わたしのなまえ
(!警告!)――真夜中ですか?部屋の電気は消しましたか?画面に近づいて見てますか?すべてに当てはまる方。ひとまず電気をつけましょう。目に悪いので(笑)
今日は寝苦しい夜だった。
蒸し暑いのにクーラーの調子が悪い事と、なによりあの噂を聞いたからか。
怖がりの僕が聞いていい代物じゃ無かった。その証拠に、僕は夜中にもかかわらず、部屋の電気を点けたままだ。
僕は自室のベットの上で何度も寝返りを打っていたが、やがて瞼が重くなり、そして眠りについた。
目を開く。
自室の白い天井。
無意識に僕はむくりと上半身を起こした。そして視線を真横に移す。そう、それが必然であったかのように。ドラマの脚本に沿うように。
部屋の隅、他とは違って少し薄暗いそこ。
少女が、いた。
シミのある、薄汚れたワンピースを着て、そこから露出した肌は青紫。
表情は見えない。少女は髪が長いわけじゃない。何やら、歪みのような、映りの悪いテレビのような。そのせいで、少女がひどく違う世界の人に感じる。まるで合成写真のようだ。
少女がどこを見ているかもわからない。
僕は少女に話し掛けた。
そう、当たり前のように。
「君は……だれ? 名前はなんて言うの?」
「……たし? ……わた……は……」
耳鳴りが聞こえ、ひどく聞き取りづらい。ノイズのような。そのため、少女の声は遠くで呟くみたいに、近くでささやくみたいに。
そのせいで僕は眉をしかめた。それがわかったのか、少女は笑った。
いや、更に空間が歪んだのかもしれない。
「わたしのなまえは」
目を開く。
……目を開く?
視界には白い天井。……そうか、夢だったのか。
名前……。その単語を思い出し、僕はぞっとする。
気が付けば、全身にじっとりと汗をかいていた。動くと、衣服が肌に張り付いて気持ち悪い。
無理もない。冷房が効かない上に、あの夢だ。
夢の最後に、少女に呟かれた直後、僕は目が覚めた。
いや、少女に呟かれて、目が覚めたみたいな感覚だ。
今でも鮮明に、耳にこびりついて離れない。
喉がカラカラだ。僕は水道に向かうため、上半身を起き上がらせた。
少女が、いた。
縦長のベットの、僕が足を向けるほうに、立っていた。
全身が泡立つような感覚。頭が真っ白だ。逃げるという選択も、せめて目を逸らすという選択も、今の僕には無かった。
少女の行動を待つように、僕は少女を凝視していた。
空間が、歪む。
少女が、笑う。
「わ……しの……な……えはね……」
ノイズが耳にこびりつく。
その時僕は、強迫めいた物を感じた。
聞いてはいけない。
名前を聞いてはいけない。
何かを言わなくては。
頭で考えるより早く、口が先に動く。
が、喉がカラカラで言葉がでない。口の動きだけが空回りしてしまう。少女は今にも口を開きそうだ。
僕の……僕の……
「……もう僕の前に現われるな!」
視界には白い天井。
僕は自分の発した声で目が覚めた。
汗の量は夢よりひどい。
起き上がり、自分の部屋をせわしなく見回す。
「……いない……よな?」
カーテンの隙間からは、低い位置にある朝日がちらつき、僕はホッとした。
自室を抜け、階段を下りて、リビングへのドアを開く。
「おはよう。あんたにしては起きるのが遅いじゃない」
リビングテーブルに座り、コーヒーをゆったりすすっている人物に安心する。
「そうかな。それより姉さん、仕事は?」
姉さんは僕を呆れたように見る。
「何言ってんの、今日は日曜よ? ……誰?」
不思議そうな顔の姉さん。たぶん、僕も同じ顔をしているだろう。
「その後ろの女の子」
途端、僕は固まる。動けない。
姉さんの不思議そうな顔は、僕に向けられたものじゃなかった。
「ん? 親戚にこんな子いたっけ?」
背中が寒い。
振り向いてはいけない。いや、振り向けない。動けないのだから。
僕は顔を前に向けたまま、姉さんの行動を見張った。
姉さんは微笑みながら、こちらに歩いてくる。
しゃがみ、僕の腰の横を見る。
「お名前、なんて言うの?」
「わたし?」
耳元で聞こえる。
ノイズが、響く。
「わたしのなまえは
どうでしたでしょうか?ネタもオチもありきたりでしたね(苦笑)少しでも『恐い』と思っていただけたら、作者は小踊りしてしまうでしょう。いえ、踊り狂います。いえ、踊り狂ってみせます。