表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

■■■達の狂騒曲 case-ソードマン

作者: 鍔柄鞘刀身
掲載日:2026/01/25


 名もなき大陸の名もなき大地。

 名もなき大地の名もなき洞窟。

 依然、誰の手にも掛かっていない無垢の空間。

 そこに、足跡が続いていた。まだ真新しいそれは、つい先ほど刻まれたものらしい。

 これを辿り続けること暫く。やがて、洞窟を進む一つの影の発見に至る。

 それこそが、洞窟に足跡を刻んだ張本人だった。

 丈夫な布地で作られた装束。

 両手には頑丈な皮手袋。

 両足には悪路を進むことを前提として作られたブーツ。

 上から羽織った厚手の外套。

 どれも、おおよそ普段使いとは縁のないものだ。

 それに加え、片腕には盾。何重にも頑強な鱗を重ねた丸盾。

 そして腰には一振りの剣。茶褐色の鞘に覆われた片手剣、鋼鉄の剣。

 果たして、何者なのか。

 その身に纏うのは戦闘を前提とした装備ばかり。

 何らかの攻撃から、身を守ることを意識した盾。

 護身ではなく、攻撃を求めた剣。

 ただ唯一、只者ではないことだけは明らかだった。

 気配だ。剣先を思わせる鋭い気配が、全身から常に迸っている。

 旅人なのは明白……しかし、どう見ても只物とは縁遠いが故、その呼称を旅人に限定するのは、どこか言葉が足りなく思える。

 何か、それ以上に似つかわしい言葉がある。そう思えてならなかった。

 人影は黙々と歩を進める。

 つま先は目の前に広がる暗闇を射抜かんばかりに、真っ直ぐ彼方へ注がれている。

 一体、どこを目指しているのか。恐れの欠片もなく、只管に洞窟を進み続ける。

 その最中……ふと、その足が止まる。

 いつ現れたのか。それとも最初からそこにいたのだろうか。

 いつしか、その周囲に邪悪な気配が満ちていた。

 耳を澄ませば、聞こえてくる。

 その目を凝らせば見えてくる。

 なにもせずとも、流れてくる。

 吐息が。瞳が。存在感が。

 薄暗き獣たち……魔物の気配が。

 ぐるりと周囲を見渡す。魔物は群れとなり、かの者を囲うようにその姿を見せた。

 バリエーションもまた豊富。羽蟲、蝙蝠、蛇、植物、石……あらゆる姿の魔物が蠢いていた。総じて持ち得る共通点は、その身に纏う邪悪な気配くらいのものだ。

 これに対し、人影もまた動き出した。

 腰に括りつけた剣。

 その柄に、手を掛けた。

 これを狼煙として咀嚼したのだろう。

 瞬間、大量の気配が地を蹴った。

 牙が鳴り、炎が舞い、地響きが膨れ上がる。

 怒号にも似た音の嵐の内側で、鞘鳴りの音が響く。

 そして、剣閃が駆け抜けた。


⚔️ ⚔️ ⚔️


 世界はあらゆる不思議を生み育てた。

 そのうちの一つ、ダンジョン。

 それは魔物が潜み、罠が潜み、多くの危険を備えた謎の空間。

 その空間を旅する者達がいた。

 彼等は■■■と呼ばれた。


⚔️ ⚔️ ⚔️



「疾風剣」

 ■■■が剣を振るいつつ、一瞬にして敵陣を駆け抜けていく。あまりの速さで繰り出された斬撃は僅かなズレもなく同時に四体の魔物を斬り払い、打ち倒した。その素早さ、身のこなしはまさに疾風のそれだ。

「貫通剣」

 今度は刺突だ。鋭く前方へ繰り出された剣先から衝撃が迸り、軌道に立ちはだかる魔物を次々と貫いていく。

「拡散剣」

 最後に、斬撃。正面に振り抜かれた斬撃が三つに拡散、爪痕のような痕跡を残しつつ多くの魔物を巻き込んで進む。

 疾風、貫通、拡散……それぞれの言葉を冠する剣技によって魔物の群れに沈黙が落ちた。地面、壁、宙……見渡す限り、蠢くものはいない。

 だが、まだ終わっていない。

 このエリアに充満する気配が訴えている。魔物の存在を。それも、一際強力な魔物の出現を。

 どこにも姿は見えない。

 それでも、わかる。

 何かが、来る。

 そう思った時、既にそれは姿を現し始めていた。

 正確には、その一部が。

 ■■■の頭上に漂う闇の中から、巨大な剣が現れた。

 これに遅れ、大剣に等しい巨躯が姿を見せた。

 ■■■の倍に近い、大柄な体躯。

 背より生えた八枚の薄斬羽。

 腹先より伸びた針……いや、大剣。

 大剣の先端から順に根本へ辿れば、この得物が決して独立した武器ではなく、その魔物から伸びた一部分であることが伺える。

 大剣を操る羽蟲の魔物、バスターソードホーネット。

 それによって繰り出された兜割り……これが■■■に振り下ろされようとしていた。


⚔️⚔️⚔️


バスターソードホーネット

 危険度

  ・B(一流の■■■と同格)

 系統:

  ・蟲

 特徴:

  ・腹先の針が武器と化した巨大な魔蟲。

  ・伸ばした大剣の頑強さは鋼鉄にも勝るとも劣らない。

  ・繰り出される剣技は熟練の剣士をも上回る。


  ・集団で行動することの多い蟲系統の中でも孤高を好む珍しい魔物。

  ・腕試しとして強さ関係なく■■■に果敢に挑む。

  ・■■■の中でも剣士を好んで攻撃するらしい。


⚔️⚔️⚔️


 バスターソードホーネットが地面に埋まった大剣を引き抜いた。相当深い場所にまで剣を埋めていたらしい。大剣を抜く最中、いくつもの瓦礫が溢れ落ち、鈍い音を立てていく。

 今の今まで大剣が埋まっていたその場所には深く巨大な裂け目が出来、これにより周囲に伝染した衝撃は、いくつもの亀裂となってダンジョンを駆け抜けていた。

 それだけではない。身構えるより早く繰り出した兜割り、そこから次々と繰り出される斬撃の数々はダンジョンに多大なダメージを重ね、今や地面はもちろん天井から壁、至るところに斬撃の痕跡が刻みつけられている。

 バスターソードホーネットの攻撃力は見てのとおり、非常に高い水準にある。

 反面、肉体そのものの防御力こそ低いが、大剣として使われる部位に限っては驚くべき頑強さ、つまりは防御力を誇っている。自らに降り注ぐ攻撃には、この腹先より伸びた大剣を以て対応することで命を守っているというわけだ。

 技量も決して低くはない。熟達した剣士が身につける熟練の技、歴戦の技をも身につけたその姿はまさに攻防一体。これが高い危険度を誇る魔物として名を馳せる理由の一つだ。生半可な攻撃は通じない。

 ……生半可な攻撃なら、通じない。

「…………!」

 ■■■が鋼鉄の剣を深々と構えた。その両手が柄を砕かんばかりに握りしめる。

 溜め込んだ力に、剣が震えた。強力に引き絞られ、今か今かと放たれる時を待つ矢のように。

 一秒が経ち、

 二秒が過ぎ、

 三秒を越えて……

「!」

 矢が弾けた。

 ■■■が剣を連れ、魔物の懐へ飛び込んだ。目にも止まらない、恐るべき俊敏さによる特攻だ。

『!』

 疾風のごとき素早さを以ての接近……これに対し、バスターソードホーネットは自慢の大剣を目の前に翳す。大剣の頑強さに物を言わせた防御の構えだ。攻撃を受け止め、そのうえでカウンターを、粉砕の一撃を叩き込む腹づもりか。

 鋼鉄の剣を大剣が迎え撃つ。

 ■■■の剣撃が魔物の身体へ繰り出される。

 鋼鉄同士がぶつかり合う、けたたましい音が響き渡った。


⚔️ ⚔️ ⚔️


 気づけば、■■■の身体は魔物の背後にあった。剣を振り抜き、剣先を地面に落とした格好で。

 瞼を落とす暇もない、素早く、鋭利な斬撃だった。

 あらゆる攻撃を防ぐという鋼鉄の王たる魔物でさえ、この攻撃の前には傷を許すのではないか?そう思わせるほどの鋭い一閃だった。

 ■■■が剣を振り払う。剣身から破片が払い落とされ、曇りのない刃が晒される。

 その背後で、痛ましい音が響き始めた。

 バスターソードホーネットが掲げた大剣、その表面に付けられた一筋の斬痕、これを起点に罅が次々と大剣を侵食していく音だった。

 やがて、大剣がへし折れ、その刃が地面に重く突き刺さった。

 これを追い、魔物の爛々と輝く瞳から光が消える……その直後のことだった。

 バスターソードホーネットの、その宙を飛翔する肉体が、不意に動きを止めたのは。

「斬鉄剣……!」

 かつて大剣の名を冠した肉が落ち、地面に溢れた。斬撃によるダメージに生命力が耐えきれなかったらしい。

 後には、物言わぬ塊が転がるばかりだった。

 ■■■はそれを一瞥すると、何事もなかったかのように再びダンジョンの奥へと歩み始めようとする。

 多くの魔物を倒した。

 いわゆるツワモノに位置する魔物も打倒した。

「!」

 しかしダンジョンはどこまでも甘さとは無縁らしい。いかに多くの魔物が打ち倒されようと、強者たる魔物が斬り倒されようと、これ以上先へ進ませるつもりは毛頭ないのだろう。

「……!」

 ■■■が足を止めた。いつの間にか、前方に広がる闇の中に、いくつもの光が輝いていた。時折瞬くその光の正体は……もはや言うまでもない。

 大量の魔物の群れが、そこにいた。

 まだ大した距離を進んでもいないというのにこの始末だ。大量の魔物の群れに始まり、強力な魔物の唐突な出現、戦いを終え数歩を進めばまた魔物の群れとのエンカウント……次々と襲い来る脅威に、剣腕も多少の鈍りを見せてもおかしくはない。

 これを絶好の機会と咀嚼したのか、闇の中から飛び出す影があった。その詳細までは分からない。魔獣の系譜か、それとも別の系統に位置する魔物なのか、この速さの前では何一つ見破れない。一つだけ言えるのは、それほどの速度で攻撃を仕掛けられるだけの素早さを持つ魔物ということぐらいだ。

 魔物は真っ直ぐに■■■の下へと駆け、牙か、爪か、または刃か、自らの得物を突き立てようと迫り、そして、

『……!』

 真っ二つに粉砕された。

 斬り分かれた影は■■■の脇を通り抜け、背後の闇の中へと消えていく。質量ある物体が地面に落ち転がる音を最後に、■■■の背後に沈黙が落ちた。

 ■■■が剣先を上げ、蠢く魔物の群れへと向ける。

 変わらない。

 何一つ、変わっていない。

 剣技だけではない。全身から迸るその気配もまた、鈍りの欠片も抱いていなかった。

 再び、耳を澄ませば聞こえ、目を凝らせば見え、なにもせずとも気配が流れる。

 ぐるりと周囲を見渡す。

 じろりと正面を見据える。

 魔物は大群となり、■■■を阻むようにその姿を晒した。

 バリエーションはまたもや豊富。鋼鉄の巨人、大剣を背負った甲冑、三つ首の魔獣、大弓を帯びた羽蟲、蠢く大樹……多種多様な姿の魔物が蠢いている。

 多彩な種族に溢れる中、総じて持ち得る共通点はその身に纏う深く邪悪な気配、そしてツワモノ特有の強大な気配だ。

 ■■■が動き出す。

 握りしめた鋼鉄の剣。

 その柄を、握り直す。

 これを挑戦として受け止めたのだろう。

 刹那、強大な気配は地を蹴った。

 鋭牙が輝き、爆炎が噴き、鳴動が舞い踊る。

 爆発を連想する大嵐を前に、剣閃が煌めいた。

 剣光が闇を斬り裂いた。


⚔️ ⚔️ ⚔️


 世界はあらゆる不思議を生み育てた。

 そのうちの一つ、ダンジョン。

 それは魔物が潜み、罠が潜み、多くの危険を備えた謎の空間。

 その空間を旅する者達がいた。

 彼等は<冒険者>と呼ばれた。


もう一つの作品「冒険者達の狂騒曲」のプロローグに登場したキャラクターをもう少し形あるものにしたいと思い、冒頭部分にストーリーを肉付けしてみた作品です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ