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フェアリーズ・ダンス

 タンタタンタンタン。

 ターンタンタタンタン。


 今という時代から溯ること1000年以上前の「乱獲の時代」と呼ばれていた頃、人間という生物は、自らを万物の霊長と名乗りあらゆる霊長類の中で自分たちが最も秀でた存在であると考えていた。それゆえ、幾多も存在する他の霊長類達を自らが定めた同じ法の下で裁き、虐げ、略奪していた。結局のところの彼らの目的は、自分達の嗜虐性を満足させるためだけであり、己の欲望のはけ口としてしか他の生物をみなしていなかったのだ。次第に時が経つにつれ、彼らの内にある残虐性は、希少価値のある他生物への関心へと移っていった。それはつまり、今の時代で言うところのおとぎばなしの世界でしか見かけることのなくなってしまった、亜種族への興味であった。

 王国首都より北へ5キロマイル程行ったところに位置する「神秘の森」には、所謂現在社会でいうところの妖精が住んでいるという。これは空想の類に含まれる話ではない。現実にその森へ行けば、まず間違いなく妖精と出会うことができた。だが、妖精は人見知りが激しく、彼らの対象となる生物が彼らにとって危害がないと判断しない限り決して姿を現さないという。後に獅子王と呼ばれるようになった時の王リオンは、人一倍内に嗜虐性を秘めていた。彼が王として即位したその翌年には、「羽を持った小さき人間に関する20の規約」と呼ばれる、妖精を捕らえてきて城に献上すれば褒美を与えることを正式に取り決めた規約が制定された。「乱獲の時代」の矛先が妖精へと向けられたのである。

 それまで、確かに人間は他の霊長類を非常に冷遇していたのだが、妖精に対してはそのようなことはなかった。大人から子供まで、ツアーのようにこの「神秘の森」へとやってきて、妖精達が湖面で踊るのを見守っていたものだ。彼らはその時妖精のことを、「小さき我が友」と呼んでいた。実際その森で見られる妖精というのは、人間の姿をそのまま10分の1ほどに小さくした姿をしており、背中には4枚のトンボの羽のような翼がついていた。ある学者がいうには、その羽だけでは妖精の体重を支えることができず、他にも超自然的な力が働いているという。確かに、その妖精の踊りを見てきたものが書き残した数少ない文献の中に、彼らが踊る空間自体どことなく超自然的な雰囲気を醸し出しているようだ、という一説がある。そのようなこともあり、妖精は人間に対して少なくとも敵意は抱いていなかったようであり、人間から姿を隠すことはなかった。

 初めリオンによるそのような御触れが出たとき、妖精に手を出すことに反対するものも多くいた。しかし中には、すぐにでも手柄を立てて昇進しようと考えるものもいた。彼らはツアーに混じって妖精の踊りを見に行く振りをして、妖精が彼らの前に現れると湖へと入り込み妖精を捕まえようとしたのだ。彼らのそのたくらみは、初めの半年間はおよそしくじることなく成功した。その半年の間に乱獲された妖精の数は5000をくだらないと言われている。それが当時の全妖精の数の何パーセントに当たるのか、それは不明なのだが、この5000という数を重くみた学者達によってこのツアー自体が次第に減って行った。リオン王のもとへ献上された妖精のうち、無傷で王が気に入った妖精は僅かその0.1パーセントにも満たないという。本当に数えるほどの妖精しか王の目に適わなかったのだ。逆に、その王の目に適った妖精を持ってきた者に対しては、王は多大な、当時としては一生暮らしていけるのではないか、というほどの褒美を与えていた。その結果、妖精の乱獲がそのまま衰退して消えてしまうことはなかった。


 タンタタンタンタン。

 ターンタンタタンタン。


 ツアーがなくなり、単身で森へ入っていく者が増えた。老若男女を問わず、一攫千金をもとめる者たちが、なだれ込むように「神秘の森」へと入っていった。しかし、彼らは互いに協力という関係を結ぶことはなく、いかに相手を出し抜くかということにほとんどの力を集中させていた。そして当然のように、人間同士でも争いが起きるようになった。妖精が現れた瞬間に、我先にと湖へと飛び込み、自分よりも先に妖精のもとへ辿り着きそうな者がいれば、なんのためらいもなくその人を切り付けてしまうようになっていた。皮肉なことに、そのような人間同士の争いが起こったために、妖精までの到達に今まで以上時間がかかるようになり、結果妖精達は人間に捕らえられるより先に安全な森へと、姿をくらます事ができた。そして、次の半年で王のもとへと献上された妖精の数はわずか30に減った。しかしその中で王が気に入る妖精は存在しなかった。どの妖精もその捕らえられる過程において、どこかをけがしてしまっていて、どれも王の目に適うものはなかったのだ。それとは別に、国に報告された死傷者の数は一気に倍増した。死にはしなかったものの、大けがを負ったものもいるし、軽いけがを負ったものを含めるならば、国の人口の実に30パーセント近くが、なんらかの形でこの妖精の乱獲に携わっており、けがをしていた。中にはけがをしなかった者もいるであろうから、この数字がいかに大きいか分かるであろう。それほどまでにこの「乱獲の時代」、あらゆる人々がこの乱獲に関係していた。

 事態を重く見た大臣や王自らの判断によって、この「羽を持った小さき人間に関する20の規約」は二年にして廃止となった。王は十分に自らの嗜虐性を満足させていたため、この廃止に関して特に反対することもなかった。しかし、国家の体制として「小さき我が友」の乱獲を廃止しようとも、所謂コレクターと呼ばれる人たちは、妖精への興味を変わらず抱いていた。この規約が廃止されようとも、この乱獲自体に対して禁止する条例は存在していなかったために、彼らコレクターを取り締まることはできなかった。彼らは、王には負けるが、それでも高いお金をだして妖精を買い取ると宣言し、一般に公募を出した。実際のところ、一般の人々の関心はこの時点でだいぶ収まっていたのだが、それでも一部の自らプロと名乗る妖精狩りによって生活を賄っている人がすでに存在しており、彼らの手によって妖精達は、それからも獲られ続けていた。


 タンタタンタンタン。

 ターンタンタタンタン。


 獅子王として国王リオンによって、他国への遠征に成功し、国土がおよそ倍になり、彼の治世が終わりに近づいた頃、ようやく妖精という単語が定着してきた。霊長類とは別の体系をもった精として、「小さき我が友」を捉えるようになってきた。しかし「妖精に対する保護を目的とした7つの基本条約」が正式に施行されたのは、リオン王の孫にあたるリオン5世が王になってからであった。妖精の乱獲が始まっておよそ50年が過ぎた頃のことだった。その後も密猟という形で妖精を狩る者たちがいないでもなかったが、この条約の制定によって確実に妖精を保護する動きが高まった。


 タンタタンタンタン。

 ターンタンタタンタン。


「神秘の森」へと足を踏み入れれば、妖精の姿を見ることができる。ツアーというものはなくなったが、当時の資料を読むと、それでも妖精は湖面に踊りに来ていたという。人見知りであり、対象が安全であると確認しない限り姿を現さないという妖精。なぜ彼らは、乱獲をした人間の前から姿をくらますことがなかったのであろうか? 妖精の数が減り、彼らに会える確率は明らかに小さくなった。それでも当時、森へと入れば妖精に出会える機会があったという。ある学者が分析するには、人間の内にある善の心を妖精達はその高度な感受性から感じることができ、人間に対して姿を隠す必要がないと判断していたのだという。この意見に対して当時であれかなりの反論が提出されたといわれているが、そちらの資料は全く残っていない。というのも、リオン5世がその政策の中で過去の過ち、すなわち祖父の犯した罪を消し去ろうとして、多くの資料を燃やしてしまったのだ。そのため、現存する妖精に関する資料は、偶然その時国外に出ていたものしか残されていない。歴史上から、妖精の乱獲の記憶を消し去ろうとしてしまったのだ。


 タンタタンタンタン。

 ターンタンタタンタン。


 偶然その時国外にいたその学者の残した資料の中に、時の詩人レウレラ・ヒュームが謳ったとされる歌が収録されている。最後にその歌を引用したい。


     フェアリーズ・ダンス


  森の中の湖畔にたたずみて

  朝焼けの中黄金に輝く水面を見つめる

  遠い記憶の中に聞かされた

  それは妖精達の話


  今彼らがいつのまにか湖面に現れた

  一瞬にしてわたしをも包み込む

  柔らかい大気

  それは妖精達の話


  水面の上をかすかに足を浮かせ

  わずかにその水面をゆらすあと

  ときにくるりと回り

  ときにぴたと止まる


  タンタタンタンタン

  ターンタンタタンタン

  妖精の踊りはとても長く

  あっという間に終わってしまう


  気がつくと彼らの姿はなかった

  朝焼けもおさまり

  次第にわたしの気持ちもおさまる

  それは妖精達の話



 悠久のときの中で、妖精の話はやがておとぎの中の世界へと入っていった。だけれども人間たちが絵空事に描く妖精は、まさに本物の妖精と同じ姿をしている。1000年以上の時が経ち、今現在に至る。


 どうして彼らは今、私たちの前に姿を現してくれないのだろうか?



 それとも……



                         おしまい。

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