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巡り巡る 〜漢字の意味が世界を変える世界〜  作者: 暇な鍼灸師


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第68章 巡り巡る



■対策局・農地エリア



「だぁぁぁぁッ!! 注文が止まらねぇ!!」


鈴木浩三の悲鳴が、青空に響き渡った。


彼は新人達と泥だらけになりながら、スマートフォンと睨めっこをしている。


「『鈴木ブランドの野菜が欲しい』だぁ? ありがたいけどよぉ、こちとら人数が限られているんだよ!

……おい新人! 次の講習会の日程組め!

もっと人を増やさねぇと、睡眠時間が死ぬぞぉぉッ!!」


「す、鈴木さぁん! 埼玉への出荷分、まだですか!?」


そこへ転移してきたのは、目の下にクマを作った髙橋俊明と後輩達だ。


「髙橋さん! 今収穫してるから待ってくれ!」


「マジですか……俺、このあと緊急出動の要請も入ってるんですよ……。

はぁ……早く帰って娘と遊びたい。

帰ったら、効率化マニュアルの続き書かなきゃ……」


二人の英雄は、今日も平和な日本のインフラを支えるために、死に物狂いで走り回っていた。



■洋館・指令室



モニターには、穏やかな東京の街並みが映し出されている。


東義昭は、優雅にコーヒーを飲みながらその光景を眺めていた。


「……平和すぎて、あくびが出そうだな」


「…良い事じゃないですか…」


隣で音無賢人と谷とアレックスが、装備の点検をしながら答えた。


「だが、油断はできない。

この退屈な日常を守るために、俺たちは目を光らせ続ける必要がある」


「ああ。……頼りにしているぞ、私の最強の家族たち」



地下収容施設パノプティコン



「ガハハハ! ほら食え食え! 若いのが遠慮すんじゃねぇ!」


勅使河原州宏が、収監されている覚醒犯罪者たち(今は更生プログラム中)に大盛りご飯を振る舞っている。


昼間は鬼のような顔で覚醒犯罪者に睨みを利かせている彼だが、今は孫を見るようなしわくちゃな笑顔だ。


「親父、甘やかしすぎっスよ…」


黒田と横手が苦笑いしながら、その温かい光景を見守っていた。



■六名達の部屋



六名駿太は机に向かっていた。


参考書とノートを広げ、カリカリとペンを走らせる。


「……ふぅ。数学、難しいなぁ」


六名は伸びをした。


あの日、蘇生手術によって一命を取り留めた彼は、その代償として「名付け」を完全に失った。


今はただの、15歳の少年だ。


「頑張っているな、駿太」


背後から、父が温かいお茶を差し入れてくれた。


「ありがとう、お父さん。

……僕、高校に入りたいんだ!

能力はなくなっちゃったけど、この平和な日本の中で、僕に何ができるか……一から勉強したいんだ」


「そうか。偉いぞ」


父は目を細め、部屋の隅に置かれた椅子に視線を移した。


そこには、綺麗な服を着せられたマネキンが、静かに座っていた。


もう動くことも、喋ることもない。ただのプラスチックの人形。


「……なぁ、駿太。

このマネキンは、そんなに大事なものなのかい?」


父の問いに、六名はペンを置き、マネキンの元へと歩み寄った。


そして、その冷たい手を愛おしそうに握った。


「うん。……とっても大事な、僕の『第二のお父さん』なんだ」


「第二の……?」


「僕が一人ぼっちだった時も、苦しかった時も……ずっと僕のそばにいて、守ってくれていたんだよ。

彼がいなかったら、僕はお父さんに会えなかったかもしれない」


六名はマネキンの肩に頭を預けた。


「……そっか。そうだったんだな」


父は頷き、マネキンの頭をそっと撫でた。


「駿太をいつも守ってくれて、ありがとうな」


父はふと気になったように聞いた。


「ところで……このマネキンに名前はあるのかい?」


六名は、少し照れくさそうに、でも誇らしげに答えた。


「……『宗方むなかた』だよ」


「……!」


父の手が止まった。


その目は大きく見開かれ、やがてじわりと涙が滲んだ。


「宗方……。そうか、あいつの……」


それは、亡き妻の旧姓だった。


息子は、無意識のうちに母の面影を、母の守護を、この人形に重ねていたのだ。


「……そうか。ママが、守ってくれていたんだな」


父は涙目になりながら、宗方を――動かない家族を、力強く抱きしめた。


「ありがとう……宗方さん。

本当に……駿太をありがとう……」


六名もまた、父の背中に手を回し、三人で抱き合った。


そこには、言葉を超えた温かい絆があった。



■エピローグ



窓の外には、穏やかな青空が広がっている。


もう魔女狩りなんて起きない。


鈴木さんも、髙橋さんも、田治見先生も……みんな、当たり前に社会に溶け込んでいる。


もし誰かが道を踏み外しそうになれば、音無さんたちが飛んでいって止めてくれるだろう。


(……僕はもう、覚醒者じゃない)


六名は空を見上げた。


(昔は、この力が嫌いだった。

……でも。いつかまた、僕が覚醒することがあったら)


六名は、隣で微笑む父と、静かに座る宗方を見た。


(その時は……宗方とお父さんを、会わせてみたいな)


「よし、勉強の続きやるぞ!」


「無理しないようにな」


覚醒者は恐怖の対象ではなくなった。


しかし、いつかまた、悪意を持った強力な覚醒者が現れて、この平和な日本を壊そうとするかもしれない。


でも、大丈夫だ。


その時はまた、音無さんが、東さんが、そして僕の『家族』たちが、平和で退屈な日本のために戦ってくれるだろう。


良いことも、悪いことも。


出会いも、別れも。


この世界は巡り巡る。























































■東京都国立市・八母天満宮 本殿



深夜二時。


草木も眠る丑三つ時。八母天満宮の境内は、普段とは違う、異様な重圧感に包まれていた。


風はない。


虫の声ひとつしない。


完全なる静寂。


だが、その静けさは安らぎではなく、何かが「詰まった」ような息苦しさだった。


本殿の奥、御神木が祀られている結界の内部。


そこにある空気は、まるでコールタールのように粘つき、どす黒く淀んでいる。


人間が人為的に脳を弄り、与えられた能力を「拒絶」したことへの憤怒。


そして何より、能力を失う為に一度死んでことわりをねじ曲げて「生還」したことへの憤怒。


目に見えない莫大なエネルギーが、渦を巻いていた。


ミシッ……。


突然、拝殿を支える太い柱が、何かに締め上げられたような音を立てた。


ガラン……。


誰もいないはずの拝殿で、大鈴が微かに鳴る。


風もないのに。誰の手も触れていないのに。


まるで、見えない巨大な手が、苛立ちをぶつけるように鈴緒を弾いたかのように。


ズズズ……。


地面の底、遥か深淵から、鉛のような振動が這い上がってくる。


それは地震ではない。


「神の力」を謀った人間たちの出した「ハッピーエンド」を認めず、唸り声を上げているかのようだった。


ブチィッ!!


唐突に、御神木に巻かれていた注連縄しめなわが、弾け飛んだ。


紙垂しでが舞い散り、闇の中へと吸い込まれていく。


……しばらくして静寂が戻る。


しかし、その空気は先ほどまでとは決定的に変質していた。


神の力を拒絶など、絶対に許さない。


そんな無言の意志だけが、冷たい夜風となって東京の空へと吹き抜けていった。


『巡り巡る』 第一部・完

最後まで読んで頂いた優しい方へ


読者の皆様、ここまで『巡り巡る』第一部を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


そしてもしこの小説の続きが見たいというとっても優しい方がいらっしゃいましたら是非お力を貸して欲しいです。


現在、第一部でばら撒いた伏線の回収をする次回作(第二部)の構想を練っているのですが、ここまで応援してくださった皆様に、ぜひお聞きしたいことがあります!今後の展開の参考にさせていただきますので、よろしければ感想で教えてください。



① 次回作に登場させて欲しい「苗字」はありますか?


(ご自身の苗字でも、かっこいいと思う苗字でも、実在するのであれば何でもOKです!)



② 第一部で登場したあなたの一番好きなキャラクターは誰ですか?


(第二部の登場頻度に影響があるかもです。好きな理由などもあれば、ぜひ熱く語っていただけると嬉しいです!)


皆様からのコメントが、何よりの執筆の原動力になります。


何卒よろしくお願い致します!


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