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「琴!」
扉の開く音に後ろを振り向き、琴子に気がついた響が声を上げた。
それにほかの友人たちも一斉に琴子の周りへと集まる。
「琴ちゃん、無事だったんだね! なんともないの?」
「大丈夫だよ。怪我もしてない」
砂まみれではあるが、外傷の見られない彼女の様子に一眞はほっと眉尻を下げた。しかしその疲弊の隠しきれていない顔は彼に一抹の不安を残したようだった。
琴子は友人たちの気遣いに感謝しつつも、厳しい顔で恩師を探す。
「藤先生は?」
「あそこ。出血がひどくて、もうどうしたらいいのか……救急車も一応呼んだんだけど、メキシコじゃ時間通りにくることなんて稀だし……」
響が指差す方向を見遣り、琴子はふらつきながらも藤の元へと歩いていった。
彼の左肩には大量のタオルがあてがわれその上から包帯が巻かれているが、未だどくどくと血は流れほとんど意味を成していない。
顔色も真っ青で、瞬間意識を失うこともあったがそれでもまだ正気を保ち、自分の体を必死でさする子供たちにかすれた声で礼を言い続けている。




