ACT 5.赤いやつ
伊丹牛乳店。
車に乗り込んだ京子に水の入った紙コップを渡す拓郎。
「零すなよ」
「わかってるよ」
ホルダーに受け取った紙コップを置く京子。
京子は車を発進させる。
程なくして、峠に入るトレノ。
するとトレノは加速を始めた。
コップの水が零れないよう気を付けながらドリフトをする京子。
冬名湖に着き、荷物を降ろして峠を下る。
「うん?」
バックミラーに車が写る。
その車が真後ろに張り付いて煽ってくる。
(譲れないわね。冬名のダウンヒルだし)
トレノがスピードを上げる。
その背後にぴったりと張り付く車。
トレノがコーナーに突入する。
トレノはドリフトでコーナーを抜け、その後ろをグリップでクリアする車。その車は赤のGTRだった。
GTRは直線でトレノを抜く。
(行かせない!)
イン側を取ってコーナーを曲がるGTR。トレノはアウト側を突いた。
GTRはアウトをブロックしてコーナーを立ち上がる。
次のコーナーでアウトを取るトレノ。
GTRがアウトを塞ぐと、トレノは減速してイン側に飛び込んだ。
インからスパッとGTRを抜き、次のコーナーでタイヤを側溝に引っ掛けて高速コーナリング。そのまま去って行くトレノ。
GTRが止まる。
(何てやつだ……。あれが噂のハチロクか?)
帰宅する京子。
「ただいま」
「おう」
二階へ上がっていく京子。
部屋に入り、ベッドに横たわり、そのまま眠りに就いた。
日が昇り、朝日が差し込んでくる。
京子は目を覚ました。
「さてと」
着替えを済ませ、朝食を食べて学校へ向かう。
「京子、おっはよー」
クラスメイトの女子、稲垣 優子が挨拶をしてきた。
「今日は原田くんと一緒じゃないの?」
「啓太郎? そういえば見てないわね。あとから来るんじゃない?」
「ふーん。……あ!」
「え?」
「あんた、走り屋なになったんだってね。その噂で持ちきりよ」
「いや、なった覚えないんだけど……」
「昨日、原田くんが言ってたわよ。峠を凄い速さで攻めてバトルに勝ったって」
(あいつ……)
「私もさ、走りには興味があるのよ。今度さ、私を隣に乗せて冬名を攻めてくれない?」
「いいけど……」
「じゃあ決まりね。早くしないと遅くなっちゃう!」
京子は靴を履き替えようと、下足入れの扉を開けた。
封筒が中に入っている。
「誰から?」
京子は封筒を手に取った。
差出人が書かれていない。
「誰だろう?」
京子は封筒をしまうと、教室へと向かった。