表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

1日目、ペンギンは落ちる

 ――1日目。




 ペンギンは空を見上げていた。


 青い空。白い雲。そして、黒い影――鳥だ、渡り鳥が翼を広げ、空の彼方へと飛んで行くのを、ペンギンは食い入るようにじっと見つめているのだ。


 渡り鳥が羽ばたくその姿を脳裏に焼き付けながら、ペンギンは思う。


 その昔、ペンギンのじじぃのじじぃの、そのまたじじいよりももっとじじぃの頃。ペンギンはただの鳥で、空を自由に飛べていたのだとペンギンのじじぃは言った。それが美味しい餌――つまりは魚だ――を食べるために、長い長い時を掛けて美味しい餌――大事なことなのでもう一度言うが魚だ――のある海の中に適応していった結果、風に乗って空を飛ぶ翼が、波に乗って海を泳ぐ翼に進化したのだと。


「我等がご先祖様は、随分とまあ食い意地がはっておるよのぅ」


 そう言って、くえっくえっと笑うじじぃに対し、周りは呆れた視線を向けた。このじじぃ、年老いてなお旺盛な食欲を見せており、お前が言うなよと、周りの目は誰もが語っていたものだ。


「おれも、そら、とべるかな」


 ペンギンは、じじぃの話を思いだしながら、そう呟いた。




 ペンギンは思う。海を見る度にいつも感じていた「何か」について。


 海は好きだ。それはもう間違いなく好きだと言える。海に飛び込み、白い気泡を抜けた先には辺り一面青々とした色が出迎える。その瞬間が、特に好きなのだ。


 だが、だがしかし。


 身体の何処かから感じる、この違和感とも、不安感とも、寂寥感ともとれる、漠然とした「何か」。この感覚はいったい何なのかと。


 その答えを、今なら分かるかもしれない。じぃじぃの話を聞いた今ならば。


 ペンギンの視界いっぱいに広がる、青々とした空。もしかしたら、いつも感じていた「何か」は、この青空を求める声なのかも知れない。


 恋しいのだと。恋しくて、狂おしいのだと。


 今はもう遠く離れ、薄くなりはしたが、しかし今もな受け継がれている鳥としての本能が、そう囁いている気がするのだ。




 ひゅるると風が吹く。風は耳元をかすめ、通り過ぎていった。 その頃には、渡り鳥の姿は、もうなかった。


 そのことを残念に思いながらも、何故かほっとするペンギン。それは、ペンギン自身が気づかぬ間に抱いた、ほんの僅かな「飛べない鳥」としての劣等感がそうさせたのか、誰も知るよしもない。


 びゅるるると風が吹く。今度の風は、先程のよりも強い風だ。まるで、物悲しげに下を向くペンギンの背を励ますかのような、優しい風でもあった。


 その風に突き動かされたのか、ペンギンは顔を上げる。青々とした空が、そこにはあった。


 ペンギンの脳裏に、空を羽ばたく渡り鳥の姿が思い浮かぶ。その一つ一つの動作をつぶさに思い出しながら、ペンギンは両の翼、フリッパーを広げて、ぱたぱたと再現してみせる。


 何度も何度も羽ばたいて、ああ違う、これじゃない、と納得のいくまで何度も繰り返す。


 ぱたぱた。


 ぶんぶんぶん。


 ぶわっさぶわっさ。


 ぱたたたた。


 ぱたぱたたた。


 納得したのかペンギンは羽ばたくのを止めて、ひとつ頷き、そして、脱兎の勢いで駆け出した。鳥なのに兎とはこれ如何に。いやしかし兎は鳥と同じく1羽2羽と数えることが出来るのだから、ある意味仲間とみなしてもいいのではなかろうか。どうだろうか。


 まあ、それはともかく。


 ペンギンは、羽ばたきながら全力で走る。 ペンギンは重力の束縛に抗いながらも、宙を舞う。空が、近づいた。あれほど遠くにあったのに、手を伸ばせば届きそうだと思えるくらいに。


 ――しかし、現実というのはかくも無情なもので。


 重力の檻に囚われたペンギンが、いかに羽ばたこうが、いかに足掻こうが、飛べない鳥は物理法則に従い、崖の下へとまっ逆さまに落ちていき。




 ばちゃーん!!




 そして、海面に叩きつけられるのであった。南無。




最後の方、睡魔に教われながら書いたので、どーなってるのやらと心配しつつ予約投稿したもんで。


話自体は、あと2~3話続いて終わるんじゃないかと。この話を書いてる途中でカンガルーの話その他に移ったから続けは出来て……。しかもオチも考えてないときたもんだ。


まあ、気長に書きましょー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ