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ハードモードつらたん

 私がデューイの通い妻になって早一カ月。いよいよ乙女ゲームの始まり、ロイヤル学園編入の日がやってきた。

 ゲーム通りなら学園の寮に入って生活をするのだけれどそんなことになったら私がデューイに会える機会がなくなってしまうのでお爺様に駄々をこねて寮には入らないことにした。今まで我儘一つ言わなかった孫が初めて言った我儘が「お爺様(本当はデューイ)と離れたくない!」だったためお爺様はメロメロだ。フッ、計画通り。

 私の部屋に学園へと通じる転移魔方陣を作ってもらったので毎日デューイにも会えるし遅刻の心配もない。転移魔方陣を作れる上級魔法使いを呼ぶのは大変だっただろうけどお爺様は「可愛いアンジェリカのためならこれくらいどうってことないよ」と言ってくれた。もう本当お爺様大好き。

 両親を早くに亡くして肉親の愛情を失った私にこれでもかというほど愛情を注いでくれるお爺様。親孝行はできなかったのでお爺様には孝行してあげたい。だから「お爺様と離れたくない」というのは半分は本当だ。もう半分はデューイだけど。


 ただ、デューイと上手くいったらお爺様を悲しませる結果になるかもしれないということだけが私を苦しませる。


 ま、今の所全然そんな心配ないってくらい相手にされないんですけどね! もういっそ庭に咲く花になりたい。花の方がデューイの愛情が注がれる気がする。羨ましいぜ花。


 ロイヤル学園の制服に着替え、窓からチラリと庭を見ると遠くでデューイが仕事をしているのが見えた。彼は私が見ている事には気づかず黙々と手を動かしている。私は彼を見つめたまま「行ってきます」と呟き、魔方陣の上に立った。その瞬間、魔方陣が光りあっという間に学園内へと移動する。学園を下見した際にも魔方陣を使ったけど何度使っても不思議な感覚だ。

 こちらの魔方陣があるのは使われていない空き教室。日本で作られた乙女ゲームだからか中世ヨーロッパをモチーフとしている割には制服はドレスじゃなくブレザーっぽいし、教室だって日本風だ。どこかちぐはぐに感じるけど日本が恋しい私はホッとする。ブレザーはいいよね。ドレスと違って動きやすいし。

 教室内にある使われていない姿見で自身を映し、前髪を少し整えてから「先生の所にいかなくちゃ」と教室を出た。


 勿論担当の先生も攻略対象である。先生の頭上にあるハートを見たらすでに濃いピンク色だった。どういうことなの。

 その他にもおかしなことは立て続けに起きた。

 意地悪クラスメイト設定の攻略対象キャラ、フィリップ様はハートがすでに赤よりのピンク。本来なら数日後に出会うはずのショタ後輩、エミリオ様も同じく赤に近いピンク。ツンデレヤンキー先輩のヴァン様もほぼ赤。

 初めて会った私に対して好感度高すぎるんですけど。なんで? イージーモードなの? イージーすぎるよ?

 そのせいか対応が面倒臭い。いきなり口説かれまくりで正直ドン引きです。こんな展開ちっとも望んでません。

 

 さらに驚いたのは全攻略キャラを落としてからでなければ攻略できないはずの正統派王子アラン様までもがハートが赤だった事。私がまだ教会にいた頃にアラン様はお忍びで教会に訪れ、不治の病を私の歌で治してもらった事があるんだとか。

 ねぇ、それってトゥルーエンドのやつだよね? え、私今アラン様ルートにいるの? いやでも他の攻略キャラ達も恋愛イベント何回か終わったような新密度だしなぁ……。


 本当にどうなってるの。


 編入したばかりの私に求婚をせまる殿方が複数。いやいや私が結婚するのはデューイなんで。他の方々は正直論外です。オッサンになってから出直してください。

 だいたい本来なら悪役令嬢のローズに意地悪されてそれでもめげずに前向きな行動をするヒロインに惹かれていくはずでしょう? ローズとはその後仲良くなって親友になるっていうオチだったけれど、今回はローズすら最初から新密度MAXみたいで出会ったその瞬間に「私の友人になってくださらない?」って言われた。意味が解らん。とりあえず「喜んで」と握手しといた。


 この世界、本当に私がプレイした乙女ゲームの世界なんだろうか。似ているけど違う世界、言わばパラレルワールドなのかもしれない。

 

 そう思ったら気持ちが楽になった。


 この世界がゲームの世界ではないなら私は好きに生きていいんだと思えた。シナリオ通りじゃなく、攻略キャラと恋愛せずに自分が選んだ人を好きになってもいい。誰かに操作されている訳ではない。自分が思った通りに生きよう。そう思えた。


 私はデューイを好きでいていいんだ。


 なんだかすごく嬉しくなって学園から帰るとそのままの格好でデューイの元へ向かった。

 朝と変わらず庭で作業をしているデューイに駆け寄る。



「デューイただいまー!」

「おかえりなさいませ、お嬢様」

「この制服どう? 似合う? 惚れ直す?」

「元々惚れていないので惚れ直しませんが」

「……ですよね」

「その制服はとてもよくお似合いですよ」

「デューイのそういう所本当にズルい」



 一度落として持ち上げるのが上手だからまんまと引っかかってしまう自分が悔しい。でも嬉しい。そして笑顔が素敵。

 私は彼の仕事の邪魔をしない程度に周りをウロチョロしながら学園であったことを話した。

 少しくらいヤキモチを妬いてくれるんじゃないかと期待して「複数の男性から求婚されたの」と言ってみたけれど「良かったじゃないですか」とこちらを見もせずに言われて心にグサッとナイフが突き刺さった。

 がっくりと項垂れている私に「心配なさらなくてもお嬢様ならその中から素敵な男性を選べますよ」と優しくアドバイスをしてくれるデューイが憎い。


 私が「選ぶならデューイがいい……」と呟くと「お嬢様の親離れはまだ出来なさそうですね」と笑った。


 デューイまで私が父親の面影を重ねてると思ってるのか。通りで手強いはずだ。


「もういい! デューイのバカ! デューイなんてあの花と同じよ!」と言い捨てて私は屋敷へと走る。『あの花』と指差した場所にあるのはピンクのチューリップ。庭師である彼なら花言葉の意味がわかるだろう。

 言葉には出さなくてもこれで私の想いは伝わるはずだ。そう考えたら顔に熱が集まってしまい、誰にも見られないように頬を押さえたまま部屋に入った。バクバクと煩い心臓を落ち着かせるためにゆっくり深呼吸をしてからそっと庭を盗み見る。

 これで少しは私の事を意識したはず! と思ったのにデューイは気にすることなく仕事を再開していた。


 ……。 


 なぜ他の攻略キャラはイージーモードなのにデューイだけハードモードなのかをこのゲームを作ったスタッフに小一時間ほど問い詰めたい。

ピンクのチューリップの花言葉は「愛の芽生え、誠実な愛、恋の告白」

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