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神さまの言い分

庭の椿の生け垣の上に、小さな神さまが座っていました。

「こんにちは、神さま。そんなところで何をしているの?」

私が訊ねると、神さまは答える代わりに華奢な両肩を竦めて嘆息しました。この問い掛けに飽き飽きしているといった風情でした。


「わたしを呼んだのはあなたのお姉さんよ」

考えたのは一瞬、すぐに「ああ」と合点がいきました。

「そういえば、昨日呼んでいたっけ」



姉は昨晩、婚約者に別れ話を切り出していました。夜中だったけれど、トイレに起きた時、偶然会話を耳にしていたのです。

「子供の頃から使っていた鏡が突然割れたの。きっと神さまが、私に考え直せって忠告しているのよ」

姉はそんなことを言って、もともと気乗りしていなかったらしい縁談を白紙に戻したようです。


得心がいった私を見つめた神さまは憂鬱そうに瞳を曇らせ、それこそ小さな子供みたいに両足をぶらぶらさせながら愚痴をこぼしました。

「あなたのお姉さんは、私を呼んだことにも気付いていないわ。みんなそうよ」

「でもあなたは神さまでしょう?」

「そうだけど、別になんにもできないわ。わたしはみんなが心の中で勝手に作ったものの集大成だもの。都合のいいように名前を使われたソレが、ただ受肉しただけの存在だもの。みんなが都合のいい時に使う言葉の中だけが、わたしの居場所だもの」

うんざりしたように語る神さまを見上げた私は、話のすべてを理解したわけではなかったけれど、自分はせめて、自分の好ましからざる状況が訪れた時や、逃げの言い訳や理由には、神さまを引き合いに出すまいと心に誓いました。




だって、自覚もないのに呼び出して、ため息をつかせては悪いですもんね。





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