ACT 3.モンスターハチゴー
(負けられない!)
ハチゴーはスピードを上げた。
「や、やめろ京子!」
京子は啓太郎を無視してコーナーを攻める。
「うわああああ! こ、これ俺の車かよ!?」
(しょうがない。あれやるか。仕掛けるポイントは次ぎの五連ヘアピンカーブ)
目前のFCがコーナー直前で減速する。
だがハチゴーは減速しない。
FCのドライバーは思った。
(ヘアピンなのに減速しねえ!? 何考えてんだ!)
「啓太郎、口閉じてな。舌噛むわよ」
ハチゴーがコーナーをオーバースピードで突っ込んで行く。
ゴン!──タイヤが道路脇の側溝に引っ掛かってジェットコースターのように曲がって行く。
(何だと!?)
驚き戸惑うFCドライバー。
(あいつ何を!?)
あっという間に置いて行かれるFC。
FCは停車した。
(お、俺がハチゴーに置いて行かれた?)
「フフ……世の中にはすげえやつがいるんだな」
一方、FCをちぎったハチゴーは、京子の家の前に止まっていた。
トレノはない。
「京子にあんな走りが出来るなんてビックリしたよ。何であんな走りが出来るんだ?」
「中学のころから家業の牛乳配達をさせられてたからね。早朝に運んで帰りは誰にも会いたくないから、すっ飛ばしてた」
「そうなんだ」
「飽きてるけどね」
「そういえば、京子のとこの車って何なの?」
「トレノ」
「トレノってハチロクか!?」
「うん」
「何でもっと早く教えてくれないんだよ」
「だってトレノがハチロクっていうの、さっき知ったばかりだし」
「そうか。それより、今度の休みにハチロクでどっか出掛けようぜ」
「デート?」
啓太郎は頬を赤らめた。
そこへトレノが現れた。
そのトレノが伊丹家の駐車スペースに止まる。
エンジンが切れ、中から拓郎が下りてくる。
「ほお……ハチゴーか」
京子はハチゴーから下りた。
「お帰り、お父さん」
「京子か。ただいま。誰の車だ?」
「啓太郎」
「そうか」
家へ入っていく拓郎。
「じゃ、帰るね」
啓太郎はそう言うと、ハチゴーで去っていく。
家に入る京子。
リビングで拓郎が電話を受けている。
「何、黒のFDとダウンヒルでバトルしろ? 今度の土曜? そいつは無理だね。……俺が無理なら京子でもいいだと? わかった」
電話を切る拓郎。
「京子」
「何?」
「お前、今度の土曜に冬名へ行って黒のFDとのダウンヒルバトルで勝ってこい」
「日曜にガソリン満タンで車貸してくれるならね」
「いいよ」