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お財布の金魚
お財布の金魚が泣いていた。
ちりめんのがま口に、赤い生地で縫い付けられた金魚が、黒いビーズの瞳から、ポロポロポロポロ涙をこぼしていた。
ひとりだから、泣いてるの?
ここが嫌だから、泣いてるの?
お水が無いから、泣いてるの?
時刻は深夜。今のわたしが速やかに叶えてあげられるのは、とりあえず三つ目くらいしか無い。
コップに一杯お水を汲んで、お財布の金魚がいる机に乗せた。
ひらひらとした尾びれの金魚が、透明なコップに歪んで映った。
翌朝、お財布から金魚が消えていた。金魚がいたはずの場所は、のっぺらぼうの布切れだけになっていた。
金魚は隣のコップに居た。
水の中、口をパクパク、しきりに小さな泡を作って、くるりとした黒い瞳には、当然、涙の跡など見当たらず。
わたしは金魚のいなくなったお財布を持って、金魚鉢を買いに出掛けた。
砂利に、水草、それから餌も。
金魚は今も、そこにいる。