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小さなぶらんこ


みいちゃんはお父さんにねだって、庭のアンズの木にぶらんこを作ってもらいました。

みいちゃんにぴったりの小さなぶらんこは、それから一番お気に入りの遊び相手になりました。


最初はお父さんに背中を押してもらって、おっかなびっくり漕いでいましたが、だんだんコツを掴んで、一人で立って漕げるようになりました。


「私、このぶらんこ大好き!」

みいちゃんはよくそう言って笑いました。ぶらんこもみいちゃんが大好きでしたから、そんな時は嬉しくて仕方がありませんでした。




小学校に上がってからも、みいちゃんは家に帰ると真っ先にぶらんこの元へ飛んでいきました。

四年生になったくらいから、友達と遊びに出かけることが多くなりました。



中学生になり、高校生になり、もうみいちゃんではなくミズエと名前で呼ばれるようになりました。

いつしか大人になり、家の外に自分の世界と時間を持つようになったのです。




それでも時々は、ミズエは思い出したようにぶらんこの元を訪れました。でも座ろうとはしませんでした。大人になったミズエには、ぶらんこは余りにも小さかったのです。



それから何年かして、ミズエは結婚し、別の町へ移っていきました。

遊び相手も、話し相手もいなくなったぶらんこは、退屈な日々を送りました。

つまらない、つまらないとふてくされながら、ある時思わず叫んでしまいました。



「誰か、また僕に乗ってくれないかな。そうじゃないと、僕は自分のことを忘れてしまう!」



誰かに届けばいいと思った叫びでしたが、誰かが答えてくれるとは思っていませんでした。



「じゃあ、私が乗ってもいいかしら?」



だから、おずおずとした声が聞こえた時には、空耳かと驚いたものです。

びっくりしてそちらに目を向けると、声の主は風でした。

風は少しだけ恥ずかしそうに笑いました。


「いつもいつも、あなたや、あなたに乗った女の子の背中を押してばかりいたけど、本当は一度でいいから乗ってみたかったの」

遠慮がちに告白した風を見上げて、ぶらんこも笑いました。



「そういえば、いつも君にはお世話になっていたのに、こうして話をしたことも無かったなんて、なんだか可笑しいね」

「迷惑だったかしら?」

「そんなこと無いよ」



こうしてふたりは友達になりました。

だから、あのアンズの木のある庭を覗けば、今も風に揺れる小さなぶらんこを見ることができるのです。



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