風呂に感動した異世界第一王女
“勇者によって魔王は倒された”
ある日、そんな風の噂が城に届いた。
城は大騒ぎ。
「勇者殿が魔王を倒された!!」
「いや!!まだ本当と決まった訳ではない…!」
「噂話を鵜呑みにするな!!」
など、噂程度にもかかわらず騒いでいた。
というのも当然なのだろう。
魔王が現れ現世を支配してきたのは約50年前。
勇者とは異世界から召喚した人間のことを指す。
今まで召喚してきた数は何十人。明確な数は忘れた。
ある人間は“勇者”の肩書を利用し、この国を支配しようとした。
ある人間は立ち向かうもすぐにやられた。
ある人間は魔王側に寝返った。
……など、この50年まともな異世界人は来なかったのだ。
もしかしたら異世界人は皆んな狂っている?という意見が飛び交うほど。
そんな中で今回のことがあったのだ。
その話に飛びつきたいのも無理はないのだろう。
私が生まれてから、父上も母上も“勇者”“魔王”と、私のことなど相手にしてくれなかった。城の皆も同じ。きっと戦力が欲しかったんだ。
召喚の術は王族の血が絶対というほど必要になってくる。
だからこそ、結婚して早々私を産んだのだ。
この国で王子なんてものは二の次。
この国王族の血を継いだ子供がいることが重要。
だが、勇者が魔王を倒したとなると話は別。
父上達が王子を産めば、私は殆ど必要なくなる。
第一王女としても所詮は女だ。
私はさっさと嫁いだほうがいいのだろうな。
正直、魔王が死のうと死なないと、私にとってはどうでもいい。
________________________________
噂話に城が混乱して数日、勇者がパーティーを引き連れて帰ってきた。
心のどこかで、嫌だと思う自分がいた気がした。
あの後、盛大な宴が催された。
街でも国でもどんちゃん騒ぎ。
お酒を飲む人々はいつもより表情が明るい気がした。
勇者はこの国英雄として、今後語り継がれていくのだろう。
私はもう、自分のやれる重大な仕事が無くなってしまった。
生きていることが国民にとって幸せ?
そんなことはない。魔王やら勇者やらで皆私が生まれたことを知っているか定かではないからだ。
勇者を憎もうとは思っていない。
魔王によってこの国の治安が悪くなったのも臭気が漂い、食糧が満足に取れなかったのも事実だったからだ。
宴が終わり、床で寝ている衛兵や大臣、父上を横目に
目が冴えてしまった私は散歩をすることにした。
「今からどうなるのだろうか……私は、これから何をすればよいのだろう」
嫁ぎにいくのはいい。
だけど、今私は齢13。世間的にも見合いの年齢にしてもまだまだ子供と言われる年齢。何をして時間を潰せば良いのだろうか。
勉強は全て幼い頃に叩き込まれた。武術も自衛できるほどには嗜んだ。
………本当に、何をすれば良いのだろうか
「あ〜…風呂入りてぇな〜流石に水だけで体拭くのはきついし……」
「………ふろ?」
「……あ、王女様。まだ寝ておられなかったのですね」
勇者が、街を眺めながら独り言を呟いていた。
ふろ……とはなんだろう。入る……?
「えぇ、勇者殿。ふろ…?とはいったいなんなのですか?」
「えっと…俺の世界の…体を拭くのと一緒です!風呂はそれとは別に、暖かいお湯に浸かったり、そのお湯で体を洗うんです!」
「………何故そのような贅沢を?体を拭くだけでも十分清潔さは保たれるのでは?」
「確かにそうです。ですが、お湯に浸かることで血行が良くなって体調が良くなったり、ストレス軽減、疲労回復の効果もあるんです!
……まぁ調べただけなんですけど…」
「なるほど…よく分からないけど確かに良いかもしれませんね。私もその風呂…?とやらをやってみたいですし、明日準備させましょう」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
風呂………お湯に浸かることで何故疲労回復するのかよく分からないが、
少しやってみたい。
やってみたい、など久しぶりだし
_________________________
後日。使いに人が入れるくらいの囲いを用意してもらった。
そこに大量のお湯を入れる。お湯は魔法だ。
「お〜魔法ってやっぱり便利っすね…元の世界に言ったらもっと発展してそうだな…」
「勇者殿、先に入ってもいいでしょうか?」
「えぇ、構わないですよ。お湯に入る前に体を拭くのをお勧めします!」
聞くと、先に体を洗うことで垢や汗を流せるのだと。
その後に入るとスッキリして更に気持ち良く入れるのだそう。
ちなみにお湯を入れるのは湯船、や浴槽と言うらしく“入る”と言うのが一般的らしい。
先に体をいつも通り洗う。いつもはぬるま湯に布を浸して拭いているから少し違和感がある。
そして入浴。少しずつ足を入れるとなんとも言えない多幸感に溢れた。
「すごい…!!足を入れるだけでなかなかに気持ちが良い……!」
全身が浸かると今までの緊張やストレスが抜けていくようだった。
嘘みたいに体が軽くなり溢れんばかりの興奮を抑えるのに必死だ。
多分この興奮を解放すると水をバシャバシャと手で叩いて足もバタバタとするだろう。
「はぁ〜………幸せ…こんな娯楽があったとは知らなかったわ……」
たかがお湯に浸かるだけ。しかも用意するのだって楽じゃない。
こんな贅沢意味がないと思っていたけれど……
なるほど、確かにこれは効く。
体の芯という芯がぐにゃぐにゃになるほどには緊張から解き放たれる。
___________________________
「勇者殿!!」
「あ、王女様……って、その様子だと満足していただけたようですね」
「ええ、とても良い時間でしたわ。教えてくださりありがとう。……この文化、もっと広まっていいと思うのだけれど」
「まぁ王女様が言った通り手間がかかります。お金もかかってしまいますしね」
「ふむ……………なるほど……わかりました。では今から私は風呂の文化を広めるため、できる限りのコスト、手間の削減を目標に頑張らせていただきます」
「………え?いやいやそんなこと王女様がやる意味は…」
「いえ、私魔王がいなくなって仕事が殆どなくなりまして……
久しぶりに興味が出たからやらせていただきますわ。
そうとなれば早速案を出さなければ。勇者殿、少し協力して欲しいです」
「は、はぁ…………俺にできることがあればいくらでもやりますけど……」
「では今から執務室に行きましょう。そして父上と母上にも風呂に入ってもらい、この計画を進める許可をいただかないと。さぁ、行きましょう!!」
_________________________
かくして、今までずっと感情に冷め切っていた王女の「風呂文化拡散計画」の幕が開けた。
風呂によって溶かされた姫の情熱は、しばらく止まることを知らないだろう。
それに連れ回される勇者。きっと苦労者になってしまうことだろう。
因みにこの計画名は王女が勇者に無理やり考えさせた名前である。




