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死に神を求めた  作者: 桜餅


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1/1

プロローグ 『▪️を求めた』

 人は、なぜ▪️ぬのだろうか。

 人は、なんのために生きるのだろうか。

 夢を追ってるから、目標があるから。

 きっと、色々あるのだろう。でもそれは結局生きたいのではなく、▪️にたくないだけなのだ。

 なら、人が▪️なない理由を見つけたら、その人はどうなるのだろうか。


「──▪️にたい」


 それは、紛れもない心からの言葉だった。

 だから、少年は跳んだ。

 夢へ翔けろ、という言葉があるように。

 夢へ?未来へ?光へ?──否、▪️へ。

 跳んで、飛んで、浮いて、回って、落ちて落ちて、落ちておちておちておちておちて──

 ──止まった。


「────」


 あまりの衝撃に、少年は言葉を出せなかった。

 痛みではない、起きた事柄にだ。

 地面に打ち付けられるはずだった体は、宙に浮いていた。

 淀みきった瞳に映るのは、月光──ではなく、ナニカだった。

 きっと、この現象は、誰しもが経験したことがあるだろう。

 命を投げ出した少年を止めたナニカは、怪物でも、化け物でもなんでもない。

 きっとこれは──


 ──神様のいたずら。


                     ◇◇◇◇◇


言葉に出来なかった。

そう思う程に、その存在は美しい容姿をしていた。

思わず息を飲む、という言葉はこういうことか、と今更ながらに理解した。

そして同時に、その存在が人ではないということも理解した。無論、飛べる人などいるわけもないが……。ともかく、脳は瞬時に人外と解釈した。だがそれは、美しいを否定しうる材料にはなり得ない。現に少年は、吐露してしまったのだから


「──綺麗」


そう、吐露してしまったのだ、神に。▪️に、神様に。


「───」


その存在は、ゆっくりと近付いて、少年の頬に手を添えた。

大切な物を扱うように、生まれたての子供を抱きしめるような優しい手つきで、顔をペタペタと触る。


「…えっ、と。なに…?」


「いえ、その…ここまで▪️に飢えてる人間が珍しくて」


その存在の口ぶりから、本当に珍しいということはよく分かった。

珍しいというのは、いまいち、納得はできないが。


「▪️に、飢えてる…」


「でも、ダメ」


「ダメ…って」


何が──と発する前に、景色が変わった。

寂れた木造建築に、本来は赤いはずの、聳え立つ2本の柱が表す場所。それは、紛れもない神社だった。

そこは、見たことがあるような、無いような、そんな場所だった。


「おっと…」


優しく地面に降ろされ、立ち上がる。地面の硬い感触と相変わらずの冷たさは、今が現実だと突きつけていた。


「ここには、人も、動物も、感情も、色も、温もりも、何もない。──勿論、▪️も」


「なんで、僕をここに…」


それは、困惑から来たものか、それとも、目的が阻まれた怒りから来るものか。


「それは、あなたが飛び降りたから」


そう言ったその存在は、「いや、違う」と静かに呟き、先ほどの言葉を訂正した。


「あなたが、迷子だから」


「僕が…?」


少年は、ひどく落ち着いた顔と声音でその存在に問い返す。


「僕は…僕の人生は、出口のない迷路みたいなものだ。迷って、迷って、やがて力尽きる。それがきっと、僕の未来なんだ」


少年は、自分の手を握りしめ、「だから」と付け加える。


「そんな人生を送るくらいなら、終わる場所くらいは自分で決めたい」


「…そう。でも、それは許されない」


怪訝な顔で見つめる少年を先導しながら、説明を始めた。


「あなたは、あなたの魂はまだ、導かれる時じゃないから」


「寿命までゆっくり待てって話?」


「ううん、そうじゃない。あなたの魂はまだ、あなたの人生に納得していない。迷路に出口が無いのは、諦める理由にならない。だって、迷路なんて脆い壁、いくらでも壊せるんだから」


「だけど、それは…」


俯く少年の手を、その存在が取って───


「──あなたに、ここの巫女を任せます。私と一緒に、ここを綺麗にしませんか?」


本宮の中央、小さな池の水面に立って、そう告げた。


「巫女…って、僕は男で…」


「性別なんて、ここでは関係ありません。大事なのは、あくまで形」


何故だか、その瞳に吸い込まれるような気がした。けど、不思議と抵抗しようとは思わなかった。


「ここは、冥府神社。私の先生が管理していた神社であり───」


色が、温もりが無いと言われた世界。の、はずなのに。どうしてだろうか。


「──あなたの、新しい家です」


こうも、透明な熱が水面に揺れているのは。


「あぁ、だけど一つ。勘違いしないでください」


人差し指をピコンと立て、ハッキリと告げる。


「ここは、天界とか、地獄とか、そういう場所ではありません。勿論、現世でもない。いわばその境界です」


と言われても、少年には理解のしようがなかった。


「簡単に言うとですね。あなたの体は、まだ現世にも存在してる。つまり、コレからもあの世界で生きて欲しいということです」


「───」


「えぇ、勿論理解していますとも。嫌だってことを。ですが、安心してください。あなたの親は、親族は──あなたのことを覚えていませんから」


突如、意識が引き延ばされるような感覚が少年を襲う。


「ま、待って──」


しかしその言葉が完成する前に、少年は姿を消した。

彩が戻った神社の中央で、その存在は、夜空に浮かぶ太陽を見上げた。


「あなたはまだ、▪️を知らない。知る必要もない。▪️の意義を、意味だけを、この世界で知っていけば良い」


伸ばした手のひらには、桜の花びらが落ちていた。


「だから、そちらの世界では、存分に──愛を、学んでくださいね?」


愛は、人を彩り、▪️は人から色を奪う。

しかし、何色でもない少年には、▪️が救済だった。

──いや、訂正しよう。少年にあるのは、闇。いわば黒色なのだ。真っ暗な心を、魂を綺麗に、真っ白く染めてくれる▪️こそが救済なのだと、信じ込んでいる。

つまり、人が何かする際に神を信じるように、少年もまた、▪️に神を求めているのだ

でも、現実はそうじゃない。愛が、記憶を作り。記憶が色を作り、色が、人を作る。

神なんかではないのだ。

少年に望むのは、幸せになってほしいという理想。


「───なーんて、私が思うのは、傲慢ですかね〜」


かつて、少年を愛し、人々に忘れられ、▪️───死に神を求めて、死神となった少女がそう言った。


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