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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

■■■達の狂騒曲 case-ソードマン

作者: 鍔柄鞘刀身
掲載日:2026/01/25

 名もなき大陸の名もなき大地。

 名もなき大地の名もなき洞窟。

 依然、誰の手にも掛かっていない無垢の空間。

 そこに、足跡が続いていた。まだ真新しいそれは、つい先ほど刻まれたものらしい。

 これを辿り続けること暫く。やがて、洞窟を進む一つの影の発見に至る。

 それこそが、洞窟に足跡を刻んだ張本人だった。

 丈夫な布地で作られた装束。

 両手には頑丈な皮手袋。

 両足には悪路を進むことを前提として作られたブーツ。

 上から羽織った被り付きの厚手の外套。

 どれも、おおよそ普段使いとは縁のないものだ。

 それに加え、片腕には盾。何重にも頑強な鱗を重ねた丸盾。

 そして腰には一振りの剣。茶褐色の鞘に覆われた片手剣、鋼鉄の剣。

 果たして、何者なのか。

 何らかの攻撃から、身を守ることを意識した盾。護身ではなく、攻撃を求めた剣。その身に纏うのは戦闘を前提とした装備ばかり。

 何者なのか。

 ただ、只者ではないことだけは明らかだった。

 気配だ。剣先を思わせる鋭い気配が、全身から常に迸っている。

 旅人なのは明白……しかし、どう見ても只物とは縁遠いが故、その呼称を旅人に限定するのは、どこか言葉が足りなく思える。

 何か、それ以上に似つかわしい言葉がある。そう思えてならなかった。

 人影は黙々と歩を進める。

 つま先は目の前に広がる暗闇を射抜かんばかりに、真っ直ぐ彼方へ注がれている。

 一体、どこを目指しているのか。恐れの欠片もなく、只管に洞窟を進み続ける。

 その最中……ふと、その足が止まる。

 深々と被ったフードを微かに上げる。いつ現れたのか。それとも最初からそこにいたのだろうか。

 いつしか、その周囲に邪悪な気配が満ちていた。

 耳を澄ませば、聞こえてくる。

 その目を凝らせば見えてくる。

 なにもせずとも、流れてくる。

 吐息が。瞳が。存在感が。

 薄暗き獣たち……魔物の気配が。

 ぐるりと周囲を見渡す。魔物は群れとなり、かの者を囲うようにその姿を見せた。

 バリエーションもまた豊富。羽蟲、蝙蝠、蛇、植物、石……あらゆる姿の魔物が蠢いていた。総じて持ち得る共通点は、その身に纏う邪悪な気配くらいのものだ。

 これに対し、人影もまた動き出した。

 腰に括りつけた剣。

 その柄に、手を掛けた。

 これを狼煙として咀嚼したのだろう。

 瞬間、大量の気配が地を蹴った。

 牙が鳴り、炎が舞い、地響きが膨れ上がる。

 怒号にも似た音の嵐の内側で、鞘鳴りの音が響く。

 そして、剣閃が駆け抜けた。


⚔️ ⚔️ ⚔️


 世界はあらゆる不思議を生み育てた。

 そのうちの一つ、ダンジョン。

 それは魔物が潜み、罠が潜み、多くの危険を備えた謎の空間。

 その空間を旅する者達がいた。

 彼等は■■■と呼ばれた。


⚔️ ⚔️ ⚔️


「疾風剣」

 ■■■が剣を振るいつつ、一瞬にして敵陣を駆け抜けていく。あまりの速さで繰り出された斬撃が、同時に四体の魔物を斬り払い、打ち倒す。その素早さ、身のこなしはまさに疾風のそれだった。

「貫通剣」

 今度は刺突だ。鋭く前方へ繰り出された剣先から衝撃が迸り、軌道に立ちはだかる魔物を次々と貫いていく。

「拡散剣」

 斬撃。正面に振り抜かれた斬撃が三つに拡散、獣の爪痕を思わせる痕跡を残しつつ多くの魔物を巻き込んで進む。

 疾風、貫通、拡散……それぞれの言葉を冠する剣技によって魔物の群れに沈黙が落ちた。地面、壁、宙……見渡す限り、蠢くものはもういない。

 だが、まだ終わっていない。

 このエリアに充満する気配が訴えている。魔物の存在を。それも、一際強力な魔物の出現を。

 どこにも姿は見えない。

 それでもわかる。

 何かが、来る。

 そう思った時、既にそれは姿を現し始めていた。

 正確には、その一部が。

 ■■■の頭上に漂う闇の中から、巨大な剣が現れた。

 これに遅れ、大剣に等しい巨躯が姿を見せた。

 ■■■の倍に近い、大柄な体躯。

 背より生えた八枚の薄斬羽。

 腹先より伸びた針……いや、大剣。

 大剣の先端から順に根本へ辿れば、この得物が決して独立した武器ではなく、その魔物から伸びた一部分であることが伺える。

 大剣操る羽蟲の魔物。名を、バスターソードホーネット。

 それによって繰り出された兜割り……これが■■■に振り下ろされようとしていた。


⚔️ ⚔️ ⚔️


 痛恨、会心、クリティカル……その何れかの単語を冠する一撃を前に、爆発的に膨れ上がった粉塵が周囲を覆う中、これを切り裂き、内側から飛び出す影があった。

 ■■■だ。兜割りを受ける寸前、背後に跳び、回避を目論んだ結果だった。

 その身体は靴底を減らしながら地面を滑り、やがて止まった。目論見は成功したらしい。その肉体に、ダメージはない。

「……」

 ■■■が顔を上げた。徐々に薄れゆく粉塵の渦中、魔物が地面に埋まった大剣を引き抜いた。相当深い場所にまで到達したのだろう。大剣を抜く最中、いくつもの瓦礫が溢れ落ち、鈍い音を立てた。

 大剣を埋めていたその場所には深く巨大な裂け目が生じ、これにより周囲に伝染した衝撃は、いくつもの亀裂となってダンジョンを駆け抜けていた。

 バスターソードホーネット……その攻撃力の水準は、見ての通りだ。

 技量も決して低くはない。熟達した剣士が身につける熟練の技、歴戦の技をも身につけたその姿はまさに攻防一体。

 そんな魔物が繰り出す全身全霊の兜割り……こんなものをまともに受けては、到底平気ではいられない。下手をすれば生物としての原型すら残らないだろう。

 バスターソードホーネットは自慢の大剣を構え、次の邂逅に備えていた。今度こそ粉砕の一撃を叩き込むつもりらしい。全身から溢れ出す好戦的な気配からして、自ずと斬りかかるのは時間の問題だ。かと言って下手に飛び込めば、今度はカウンターの餌食になりかねない。どちらにしても、喰らえば最後、ただでは済まない。

 技量といい、威力といい、この魔物に生半可な攻撃は通じない。

 生半可な攻撃では通じない。

 生半可な攻撃なら、通じない。

「……」

 ならば、完璧な攻撃を仕掛けるまでだった。

 ■■■が得物を、鋼鉄の剣を深々と構えた。その両手が柄を砕かんばかりに握りしめる。溜め込んだ力に、剣が震える。強力に引き絞られ、今か今かと放たれる時を待つ矢のように。

 一秒が経ち、

「……」

 二秒が過ぎ、

「…………」

 三秒を越え、

「………………!」

 矢は弾けた。

 ■■■が剣を連れ、大地を蹴る。

 一閃がダンジョンを駆け抜けた。


⚔️ ⚔️ ⚔️


 気づけば、■■■の身体は魔物の背後にあった……剣を振り抜き、剣先を地面に落とした格好で。

 瞬くことすら許さない。

 瞼を落とす暇もない。

 それほどまでに素早く、鋭利な斬撃だった。あらゆる攻撃を防ぐという鋼鉄の王たる魔物でさえ、この攻撃の前には傷を許すのではないか?……そう思わせるほどの鋭い一閃だった。

 ■■■が剣を振り払う。剣身から破片が払い落とされ、曇りのない刃が晒される。

 その背後で、痛ましい音が響き始めた。

 背後には、大剣を構えたバスターソードホーネット。その構えた大剣の表面に刻まれた一筋の斬痕、これを起点に罅が次々と大剣を侵食していく。それが、あの痛ましい音の正体だった。

 やがて大剣がへし折れ、その刃が地面に重く突き刺さった。

 これを追い、魔物の爛々と輝く瞳から光が消える……その直後のことだった。

 バスターソードホーネットの、その宙を飛翔する肉体が、不意に動きを止めたのは。

「迅雷剣」

 より鋭く、より素早く。疾風を超えた、迅雷の如き斬撃。これを前に、かつて大剣の名を冠した魔物は落ち、地面に崩れた。剣技の孕むダメージは、魔物の生命力を遥かに上回っていた。

 後には、物言わぬ塊が転がるばかりだった。

 ■■■はこれを一瞥し、何事もなかったかのように再びダンジョンの奥へとつま先を向ける。

「!」

 多くの魔物を倒した。いわゆる強敵に位置する魔物も打倒した。……しかし、ダンジョンというものは、どこまでも甘さとは無縁らしい。いかに多くの魔物が打ち倒されようと、強者たる魔物が斬り倒されようと、これ以上先へ進ませるつもりは毛頭ないのだろう。

「……!」

 進んだのは、たったの一歩。そこで■■■は足を止めた。

 いつの間にか、前方に広がる闇の中に、いくつもの光が輝いていた。時折瞬くその光の正体は……もはや言うまでもない。

 大量の魔物の群れが、そこにいた。

 まだ大した距離を進んでもいないというのにこの始末だ。大量の魔物の群れに始まり、強力な魔物の唐突な出現、戦いを終え、足を踏み出せば再びエンカウント……次々と襲い来る脅威に、流石の剣腕も多少の鈍りを見せてもおかしくはない。

 これを絶好の機会と咀嚼したのか、闇の中から飛び出す影があった。その詳細までは分からない。魔獣の系譜か、それとも別の系統に位置する魔物なのか、この速さの前では何一つ見破れない。一つだけ言えるのは、それほどの速度で攻撃を仕掛けられるだけの素早さを持つ魔物ということぐらいだ。

 魔物は真っ直ぐに■■■の下へと駆け、牙か、爪か、または刃か、自らの得物を突き立てようと迫り、そして、

『……!』

 真っ二つに粉砕された。

 斬り分かれた影は■■■の脇を通り抜け、背後の闇の中へと消えていく。質量ある物体が地面に落ち転がる音を最後に、■■■の背後に沈黙が落ちた。

 ■■■が剣先を上げ、蠢く魔物の群れへと向ける。

 変わらない。

 何一つ、変わっていない。

 剣技だけではない。全身から迸るその気配もまた、鈍りの欠片も抱いていなかった。

 再び、耳を澄ませば聞こえ、目を凝らせば見え、なにもせずとも気配が流れる。

 ぐるりと周囲を見渡す。

 じろりと正面を見据える。

 魔物は大群となり、■■■を阻むようにその姿を晒した。

 バリエーションはまたもや豊富。鋼鉄の巨人、大剣を背負った甲冑、三つ首の魔獣、大弓を帯びた羽蟲、蠢く大樹……多種多様な姿の魔物が蠢いている。

 多彩な種族に溢れる中、総じて持ち得る共通点はその身に纏う深く邪悪な気配、そしてツワモノ特有の強大な気配だ。

 ■■■が動き出す。

 握りしめた鋼鉄の剣。

 その柄を、握り直す。

 これを挑戦として受け止めたのだろう。

 刹那、強大な気配は地を蹴った。

 鋭牙が輝き、爆炎が噴き、鳴動が舞い踊る。

 爆発を連想する大嵐を前に、剣閃が煌めいた。

 剣光が闇を斬り裂いた。


⚔️ ⚔️ ⚔️


 世界はあらゆる不思議を生み育てた。

 そのうちの一つ、ダンジョン。

 それは魔物が潜み、罠が潜み、多くの危険を備えた謎の空間。

 その空間を旅する者達がいた。

 彼等は<冒険者>と呼ばれた。


もう一つの作品「冒険者達の狂騒曲」のプロローグ用にと作成したキャラクターをもう少し形あるものにしたいと思い、冒頭部分にストーリーを肉付けしてみた作品です。

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