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 スキルというのがある。


 大抵の場合、〈スカ〉と呼ばれ何の能力も持たない「殻」のみのものが大半だけれど、極稀に中身の入ったスキルが芽生える。五歳から十歳までの内に身体には模様が現れ、それがスキルの発現をあらわす。


 ある村に当時七歳の少年がいた。


 少年の名前はジョー・シミズといった。


 農家の次男で、こころのおだやかないい子だった。花々を愛し、動物に囲まれ昼寝をするのが似合う、そういう少年だった。


 少年の背中には大きな模様が浮かび上がっていた。


 一緒に風呂に入っていた十四歳の兄のリューがそれに気付いた。


 教会で見てもらったところ、〈糸使い〉という、糸を操るスキルが芽生えていたのがわかった。


 両親やリュー、そして妹のミャーは大いに喜んだ。


 そして、村のみんなも「この村から二人目の能力者だ」と喜んでいた。


 中身のあるスキルを芽生えさせたのは、とても喜ばしいことだと判別していたのだ。


 ジョーは〈糸使い〉のスキルを真っ先に使ってみせたのは、両親でもきょうだいでもなく、幼馴染の獣人スルム・ケイだった。


 獣人というの、人のような骨格と身体構造に獣のような全身を包み込む毛皮やその他の動物的特徴を持つ種族である。


 そして、特定の性別を持たない。


 スルムは小太りのオオカミ獣人で、ジョー同様におだやかな性格をしていた。裁縫用の糸を母親から借りて、ジョーが動かしてみせると、ワアと喜んだ。


 その喜ぶ顔が嬉しくて、何でも動かせるように頑張った。八歳になる頃、糸を布に刺しておばけのようにふわふわと動かせるようにもなった。


 しかし、ある時になって状況が一変する。


 村に魔人族の団体がやってきて、ハチャメチャに荒らしていったのだ。魔人族は全員が中身のあるスキルを持つ強力な存在でかつて地球を破壊しようとしたので人類との総力戦の末に血ごと封印されていたものだが、それがどうやら封印が解かれたらしい。


 地球や純人族──いわゆる我々のような何の特徴もない種族──獣人族・竜人族を玩具にしようもまたも暴れ始めたのだ。


 それにより、村人たちは多く殺された。


 ジョーの目の前で両親と妹が殺された。


 リューはジョーを抱え上げて、地下にある緊急用シェルターに逃げこんだ。そのシェルターの中にはスルムの家族がおり、放心するジョーを迎え入れた。


 魔人族の笑い声が高く響いてくる。


 リューはたまらなくなって壁にかけてあった剣を持って表に出ていった。おそらく殺されたのだろう、絶望感がいっそう増すのを胸で感じながら、ジョーは頭を抱えて蹲っていた。


 外の喧騒が一瞬止んで、シェルターの鉄扉のノブが回った。

 脳細胞がブワッと沸騰するような感覚が訪れて、ジョーは生き残った村人を更に一層地下のシェルター地下二階に落とした。


「あれっ!」


 白いコートをはためかせながら笑顔の魔人が現れた。

 魔人は黒い頭髪に黒い瞳をジョーに向けた。ジョーは赤い頭髪を必死につかんで、蹲りながら、赤い瞳をその魔人に向けていた。


「君ひとりでこんなところに逃げこんだの? 卑怯だねぇ、卑劣だねぇ、外じゃきっと君のお父さんやお母さん、うーん、お姉ちゃんとかも殺されちゃってるよ。君の友達とか、たぶんね。なのに、君はひとりでここでブルブル震えてたんだ? 恥ずかしい人もいるんだね」

「もっと‥‥‥もっと恥ずかしいことあるぜ‥‥‥」


 ジョーはハンカチを地面に転がった剣の端に当てて裂くと、糸を掴み取った。


「もっと恥ずかしいのは、いま俺を此処で殺せやしないあんただよ‥‥‥外は雨降ってんのに‥‥‥みんな濡れながら頑張ってんのに、あんたひとりそんな涼しい面してんだもの‥‥‥恥ずかしいのは、いま俺を殺す力のないあんただよ‥‥‥」

「自己紹介し合ってなかったね。僕の名前はバザ。君は?」

「お前を殺す男だよ」


 糸に黒いエネルギーが流れ込んだ。魔力である。それを認識すると、魔人バザは「面白い能力だね」と笑った。無数に伸びる糸が剣を持ち上げる。


「面白い能力ではあるんだけど、今聞いてるのは、名前だよな?」

「知りたきゃあ‥‥‥不出来な脳みそにでも聞いてみなさいな」

「ああ、はは、きみ、もしかしてけっこう我が強いタイプか。ふだんは抑え込んでいるけれど、いつも怒りを抱いているタイプだ。駄目だよ、心から笑わなくちゃ。心から笑う奴が強いんだ」

「ははは。うるさいな。そんなに名前が知りたきゃあ‥‥‥」


 剣がバザに襲いかかる。炎の性質を持つ魔力の障壁が展開され、熱を伴い弾かれる。剣が壁に当たる瞬間、ついでと言わんばかりにジョーの身体が燃え始めた。


「ああ!! あああ!!」

「あはは! 名前! ねぇ!」


 ジョーは手の平を握りつけ、人差し指を天井に向け指して言う。


「ジョー・シミズはなまじじゃない」

「ジョー・シミズってんだ! 東洋系の血筋かなぁ」


 黒い魔力が迸る。先ほど剣が当たった障壁の箇所を通って、バザの胸に道ができる。次の瞬間、締め付けられるような感覚が心臓に襲いかかる。どうやらあの剣がぶつかる一瞬、見えないほど細くした糸を障壁の内側に十分な量忍ばせて、こっそりと体内に忍ばせ、心臓を締めたらしい。


 バザは「おもしろーい」と喜んで、燃え焦げ気を失ったジョーを抱え上げ、自分の城に持ち帰ろうとシェルターを出た。


 ナイフを胸に突き刺して、心臓に絡まる糸を解きながら。

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