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4日目、ペンギンは空を飛ぶ

大変お待たせ致しました。申し訳ありません。

 ――4日目。


 ペンギンは空を見上げていた。昨日と違って、全身に包帯が巻かれている。その姿は、ミイラ男ならぬミイラ鳥だ。


 本日の空は、晴れのち曇り。見渡す限り、どんよりとした白一色で空は塗り潰されていた。まるで、ペンギンの心の中を表すかのような空模様である。そう、ペンギンの心は暗雲に包まれているのだった。


「……はぁ」


 ペンギンはひとりため息をつく。憂鬱、と言う言葉が実に似合う様子だ。


 昨日と、一昨日と、一昨々日。空を飛んで、崖から落ちた。努力と根性と気合と何かで、足りない要素を克服したはずが、空を飛べなかったのである。それはもう見事なまでに、全滅だった。


 考えつくことは全てやった。


 思いつくことも全てやった。


 なのに、空が飛べないのだ。もはやペンギンには訳がわからない。そもそも、種族的にペンギンが空が飛べる訳ないだろう、と言う野暮なつっこみはなしだ。なにせ、ペンギンは信じているのだから。自分はいつか、きっと空を飛べるのだと。


 しかし、周りはそう思っていないのが、現実だ。


 特にペンギンの怪我を治療した医師なんかは、馬鹿につける薬はないと説教したあげく、動き難くなるよう、全身に包帯を巻く始末。怪我そのものは軽く、相変わらず包帯を巻く必要はなかったのだが、連日懲りずに空を飛ぼうと崖から落ちたペンギンに対する皮肉が込められている。また、動きの邪魔になるように巻くことで、無茶ができないようにと、拘束具としての役割もあった。普通なら、動きの邪魔にならないように巻くのだが。


 さすがのペンギンも、鬼の形相で微笑む医師に逆らえはしなかった。


 ペンギンは、(フリッパー)を空へと伸ばす。目の前に空があると言うのに、その(フリッパー)は届かない。


「ちかづいたと、おもったのに……」


 昨日まで、あんなにも近くに感じられた空が、今では遥か遠くの向こうに思えた。


「そら、とびたいな」


 呟きが、ただ静かに消える。




 ペンギンの頭上に、光が差した。雲間からこぼれ落ちた光が、スポットライトのように、ペンギンを照らし出す。それは、薄明光線――天使の梯子とも呼ばれる日差しだ。


 ペンギンの目に、青い色が写る。雲が風で流されて、晴れ間が広がり、青空を見せているのだ。


「…………」


 澄み渡る青い空を見て、ペンギンは思った。あの、手を伸ばしても届かない空の向こうに行けたなら。もしかしたら、空が飛べるのかも知れないと。


 そう思うと、空が飛べなかった訳が、おのずとわかった。


「そうか、たかさが、たりなかったんだな」


 空は、高い所にある。だから、空を飛ぶためには、高い所に行かなければいけない。ペンギンは首を90度にひねって、そう答えを出した。いつもながら何の確証もない答えであるが、それも今さらか。


 ペンギンは、晴れ晴れとした気分で、空を飛ぶために動き出す。


 そして、こけた。格好よく言い直せば、大地に頭突きを食らわせた、となる。包帯のせいで、足がもつれてしまったのだ。なんとも締まりのない話だ。


 ちなみに言えば、これは後々のフラグであるとつけ足しておこう。




 所変わって、山の上。


 麓を一望できる、切り立った崖にペンギンの姿があった。(フリッパー)を伸ばせば雲が掴めそうな、高い場所だ。ここよりも高い場所は、他にない。


 ここに至るまでの道のりは、決して楽なものではなかった。険しい、道のりだった。抗いがたい、誘惑もあった。しかし、それでもペンギンは、立ちふさがる数々の障害を乗り越えて、ついには頂上にたどり着いたのである。……と書くと、何か壮大な冒険をしてきたかのようだが、それはペンギン主観の話だからで、その実態は、こけただの、疲れただの、お腹が空いただの、単なる日常の一コマに過ぎなかったりする。


 その時の様子をペンギンの心情を気にせず、率直に表せば、とてとて歩いていた、の一言で充分だろう。とは言え、決してピクニック気分でのんびりと歩いていた訳ではない。本当は急いで行きたかったのだが、全身に巻かれた包帯が邪魔をして、走るとこけてしまうからだ。恐ろしい罠である。だからペンギンは、歩いてここまで来たのだ。


 それならば、包帯を解けばいいと思うだろうが、残念なことに、ペンギンの頭では思いつかなかった。既に、頭は空を飛ぶことでいっぱいだったのだ。それ以外の、動きにくいだなんて些細な問題は、そこら辺にぽいっと捨ててしまった。ぽい捨ては立派な犯罪だが、この場合は実体がないものをぽい捨てしたので、問題あるまい。……何か怨念めいたものが残ってそうだが。


 まあ、それはいいとして。


 頂上である。ペンギンは、山の天辺にいるのだった。そして、空を見上げていた。


 ペンギンの見上げた先には、青い空と、大きな白い雲――入道雲がある。入道雲は、もくもくと広がりを見せていた。


 風が、足下から吹きすさぶ。涼しいを通り過ぎた、少し肌寒い風だ。自前の羽毛(100%天然素材)がなければ、寒さでがくがく震えていただろう。あと、布の服(包帯)も風を防ぐので、意外と役に立っている。


「ここからなら、そらを、とべるかな」


 そう言って、ペンギンは崖っぷちぎりぎりに立つと、下を覗いてみた。足に当たった石ころが、からからと落ちて、消えていくのをただ黙って見送る。


「…………」


 ペンギンは顔を引っ込めて、ひとつ頷いた。落ちたら危ないんじゃないかなこれ、と。いくらペンギンでも、ちょっと飛ぶのをためらってしまう高さが、そこにあった。連日崖から飛び落ちている、あのペンギンがためらうほどの高さが、だ。


 しかし、だからと言って、空を飛ぶのを諦めた訳ではない。空を飛ぶために必要な、必要だと思っている、高さがここにあるのだ、そう簡単に諦めたりはしない。


 だが、二の足を踏んで、そこから先へ踏み出せないでいる。ペンギンだって、命は惜しい。なにせ、命がなければ空は飛べないのだから。


 空を飛ぶべきか、空を飛ばないべきか。ここで初めて、ペンギンの心は迷いを見せる。


 そんな、まごつくペンギンの背中を押すように、風が吹いた。と言っても、風は後ろからではなく前から吹いたのだが。より正確に言えば、足下からだ。崖の下、山の麓から頂上へと這い上がって来た上昇気流が、ペンギンの心を叱咤する。


「……おれは、そらを、とぶんだ!」


 ペンギンは空を飛ぶと、決心した。その心に、もう迷いはない。


 そうと決まれば、話が早い。ペンギンは崖から距離を取ると、崖に向かって勢いよく駆け出した。地面を蹴るように、体を前へ前へと押し出していく。しかし、遅い。その走りは、いつもよりも格段に足が遅かった。


(どう、して……!?)


 包帯だ。全身に巻かれた包帯が、動きの邪魔をして、速く走れないのだ。


「じゃまっ、だっ……!」


 ペンギンは(くちばし)で体の動きを拘束する包帯を、無理やり引きちぎる。縛る力をなくした包帯が、解けていく。これで、邪魔するものはなくなった。


 ペンギンは一気に加速する。


「いっ、けぇえええっ!!」


 ペンギンは、両の(フリッパー)を力強く羽ばたかせて、今、崖から飛び立つ、その瞬間だった。


 ペンギンはこけて、崖から落ちた。


「――おおぅっ!?」


 これまた、包帯だ。動くのに邪魔な部分を引きちぎったとは言え、体に巻きついたまま垂れ下がる包帯が、足に絡まったのだ。


 ペンギンは崖からまっ逆さまに、落ちていく。


「のぉわぁああああああ……!!」


 地上に激突するまで、あと十数秒。


 ペンギンの運命も、もはやこれまでかと思われたその時、奇跡が起こる。


 風が吹いたのだ。それも、これまでで一際強い風――上昇気流だった。上昇気流は、ペンギンの体を空の上へと押し上げる。


 それは、偶然の生み出した奇跡だった。ペンギンの羽ばたきによって得られた揚力。包帯が引きちぎられて、面積が広がり増加した空気抵抗。そして最後に、上昇気流。この三つの要素が合わさって、ペンギンは空高く舞い上がったのだ。


 もちろん、現実はそんなもので空高く舞い上がれるほど生易しくはない。地面に激突して、具体的な表現を避けると、ぐちゃりとなっただろう。だがペンギンにとって幸いなことに、これはコメディだった。だから、ぐちゃりとならないし、飛べない鳥が空だって飛べるのだ。コメディの、ギャグ補正の本領発揮である。


 ペンギンは、空を飛ぶ。


 波に乗って海を泳ぐように、風に乗って空を飛んだ。羽ばたく(フリッパー)が、空を切った。


 身体の何処かから、歓喜の声が上がる。ただいま、と。私はこの空に帰ってきた、と喜ぶ声だ。


「――た、だ、い、ま」


 ペンギンは、その声を確かめるように口にした。そして、もう一度口にする。


「――ただいま!!」


 今度は青い空に向かって、心の奥底から叫び声を上げた。


ひゅるると風が吹く。それはまるで、お帰りなさい、とペンギンに返事するかのような優しい風だ。


 ペンギンはその風に対し、ただただ微笑みを浮かべるのであった。




 ――その後の話を、少し語ろう。


 ペンギンはあの後、空から落ちた。当然だ。上昇気流がいつまでも吹き続ける訳がないのだから。上昇気流がなくなれば、ペンギンが落ちるのも、また道理。じたばたと宙で暴れたところで、無駄であった。


 ただ、落ちた先は地面ではなく、海だったのは幸いなのだろう。空を飛んでいる間に、海の上まで流れ着いていたのだ。ちょっと擦りむいただけで、すんだ。と言っても、またもや投身自殺の真似事をしたと医師に怒鳴られ、その日一日、ベッドの上に拘束されてしまったのが。


 ペンギンはベッドの上から、窓の外を見た。青い空が、そこには広がっている。そして、細長い白い雲――飛行機雲が空に向かって伸びているのが、見えた。


 それを見たペンギンは、何を思ったか大きく頷いて、眠りについた。ペンギンは、これからきっと幸せな夢を見るのだろう。






眠くて。疲れて。眠かった……。


突発的に忙しくなったお陰で調子が崩れて、全然書けませんでした。一時期、気分転換にと本を読んでみても文字を見てるだけで、内容が頭に入らないときたもんだ。漫画ですらもだから、相当だった気が。


とりあえず、なんとか書ききれましたが。相変わらず改行やら句点をどこでやってたんだか、もうさっぱりさっぱり。しかも空を飛んだ後、どうするのか具体的に考えてなかったもんだから、最後は力つきて張りぼてが精一杯。




まあ、ノリで書いて投稿した訳ですが、いい教訓になりましたと綺麗にまとめて、終わりましょうか。


最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。と。

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