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ギルド職員の窓口改善

作者: 猫の子子猫
掲載日:2026/03/08

時系列的には「ギルド職員は忙しい」の開始前になります。

ギルド職員は窓口業務が忙しそうだなぁと思ったところで、書いてみたくなりました。

「おい!俺の方が先だろ!割り込むんじゃねぇ‼」

「お前の獲物は、急がないだろ!こっちは鮮度が大事なんだよ!」

「何だとてめぇ!」

そこから始まる口喧嘩があちこちで起きている。時々、殴り合いまでに発展し、副ギルド長が考案した捕縛の魔道具が活躍している。


「ハイハイ!押さないで!次の人~!」

「おう!俺は一角ウサギ5匹討伐してきたぞ。買取してくれ」

「状態確認しますね…。こっちの3匹は角が折れていて、毛皮も傷が多いです…。2匹は角は無傷で、首に切り傷が1箇所で状態良し…。全部で8,000リーブラになりますね」

「安いだろ!一角ウサギは1匹あたり2,000リーブラじゃねぇのかよ!」

「状態が良い2匹は1匹あたり2,000リーブラです。残り3匹は損耗が多いので半額買取になります」

「ふざけんな!お前じゃ話になんねぇ!上司出せ!」


もめている受付窓口の担当は新人さんか…。今にも泣きだしそうな顔になってしまっているのを見て、これ以上の対応は厳しそうだと判断。この先は、本日の受付窓口リーダーの私の出番だろう。


「どうしましたか?」

「あ、リリーさん…。すみません…マニュアルに沿って買取価格などについて説明したんですが、納得してもらえなくて…」

「分かったわ。貴方は臨時カウンターに入って、他の冒険者の対応をお願い」

そう言って窓口に入ると、相手の冒険者には冒険者カードを提示してもらい、本日受けているクエストの内容を確認する。


「対応を代わらせていただきますね。クエストは、毛皮を取り扱う店舗からの依頼ですね。内容は一角ウサギを5匹分で、一角ウサギの皮はなるべく傷つけないで欲しいという要望あり。胴体部分に傷が無い場合は、買取価格に1,000リーブラを上乗せ、胴体部分に傷がある場合は傷1箇所につき300リーブラを減額して買い取るというものです。そして、貴方はクエストを受ける際に、この条件を確認しています。さて、今回持ちこまれた獲物ですが、報酬の上乗せ基準に該当する一角ウサギが2匹、減額基準に該当するウサギが3匹となります」

等々と丁寧に説明して、最後は納得してもらってお帰り頂いた。相手も生活があるので必死なのは分かるが、この後も冒険者達が待っているので早口になってしまったのは仕方ない。


というか、冒険者達は命を懸けてクエストを完了してきているんだよね。獲物を持って来ているから当然飲食店には入れないし、水袋は持っていても携帯食料は持って行かない人もいる。空腹で重い荷物を抱えて帰ってきたところで、長蛇の列だとイライラするよね…。


おまけに窓口担当職員は、全ての案件を受けるのよ。クエストの依頼や受注、獲物の買取、新規冒険者の登録、諸々の手続きの説明等。幅広い事を覚えて案内しないといけないんだけれど、ベテラン職員が大変なんだから新人は言うに及ばず。どうにかしないと。


改善すれば、きっと私達の負担も減るよね!という訳で、改善をしたい。えぇっと、困ったことがある場合は、細分化して考えた方が良いって何かで読んだ気がする…。あれ?どこで読んだんだっけ?この世界は、本って貴重なんだよね。…この世界?なんでそう思ったのかしら。


とりあえず!課題をあげていこう。冒険者はお腹を空かせて疲れて帰ってきているし、重い獲物を抱えている。疲れているのは仕方がないけれど、お腹を空かせていない状態で、獲物が無ければ落ち着けるのでは?どの獲物を誰が狩ってきたかが分かって、それをギルドで預かれれば良いんだよね。そして、列に並んでいる必要が無いように、整理番号を付ける。あ、獲物の鮮度が落ちないように気を付けないといけない…。魔道具で何とかできないか、カッパー副ギルド長に相談してみよう。


カッパー副ギルド長はドワーフ族の女性で、一流の魔道具師。どうしてギルドの特別職をやっているのか不思議。悪徳貴族に監禁されて魔道具を作らされていたのを冒険者に助け出されたときの縁で冒険者ギルドに就職したらしいという噂があるけれど。


打合せ申請をカッパー副ギルド長へ行い、明日の朝、10時から15分間の時間を貰えた。魔道具のアイディアの構想を練っておかないといけない。本当はマジックボックスを沢山用意しておくのが1番良いのだが、大容量の物を用意するのは難しいし、目の前から獲物が消えたら冒険者も不安になるだろう。


魔石など生鮮食品系ではない素材を持ちこむ冒険者については、大きい布を用意して、素材を包み、整理番号のタグを付けるのはどうだろう。そして冒険者には、目の前での査定か、査定終了後の結果だけを聞くかを選んでもらう。結果だけ聞きたい冒険者については、必要になりそうな見込み時間を伝えて出直してもらう。冒険者は早く食事や休憩ができるし、ギルド職員も混雑緩和と処理時間に余裕が出るからWIN-WINなのでは。


生鮮食品系の買取は専用窓口を作り、その場での査定は行わないことを明記。解体作業班のメンバーが傷や状態などを細かくチェックして記録用紙に記入。受注クエストの内容と記録用紙を突き合わせて、査定額を算出する。血みどろになりやすい窓口を絞ることで、他の窓口は清掃する手間が減るから処理できる件数も増えるだろう。


緊張しながらカッパー副ギルド長を訪ねてギルド長室をノックすると、すぐに入室許可の文字がドアに浮かび上がる。どうやら、このドアも魔道具になっているようだ。入室すると、簡単な応接セットにカッパー副ギルド長が座っていた。ギルド長は自分の机で事務作業をしているようだ。


早速、考えた窓口業務の改善の案をカッパー副ギルド長にプレゼンテーションしていく。このために、昨夜は遅くまで資料作りを頑張ったのだ。各種受付に最低必要になる知識、説明の内容は勿論、クレームや喧嘩対応に割かれる時間などもグラフ化しておいた。新人の職員は一番簡単な窓口業務から始め、先輩のフォローを受けつつ実践形式で学んでいく。そして受付マニュアルの整備を含め、段階を追って一通りの窓口業務の知識を3か月程度で習得してもらう。


冒険者が査定の待ち時間を有効活用できることが肝心なので、整理番号のタグに不正防止や盗難防止機能などを付けられれば良いと考えていると説明した。

「良いわねぇ~、整理番号タグと冒険者証を一時的に連動させよぉかしら。後は不正や盗難防止ねぇ…ん~どうやろっかなぁ。ちょっと考えてみるわぁ。ギルド長はリリーさんの発案、どう思うのぉ?」

「そうだな…俺も冒険者だ。空腹で疲れた身体に、待ち時間で時間を潰される事の大変さは知っている。業務改善、良いんじゃないか。リリーさんはカッパーさんが魔道具開発する間、窓口担当職員のメンバーに話を通せ。そうだな…明日からでもいいのではないか?金が掛からない所なら、いつからでも始められるだろ」


その後は受付業務担当のメンバーを集めて、意見を聞いた。ベテラン職員以外は幅広い業務をこなすのは負担に感じていたので、受付業務の分担を分ける事から始めてみることにした。

長いカウンター机には簡単に衝立を立てて、受付窓口を1~5までに区切る。そして、受付窓口それぞれに色を塗る。受付窓口1は赤、2はオレンジ…というように。


次に端切れの板を加工して番号札を作っていく。そして新人職員を案内係に任命する。案内係は冒険者が来た時に用事を聞き担当する窓口に先客がいた場合には、対応する予定の受付窓口の色を塗ってある番号札を渡していく。順番が来たら、窓口の職員が『赤2番で待っている人!』と呼び出せば、列に並ばなくて済むので多少はストレスが減るのではないだろうか。


翌日から早速始めてみる。最初は案内係もぎこちなかったが、暫くするとスムーズに案内が出来るようになった。早朝はほとんどがクエスト受注の手続きが多いのだが、町の門が開いてから獲物を担いで帰還する冒険者もいて、トラブルが多い時間帯の1つだった。でも、クエスト受注窓口を3か所、買取受付窓口1か所、その他の受付を1か所で専用にしたので、混乱なく魔の時間帯を終えることができた。


「すっごーい!リリーさん、このシステム良いですね!それに、忙しい時間帯でも買取窓口が必ず専用であるから、イライラしている冒険者が少なかった!これからも、このシステムでやりましょう!」

「あとは、夕方ですね!この調子ならトラブルも少なさそう…」


夕方の窓口はクエスト受注関係はほとんど無いと見込み、思い切って買取受付窓口4か所とその他受付を1か所にしてみたところ、大当たりした。列になる必要がないから、獲物を抱えた冒険者達が順番を待つ間にバルで食事が出来たりしたため、喧嘩が起こらなかった。怒号や人を殴る音がしないフロアって最高!


冒険者達からの評判も上々で、この体制で受付業務は回していくことに決定した。1か月ほど過ぎた頃に、カッパー副ギルド長が上機嫌で窓口が閑散としている昼頃にやって来た。

「できたわよぉ!リリーさんからのリクエストを受けたタグ!同じ整理番号3枚で1組、その場で冒険者証と連動させられるから、整理番号を横取りされたりしたら、即バレの優れモノ。で、こっちが簡易的だけれども獲物の鮮度を下げない処理をした大きい布ね。これも魔道具になっていて、整理番号と連動していてギルド職員じゃないと取り外し不可になっているのぉ。冒険者がギルドに預けても良いって言う場合にだけ使ってねぇ。で、カウンターの中の荷物置きように、ギルドのマジックパックを窓口用として貸し出すわぁ」


すっごい!超ハイスペックな魔道具を開発してくれた副ギルド長に、受付担当職員一同が完成をあげて感謝を伝えると、照れてしまったのか手をひらひらとさせてギルド長室へと帰って行ってしまった。


夕方、疲れて帰ってきた冒険者達に今回の窓口変更点を説明するが、警戒をしているのか獲物を預けてくれる冒険者がいない…。ギルド職員を信用していない訳ではないのだろうが、目の前での査定じゃないと不安みたいだ。


「おう!何だ何だ~。ギルドに獲物を預けて、後で査定の結果だけ聞ける?不正防止に記録までやってくれるのか、便利だな~。俺の獲物、預けるぜ」

そう言って、ドンっと買取窓口にコカトリスを置いたのはA級冒険者のソレノドンさん。ニカッと笑うと、受け取った整理番号タグを冒険者証をかざして連動させてくれた。


窓口でコカトリスを魔道具の布で包んで口を縛り、1枚目のタグを付ける。2枚目はソレノドンさんへ、3枚目は査定待ちが何人いるのか一目でわかるようにタグを掛けられる板へと吊るす。

「じゃ、頼むな~。リリーさん、大体どの位待てば良いんだ?」

「そうですね、この混雑具合だと約1時間程度お待ちいただければと」

「おう!浴場へ行って飯も食えそうだ。じゃあ、よろしく」

そう言うと颯爽とギルドから出ていった。


その様子を見ていた他の冒険者達が、「俺たちも試しに預けるか…」「ソレノドンがやるなら、俺たちも」という囁きが広がったかと思うと、買取窓口に並んだ冒険者の半分位が査定結果を後から聞くという方法を選択してくれた。


1時間が過ぎた頃に、再びソレノドンさんが現れた。その頃には買取窓口も落ち着いてきていたので、査定結果を伝える窓口を1か所設けていたので優先的に呼び出して窓口へと案内する。整理番号のタグを回収、結果を伝え、報酬金額の支払いをあっという間に行うことが出来た。勿論、報酬金額について異論を言う冒険者に備えて獲物の状態は詳細に記録している。


「いいな!このやり方は、俺は気に入ったぜ。腹減らしながら列に並んで長時間待たなくて済むんだもんな!これ考えた奴、天才だ!」

「リリーさんが考えてくれたんですよ~。喧嘩を止めるのも大変だったんですから私達も大助かり。感謝はリリーさんに伝えてくださいね!」

そんなソレノドンさんと、応対しているジャンヌさんのやり取りが聞こえてきた。心なしか2人とも声が大きくて、もしかしたら今日は後から査定の方法を選ばなかった冒険者達に向けて利点を伝えてくれているのかもしれない。


窓口の改善を提案してから1か月後、冒険者ギルドの中で乱闘騒ぎが起きなくなり、受付も円滑に進むようになったと皆から認められた私は、ようやく一人前のギルド職員になったのかなぁと実感できたのだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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