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惑星コーズ 宇宙軍 シアー補給基地

シアー補給基地内 コンテナ倉庫


暗闇の中、静寂を破って無線機から無機質な声が聞こえてくる


「アタッカーチームへ、作戦開始まで残り5分だ」


音量をギリギリまで絞っていても誰一人音を立てない中では場違いなほどに大きく聞こえる。


(工作員の連中がうまくやってくれているといいが・・・ここを出た途端に防御タレットに撃たれるのは御免だ)


目の下に深い傷跡を持つ男はひんやりと冷たいコンテナの内壁に触れると、頭の中でもう一度作戦を思い出した。


指揮所を工作員が襲撃して防御システムを奪うか沈黙させたと同時に一斉に全てのチームが基地を襲撃する。


(作戦の肝心な部分が潜入工作員任せなのが気に食わんが、ここからは全て俺達の仕事だ)


傷の男は表情を変えることなく振り返ると物音一つ立てずに待機している部下達に向かって囁いた


「よし、全員起て。そろそろ作戦開始だ。武器の梱包を解け」

「了解」


7名の部下達がそれぞれ立ち上がり暗闇の中で武器の梱包を解くと、部下の1人がトーチを点けて足元に置いた。

トーチの赤い光が完全武装した地上軍兵士の姿を浮かび上がせると傷の男は部下を見据えてから続けた


「火器点検」「火器よし」「装備点検」「装備よし」


準備が全て万全な状態にあることを確認すると少し安心する。

後は思いきりやるだけだ。


「作戦開始まで残り1分だ。作業服姿の工作員や他のチームとの同士討ちに気をつけろ」

「了解」


コンテナドアに向き直ってから一度大きく息を吐くと肩から垂らしたライフルの銃把を握り直した。


(今までの退屈な日常は、これで最後だ)


そう心の中で呟いた時、黄色い作業着を来た工作員の手によってドアが思いきり開かれた。


「作戦開始!行くぞ!」


叫びながら傷の男がコンテナから飛び出すと、非常照明に切り替わった薄暗い倉庫をアタッカー1と呼ばれるチームが駆けていった




「ふあぁ・・・っと」

「ボリス・・・欠伸しながら仕事してると、事故を起こすわよ」


積載予定の補給品と端末を見比べながら欠伸をする同僚のボリスに向かってサエは呆れたように言った。

ボリスは長年着続けてヨレヨレになった黄色い作業着を羽織り直すと、顎をさすりながら落ち着いた口調で答えた


「私はいいんだよ。今まで仕事でミスしたことなんかないんだから」

「ミスしてからじゃ遅いと思うけど・・・」

「他人の事より自分の事、だよ。特に君には子供がいるん・・・なんだ?」


不意に頭上の照明が非常照明へと切り替わると、二人は顔を見合わせた


「どうしたのかしら?」


心配そうに言うサエに対してボリスは平然とした口調で答えた。


「主電源が落ちただけだろう。 この基地は古いからな」


しかしそんな楽観を打ち砕くように隣の区画から激しい銃声がすると、続いて悲鳴や絶叫が響いてきた。

ドアの近くで無線機を操作していた二名の兵士は急いでドアを抜けて銃声のした区画へと向かっていく。


「くそったれ・・・どうやらひどくマズい事態のようだな」


ドアを抜けていく兵士を見ていたボリスが呟くと、銃声が起きた区画へのドアが勢い良く開き数人の作業員が我先にと逃げ込んできた。


逃げてきた作業員は立ちつくす職員達に気づくや彼等に向かって叫んだ。


「地上軍だ! 地上軍の兵士が攻めてきた!」


言い終わらない内に全員が反対のドアへと駆け出していた。





壁にもたれている瀕死の宇宙軍兵士にトドメの一発を与えると、男は無線機に向かって口を開いた。


「アタッカーチーム2と3へ、ファングだ。状況を報告しろ」

「こちらアタッカー2。 正面入口の掃討を終了。 これから4名を残してシャトル発着場へ向かう」

「こちらはアタッカー3です。東側出入り口も制圧完了。我々も4名を残してシャトル整備場へ向かいます。」

「了解した。 警備詰所は工作チームが処理したはずだが、生き延びている戦闘員に注意しろ。」


ファングは無線機から各アタッカーチームの報告を受けて満足すると部下に手で合図し、歩いて次の区画へと向かった。




「お父さんを捜さないと!警備詰所にいるはずだわ!」


サエは通路を走るボリスを追いながら叫ぶ。

しかしボリスは前を向いたまま彼女の言葉を否定した。


「ダメだ。 奴等は本気で我々を皆殺しにする気だ。奴等は何らかの方法でここのシステムを破壊するか乗っ取ったかしたんだろう。警備詰所も標的になったに違いない。恐らくは君の夫も・・・」

「警備詰所は簡単に行けるような所じゃないわ!」


走りながら彼女は否定するように叫ぶ。

ボリスは足を止めるとサエの肩を掴んでさらに説明した。


「いいか、奴等は隣の区画からいきなり現れた。つまり誰にも気づかれないほど潜入が上手いか、誰かが手引きした以外にあそこからいきなり発砲するのは不可能だ。 恐らくはコンテナの中にでも隠れていたんだろう。それにタイミングの良すぎる基地の機能停止。きっと職員にスパイかなんかが紛れてるんだ。ここまで周到な計画で、兵士が沢山いる詰所を見逃すはずがない。

そしてそんな奴等が逃げる職員を放っておくわけないだろう? 今、私達がするべき事は、撃たれるまで走り続けるのではなく、誰かが助けに来るまで隠れることだ。」


ボリスは一息で説明すると大きなため息をついて一言


「分かってくれ」


とだけ付け加えた。

サエが返事をする間もなく出入り口に通じる通路の遠い曲がり角で銃声が起こると、周囲の職員達は完全なパニック状態に陥った。


ボリスはそんな周囲の状況を冷静に見やると、サエに向かって微笑えんだ


「なに、適切に行動すれば運が良ければ助かるし、最悪でも死ぬ順番を最後に回すくらいのことはできるはずだ。」


彼の微笑みにいくらか平静を取り戻したサエは、ボリスに問いかけた。


「でもこれからどうすれば・・・」


ボリスはいつものように顎をさすりながら平然と答えた。


「他の職員に紛れて発着場を抜けて貨物置き場に抜けよう。敵がいるだろうが前と後ろに比べれば可能性はあるだろう。さぁ、こっちだ。」


ボリスはそういうとサエの手を引きながら逃げる職員達に紛れこんだ。


「こんな状態で・・・なんでそこまで冷静でいられるの?」


手を引かれながらサエが尋ねるとボリスは冗談めかして答えた。


「そういうお仕事をしていたのさ。生き残れれば、また話す機会もあるかもな。」


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