして……一人で闘ってくれたんだってなあ…ありがとうなあ……」
ふつふつと、怒りが琴子の中で湧き起こる。
(死なせない……こんなすばらしい先生が、こんな理不尽な死に方をして良いわけがない……!!)
じわりと、熱い何かが彼女の胸の辺りで広がるのを感じた。
閉じた目の奥で、今度はぽぅっとあたたかな光が灯る。
(お願い。力を貸して)
思いに応えるように、琴子の全身にその熱が巡っていく。
そっと開いたその瞳には、淡いオレンジ色の光。
彼女は深呼吸をひとつして、前を向いたまま隣にいた響に声をかけた。
「ねえ、先生の腕は?」
「え?」
突然の言葉に彼は目を見開いて琴子を見つめる。
「腕をね、持ってきてほしいの。お願い」
さらなる言葉に一層まじまじと彼女を見つめた響だったが、その表情にすぐに開いた口を閉じ、小さく頷いて頼まれたものを取りに走った。
「ありがとう……」
腕を受け取った琴子は、穏やかな顔で微笑む。
両手の上にずしりとした重みを感じながら、彼女は恩師の傍に膝をついた。
「し……らい……?」
焦点の合わない藤の瞳を覗き込み、力なく横たわっている右手を握る琴子。
「先生、もう話さないで……。私が先生を助けます。もしかしたら凄まじい苦痛かもしれない……だけど、先生を失いたくないの。だから……」
微かに、握っている手に力が入った
琴子はそれを了承の意と感じ、ありがとうございます、と彼の右手を自らの額につける。
そして毛布に包まれた左腕を抱え、藤の左側へと移動した。




