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2日目、ペンギンは駆ける

 ――2日目。


 ペンギンは空を見上げていた。昨日と違って、その頭に白い包帯が巻かれている。


 青空に漂う白い雲が、ただ風に流されていくのを見つめながら、ペンギンは昨日のことを考えていた。


 昨日、空を飛んで、崖の上から落ちた。つまりは墜落だ。端から見れば、ちょっと変わった投身自殺にでも見えただろう。結局、ペンギンは空を飛べなかったのだ。


 羽ばたきは、完璧だったはずだ。助走にも、何ら問題はなかったはず。だがしかし、結果は失敗。得たものと言えば、全身打撲とたんこぶひとつ。高い所から落ちて海面に叩きつけられたのだ、その程度ですんで良かったものだ。なにせ、人間の着水の安全限界が10mである。これがコメディーでなければ、骨の1つや2つ折れるどころか、生きているだけでも奇跡なのだから。


 当然ながら、そんな事実に物語の登場人物たるペンギンが気づく余地もなく。


 何がいけなかったのかと、飛べない理由を考えながら首を傾げているのだった。どうでもいいが、この時、首の角度を計ればきっちり30度であることがわかっただろう。まあ、それはどうでもいいことだが。


(どうして、とべないのかな。んー……?)


 そう、もやもやとするペンギンの頭の中に、一筋の光明が差した。例えるならそれは、12wの電球くらいの明かるさだ。何が言いたいのかと言えば、答えをぴっかりひらめいたと言いたい。ひと昔前の表現である。


「はやさが、たりないんだな」


 どうしてそう思ったのか、聞かないでほしい。なにせ相手はペンギン、鳥頭だ。人間に分かるわけがない。


「そうか、はやさなのか。はやさ、はやさ……」


 問題が分かれば、あとは簡単だ。その問題を解決すればいいのだ。そう、つまりは、速く走れるようになればいい。


 なんだ、簡単なことじゃないか。むしろ、こんな簡単でいいのかしらと、もはや解決した気分で笑みを浮かべるペンギン。そのうち、るんるんと鼻歌まで歌い出すんじゃないかと思えるくらいの勢いで、テンションは急上昇。


 速く、走る。ただそれだけのことが、どれだけ難しいのか。1分1秒の時間を縮めるために、アスリートがどれだけの苦労を重ねているのか。ペンギンが気づくことはないだろう。


 重ねて言うが、相手はペンギンだ。鳥頭なのだから仕方ない。


 その包帯を巻いた鳥頭は、問題を解決すべく立ち上がる。




 所変わって、大草原。


 見渡す限り草ばかりの開けた場所に、ペンギンの姿があった。その隣には、大きな影がひとつ見える。ペンギンよりも2、3倍は大きいか。胴体からすらりと伸びた頑丈な2本の足に、小さな頭とそれを支える長い首――ダチョウだ。


 そう、大きな影は、ペンギンと同じ「飛べない鳥」であるダチョウなのだった。


 ダチョウに対し、ペンギンは頭を下げてお願いする。空を飛ぶための、お願いを。


「はやく、はしれるように、してくださいっ」


 ダチョウはつぶらな瞳をぱちくりさせた。当然だ、詳しい理由もなしに呼び出されたあげく、開口一番の台詞がこの発言なのだ。とんだ無茶振りだ。訳がわかるまい。


 しかし、そこはさすが「飛べない鳥」仲間と言うべきか。どう返答したものか少し迷いつつも、仲間の願いだからと、鷹揚に頷いてみせた。


「いー、よーーーぅ」


 なんとも間延びした声だ。思わず聞いてるこちらの気が抜けそうになる。かと言って、当人はふざけているつもりはなく、いたって真面目なのだから質が悪い。


 まあ、このペンギンにとっては何ら問題ないのだが。こちらも自覚はないが、空を飛ぶという、ご先祖様に喧嘩を売るような壮大な夢を見ているのだから、質の悪さで言えば負けていない。類は友を呼ぶ、を地で行く関係だ。同類なのだから気にするはずもない。




 斯くして、ペンギンは仲間の助力を得て、あの青空に一歩近くのだった。


 もっとも、その仲間であるダチョウは、どうしたら速く走れるようになるのかとこっそり悩んでいたりするのだが、ペンギンには関係ない話である。




「えっほ、えっほ、えっほ」


 ペンギンは走っていた。ただひたすらに、がむしゃらに走っていた。その隣で並走する影は、ダチョウの影だ。並走と言っても、体の大きさの違うダチョウにとっては早歩き程度の速さなのだが。


「とーもーかーくー、はーしーるーのーーーぉ」


 ダチョウは考えた。どうすれば速く走れるのかと。


 ダチョウは悩んだ。どうすれば速く走れるのかと。


 ダチョウは唸った。どうすれば速く走れるのかと。


 ダチョウは思った。今日の晩ご飯どうしようかと。


 ダチョウは決めた。久しぶりにお肉を食べようと。


 少し脇道に逸れたが、ダチョウがその小さな小さな頭で考えに考えて出した結論、それは「走る」ことだった。


「はーしーれーばー、はーしーるーほーどー、はーやーくーなーれーるーのーーーぉ」


 ダチョウは喉を震わせて、そう言った。その言葉に理屈なんて存在しない、ただの思いつき、直感がそう言わせたのだ。


 難しいことは分からないが、速く走りたいのなら走るべきなのだ。いつまでもぐだぐだ考えたって、速く走れはしない。それくらいダチョウにだって分かる。


 だから、走らせるのだ。


 とにかく走るのが大事だ。走り続けていれば、いずれ速く走れるだろう。それに、走ると気持ちがよくなるので、それ以外のことはどうでもよくなるに違いない。これぞまさに一石二鳥。実に素晴らしいアイディアだと、ダチョウは心の中で自画自賛した。


 走ることはいいことだ。走ればみんな幸せになれる。それがダチョウ・クオリティ。




 一方、ペンギンの立場から今の出来事を見てみよう。


 するとどうだ、隣にいるダチョウが行き当たりばったりで能天気なダチョウから、実に頼もしい心強いダチョウに見えてくるのだった。


 なぜなら、突然呼び出したにも関わらず、なにも聞かずに快く頼みを引き受けたのだ。実に格好いい、頼りがいのあるダチョウではないか。これを心強いと言わずして何と言う。


 それに、生来ののんびり屋な気質が普段と変わらない様子を見せるので、見方によっては慌てず、騒がす、どっしりと構えているのだと誤認させて、何も問題ないのだと安心感を覚えるだろう。


 速く走るための方法にしても、そうだ。理屈だとか理論だとか大事な要素がばっさり抜けているが、何ら疑問を持たずに堂々と説明するのだから、何かしら説得力が感じられるのだ。まるで詐欺の手口である。


 しかも、相手はダチョウ、走りのプロフェッショナルだ。速く走るために進化したと言ってもいい存在なのだ。これでは疑う余地もない。


 これらの積み重ねが、ペンギンにとって、どれほど頼もしく映るのか想像に難くない。


 だからペンギンは、ただひたすらに、がむしゃらに走るのだった。




 ダチョウが走る。


 頭を低くし前に突き出した前傾姿勢。鍛え上げ、引き締まった長い足が力強く大地を蹴ると、その場に2本の鋭い爪跡を蹴った数だけ残して、走り去っていく。


 時には、退化した翼を広げて舵のように空気抵抗を利用して、流れるように曲がりもする。


 ペンギンはダチョウを見送りながら、その姿を記憶に焼き付けていた。ダチョウとの走り込みは、終わったのだ。


 瞬く間に視界から消え去るダチョウの動きを思い返しながら、ペンギンは思う。


 ダチョウと違って、ペンギンの足は短い。実際は短く見えるだけで、本当は他の鳥と同じように長いのだが、短いと言ってもいいだろう。


 あの着ぐるみのような短い足は、足首から下の部分なのだ。他の部分は脂肪に隠れて見えないでいる。それだけでなく、関節を折り曲げた状態――しゃがんでいる状態で固定されているため、足の動きが制限されていた。骨格的に見て人間が真似しようものなら、常に空気椅子をした状態で生活しなければならなくなる。


 だから、ペンギンは短足だと言っても過言でないだろうと、そう思うのだ。


 なので、ダチョウの走りは参考にならない部分もあったが、得るものはあった。たぶん。何かこう、気持ち的な何かだ。


 まあ、それはさておき。


 必死に走り込んだ今なら、昨日よりも速く走れるに違いない。実際、時間を測れば昨日よりも速く走られることがわかる。


「これで、おれも、そらをとべるんだなっ」


 ペンギンはそう思うと、今にも空を飛びかねない足取りで昨日の崖に移動した。そして助走をつけて、羽ばたきながら崖の上から再び飛び立つのだった。


 そこから先は特に語らなくてもいいだろう。ただ、何かが海に派手に落ちた音がしたとだけは言っておこう。





書いたんだな。


一度、日曜日に完成したのだけれども「あれ、これペンギン走ってなくね?」と追加修正してました。いやはや、脳内プロットでは走る予定だったのですが、その場のノリと勢いで締めてみれば走る手前で終わってしまったと、そんな訳で。


まあ一応、ダチョウやら何やら調べた時に思いついたネタは残っていたので急いで書き足せましたが。最後はガス欠気味なこともあって、いまいちすっきりしないよーな気も……。


ちなみに脳内プロットだと、


 1.ペンギン、1日目と似た出だしで反省会。

 2.「はやさが、たりない」

 3.ダチョウと特訓。

 4.そして落ちる。


みたいな感じ。さすがプロット、超すっきりしてますよね! まあ、だから会話がほぼないんですが。考えてませんし。




とりあえず残り二話、頑張って書こー。そーしよー。

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