ACT 4.ドッグファイト
土曜の夜。冬名峠には物凄い数のギャラリーが集まっていた。
頂上の駐車スペースにトレノが止まっている。
FDのドライバーと向かい合う京子。
「若いな。名は?」
「伊丹 京子」
「伊丹か。覚えておこう。俺は……名乗らなくてもわかるよな?」
京子は頷いた。
「それじゃあやろうか」
FDのドライバーが車に乗り込む。
京子もトレノに乗る。
二台が位置につく。
カウントが始まり、ゴーサインで発車する二台。
加速で置いていかれるトレノ。
最初のコーナーを後追いのトレノが鮮やかにクリアする。
二個目のコーナー。
ドリフトで抜けて差を詰めるトレノ。
(差が詰まってる?)
バックミラーに写るトレノを見て焦るFDドライバー。
(負けられねえ、この勝負!)
迫り来るトレノ。
コーナーを出て立ち上がりで引き離すFD。
だが次のコーナーで差を縮められてしまう。
(やるか、あれ……)
五連続ヘアピンカーブに差し掛かり、トレノはオーバースピードで突っ込んでいく。
(何!?)
ゴン!──タイヤを道路脇の側溝に引っ掛けてジェットコースターのように曲がっていくトレノ。
(何をしやがった!?)
追い抜かれたFDがトレノを追う。
(見せてくれ、お前のテク)
トレノはコーナーから立ち上がると、次のコーナーも減速せずに突っ込む。
再びイン側の側溝にタイヤを落として曲がっていく。
(何てやつだ! 俺には真似出来ない!)
トレノはあっという間にFDを引き離していく。
何とか追いつこうとするFDだが、ゴールは目前に迫っていた。
トレノは残り少ないコーナーを高速ドリフトで鮮やかにクリアし、ゴール地点を通過していった。
「はあ……」
停車するトレノ。
後ろにつけるFD。
(何とか勝てた……)
FDのドライバーが降りてこちらにやってくる。
京子は窓を開けた。
「兄貴を抜いたハチゴーを運転していたのもお前か?」
「そうですよ」
「……そうか」
戻っていくドライバー。
京子はトレノを走らせて帰路に就いた。
自宅の駐車スペースにトレノを止める京子。
「ただいまー」
家に入る京子。
「勝ったのか?」
「うん」
「そうか」
「ガソリン満タン、頼むよ」
「わかってるって。……さてと」
拓郎は家を出て行った。