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巡り巡る 〜漢字の意味が世界を変える世界〜  作者: 暇な鍼灸師


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第60章 意思疎通



■赤坂・料亭「花月」 奥座敷



「……皆様。実はもう一人、どうしてもこの場に呼びたい男がいました」


日教連の桂木学が、重苦しい空気を破るように切り出した。


物流のドン・轟謙三と、農業の女帝・豊穣篤子が怪訝な顔をする。


「誰だ? 今更、半端な奴を呼んでも足手まといだぞ」


轟が葉巻を揺らす。


「いいえ。……東義昭に全てを奪われた、我々の最大の理解者です」


桂木がふすまに向かって声をかけた。


「……入ってください」


静かに襖が開き、一人の男が姿を現した。


やつれた顔色、乱れた髪。だが、その眼光だけは以前よりも鋭く、狂気じみた光を放っている。


「……お久しぶりです、皆様」


元文部科学省・事務次官、西園寺 鏡一だった。


「西園寺……さん?」


豊穣篤子が扇子を落としそうになった。


「あぁ、なんてこと……。テレビで見ましたよ。あんな酷い仕打ちを受けるなんて」


「全くだ」


轟も深く頷き、同情の目を向けた。


「東の野郎、やり方が汚すぎる。あんたのような国の功労者を、スキャンダル一つで社会的に殺すとはな」


彼らにとって、西園寺の失脚は明日の我が身だ。その悲惨な姿は、東への敵対心をより一層強固なものにした。


西園寺は深く頭を下げた。


「お二人の慈悲深いお言葉、痛み入ります。

……あいつの好きにさせてはいけません。

東は、この国を『効率』という名の監獄に変えようとしている。

私の教育行政だけでなく、貴方方の産業も……奴の餌食になる」


「その通りだ!」


「ええ、絶対に許せません」


三人の心が一つになった瞬間だった。


だが、轟がふと眉をひそめた。


「……ん? 待てよ。

あんた、検察に連行されたはずじゃあ……?」


豊穣もハッとする。


「そうですわね。逮捕されたと報道されていましたけど……どうやってここへ?」


西園寺は、薄ら寒い笑みを浮かべた。


「ええ。本来なら、私は今頃、拘置所の独房にいるはずでした。

……ですが、逮捕される寸前に『ある筋』に連絡を取りましてね」


西園寺は背後の闇を示した。


「彼らに、出してもらったのです」


「出した……だと?」


「私の友人に、石橋という覚醒者がいましてね。

『橋』による転移と『石』による身代わりを作る程度の芸当はお手の物なんですよ。

……もっとも、身代わりの石像がバレるまでそう時間は稼げません。長話はできませんが」


「なっ……!?」


轟と豊穣が息を呑む。


西園寺は警察の留置場から脱獄してきたのだった。


「ど、どこの組織の人間だ……?」


轟が警戒心を露わにする。


西園寺は静かに告げた。


「広域指定暴力団・不死原組ふじわらぐみです」


「ッ!!??」


その名が出た瞬間、轟と豊穣の背筋が凍りついた。


不死原組。


泣く子も黙る、裏社会の最凶武闘派集団。カタギの人間が決して関わってはいけない「死の商人」たち。


「ば、馬鹿な! ヤクザと組むなど正気か!?」


「私たちまで消されますよ!?」


二人が腰を浮かせかける。


だが、西園寺は落ち着き払って手で制した。


「ご安心を。……この件で一番被害を被っているのは、実は彼らなのです」


「被害……?」


「ええ。東の改革によって、彼らのシノギも壊滅的な打撃を受けている。

……だからこそ、彼らは最強の『味方』になり得るのです」


西園寺が襖の奥へ声をかけた。


「……どうぞ、組長」


ぬぅ、と。


西園寺の背後から、派手な柄シャツに白スーツの男が現れた。


全身から漂う血の臭いと、爬虫類のような冷たい目。


不死原 慶次その人だった。


「……まいど」


不死原は、二カッと笑った。その笑顔は、まるで鮫のようだった。


「いやぁ、テレビで見とったで。

西園寺の旦那も、えらい災難やったなぁ。

あんな高いところから突き落とされて……心中、お察しするわ」


こてこての関西弁。だが、その声には有無を言わせぬ圧があった。


轟と豊穣は、蛇に睨まれた蛙のように硬直した。


不死原は上座にドカッと腰を下ろし、勝手に酒を注いだ。


「ま、固くならんといてや。

西園寺の旦那が言うた通り、ウチも困っとんのや。

東のボケが『覚醒者は表で働け』なんてぬかすから、ウチの若い衆が『K-Securityに行きたい』とか言い出してなぁ。他にも正義の味方ごっこが行きすぎてウチらの仕事も摘発されまくり…

……人材不足で、シノギあがったりや」


不死原は酒を一気に煽り、ギロリと四人を見渡した。


「利害は一致しとる。

……ウチが、汚れ仕事や物理的な揉め事を全部引き受けたる。

せやから、あんたらは表の『政治』やら『物流ストップ』やらで、派手に暴れてくれや」


不死原の言葉に、轟がおそるおそる口を開いた。


「……本気、なんだな?

あの東義昭と、戦争をする気か?」


「当たり前やろ」


不死原は笑みを消し、ドスを利かせた声で言った。


「売られた喧嘩は買う。それが極道の流儀や。

……それに、ウチには『死なん兵隊』が仰山おる。

それに勅使河原組とは前からいざこざがあってな…俺にとっても絶好の機会なんや。K-Securityなんぞ、すり潰したるわ」


その言葉を聞いて、轟と豊穣の強張った肩から力が抜けた。


恐怖が、安堵へと変わる。


これほど頼もしい「暴力装置」はない。自分たちが手を汚さずとも、東を物理的に排除してくれるのだ。


「……なるほど。確かに、貴方方も被害者ですねぇ」


豊穣篤子が、ふふっと笑った。


「私の畑を荒らす害虫を駆除してくれるなら……毒をもって毒を制すのも悪くありません」


「ああ。分かった」


轟も覚悟を決めたように頷いた。


「俺たちの物流停止と、アンタの武力があれば……東京なんて三日で落ちる」


「話が早くて助かるわ」


不死原はニヤリと笑い、西園寺、桂木、轟、豊穣の顔を順に見た。


「ほな、始めよか。

……日本中を巻き込んだ、盛大な『葬式』をな」


官僚、活動家、物流王、農協の女帝、そして不死身のヤクザ。


五人の悪鬼が杯を交わす。


東義昭と対策局へ向けた、総力戦の狼煙のろしが上がる。


東義昭への復讐心だけで結ばれた「悪の枢軸」による、最後の作戦会議が幕を開けた。


「……では、手順の確認を」


西園寺鏡一が、やつれた顔に冷徹な知性を宿らせて口火を切った。


彼は地図上の「対策局」に赤い駒を置く。


「東義昭の武器は『金』と『論理』です。

彼に話し合いの余地を与えてはいけません。彼が得意とする交渉のテーブルごとひっくり返す……すなわち『パニック』が必要です」


「ふふ、お任せを」


扇子で口元を隠しながら、全農連の女帝・豊穣篤子が冷ややかに笑った。


「あの鈴木という男が作った野菜……あれを食べた子供たちが重篤な中毒症状を起こしたという『診断書』なら、既に手配済みです。

もちろん、捏造ですが……私が『全農連として警告する』と言えば、それは真実になる」


「その火に、私が油を注ぎましょう」


日教連の桂木学が、血走った目で身を乗り出した。


「全国のPTA網とSNSを一斉に動かします。

『政府は覚醒者を使って人体実験をしている』『子供たちに毒を食べさせるな』と。

……母親たちの不安は、最強の拡散力です」


「恐怖が蔓延したところで、俺の出番ってわけか」


全流連のドン・轟謙三が、太い腕を組んで鼻を鳴らした。


「今や東京で安く買える野菜は大体対策局が作ってる。『毒野菜を運ぶわけにはいかねぇ』と言って対策局の野菜を全て出荷させないように他の運送会社にも圧力をかける。

これほど立派なストライキの大義名分はねぇな。

同時に東京や他の県からの野菜に限らず他の食料品も俺たちが買い上げて東京へ物が入ってこない状況を作る」


「ええ。スーパーから食料が消えれば、物の値段は跳ね上がる。そして金のない市民の理性は三日で崩壊する」


西園寺が、狂気を孕んだ瞳で補足した。


「飢えた人間は、野獣と同じです。

桂木さん、貴方はその野獣たちに餌の場所を教えてやるのです。

『対策局の地下には、安全な食料が隠蔽されている』と」


「……人間の盾、ですか」


桂木がごくりと唾を飲んだ。


「飢餓感に煽られた低所得者の暴徒数万人で、あの洋館を包囲する……」


「せや。そこまでお膳立てしてくれたら、あとはウチの『仕事』や」


ドス黒い殺気を放ちながら、不死原慶次が酒を煽った。


「暴動で揉みくちゃになっとる最中なら、誰が紛れ込んどっても分からへん。

一般市民のフリしたウチの若い衆(兵隊)を、数百人ほどデモ隊に混ぜたるわ」


不死原はニタリと笑い、懐からドスを取り出して畳に突き立てた。


「門が開いた瞬間、雪崩れ込む。

K-Securityが市民(盾)に手こずっとる間に、ウチの『死なん兵隊』が中枢まで食い破る。

……東の首は、ワシが直々に獲ったるわ」


「完璧だ……」


轟が唸った。


「兵糧攻めで弱らせ、暴徒で囲み、最後に兵隊が喉笛を食いちぎる。

これなら、対策局も手も足も出まい」


「ええ。汚い手だと罵るなら罵ればいい」


豊穣が目を細めた。


「私の神聖な大地を汚した報いです。……肥料になってもらいましょう」


五人の間に、どす黒い連帯感が生まれた。


彼らは確信した。この作戦なら、東義昭を確実に葬れると。


その時だった。


ピピピ、ピピピ……。


西園寺の懐で、安っぽい電子アラームが鳴り響いた。


その音を聞いた瞬間、西園寺の表情から「参謀」の覇気が消え、代わりに深い絶望と焦燥が浮かび上がった。


「……っ、もう時間か……!」


「西園寺さん?」


桂木が怪訝そうに見る。


西園寺は慌てて立ち上がり、震える手でスーツの乱れを直した。


「……申し訳ない。タイムリミットです。

石橋君(身代わり)の能力維持の限界が近い。

……これ以上遅れると、私が『脱獄』していたことがバレてしまう」


西園寺は悔しそうに唇を噛み締め、不死原に頭を下げた。


「組長、送っていただけますか。

……また、あの薄暗い独房へ」


「へいへい。シンデレラも楽やないなぁ」


不死原が苦笑しながら立ち上がり、部下に合図を送る。


「ほな、また連絡するわ。……行くで、元次官殿」


「……頼みます。どうか、必ず……東に天罰を……!」


西園寺は縋るような目で三人に訴えかけると、逃げるように部屋を出て行った。


かつて教育行政の頂点に立ち、何万人もの人間を顎で使っていた男の背中は、あまりにも小さく、惨めだった。


バタン。


襖が閉まると、部屋には重苦しい沈黙が落ちた。


「…………」


轟謙三が、噛み潰したような顔で葉巻を置いた。


「……哀れなもんだな」


「ええ……」


豊穣篤子も、ため息混じりに同意した。


「あれだけ栄華を誇った方が、今や犯罪者として檻の中……。

明日の食事すら、看守の顔色を伺わねばならないなんて」


桂木は、震える手で自分の冷たいコーヒーを握りしめた。


「……東に負ければ、我々もああなる。

いや、もっと酷い目に遭うかもしれん」


三人の脳裏に、西園寺の怯えた背中が焼き付いていた。


地位も、名誉も、自由さえも奪われ、ただ復讐心だけを糧に生きる亡霊。


それが敗者の末路だ。


「……やるぞ」


轟が、恐怖を振り払うように低い声で唸った。


「ああはなりたくねぇ。

俺は物流の王だ。檻の中で残飯を食うなんざ御免だ」


「同感です」


豊穣が扇子を強く握りしめた。


「私の庭から出ていくのは、東の方です。

……絶対に、負けませんよ」


「……はい。やるしか、ない」


桂木も決意の炎を宿した目で顔を上げた。


西園寺の惨めな後ろ姿は、彼らにとって何よりの恐怖であり、同時に最強の起爆剤となった。


後戻りのできない五人の戦争が、今、静かに始まった。



■K-Security 詰め所(午後)



「……いいか、黒田、横手。

『コンプライアンス』ってのは、メンツのことじゃねぇ。法令順守だ」


勅使河原州宏は、ホワイトボードの前で腕組みをしていた。


目の前には、パイプ椅子に窮屈そうに座る黒田義信と横手が、まるで仏像のように直立不動で座っている。


「ウスッ! コンプライアンスっすね!」


黒田が元気よく答える。


「つまり、ナメられたらキッチリ落とし前をつけるってことで……」

「違う」


勅使河原が静かに遮った。


「それは『ケジメ』だ。俺が言ってるのは『法律を守れ』ってことだ」


「あ、なるほど! 法を守る!

つまり、サツにパクられないように上手くやるってことっすね!」


「……はぁ」


勅使河原は、天井を仰いで深いため息をついた。


二人の目は真剣だ。ふざけているわけではない。


必死に親父の言葉を理解しようとし、メモを取り、汗をかいている。


その忠誠心と努力は痛いほど分かる。……分かるのだが。


(……ダメだ。こいつらには、根本的に『事務』の回路がねぇ)


勅使河原は悟ってしまった。


現場の指揮官としては一流でも、数百人のシフト管理や法務対応をする施設長という器ではない。


無理にやらせれば、彼らが潰れるか、施設が崩壊する。


「……もういい。休憩にしろ」


「えっ、まだやれます親父! ご指導お願いします!」


「いいから休め。……頭を冷やしてくる」


勅使河原は諦めの色を滲ませ、重い足取りで部屋を出た。



■洋館・東の執務室



コンコン。


ノックの音と共に、弁護士の高柳慎吾が入室してきた。


その足取りは亡霊のように重く、いつもの知的な覇気は微塵もない。


「……東さん」


「どうした、高柳。顔色が悪いぞ」


東義昭が書類から目を上げる。


高柳は、崩れ落ちるようにソファに座り込み、力なく首を振った。


「……申し訳ありません。

ギブアップです」


「……何?」


「黒田さんと横手さんの教育……。私には、不可能です」


高柳の声が震える。


「彼らは……私の言葉を、日本語として認識していないようです。

『有給休暇』を『遊興費の支給』と勘違いし、『労働組合』を『敵対組織』だと認識して武器を集め始める……。

私の弁護士人生で、これほど言葉が通じない相手は初めてです。……心が、折れました」


あの鉄壁の高柳が、完全なる白旗を上げている。


東は怒ることも、叱ることもなかった。ただ静かに頷いた。


「……そうか。高柳がそこまで言うなら、よほどのことなのだろう。

ご苦労だった。下がって休んでくれ」


「……面目ありません」


そこへ、再びドアがノックされた。


「失礼します」


低い声と共に、勅使河原が入ってきた。


勅使河原は、憔悴しきった高柳を見て全てを察したようだった。


彼は無言で東のデスクの前まで進むと、深々と頭を下げた。


「……東先生。申し訳ねぇ」


「勅使河原さん?」


「俺の目が節穴でした。

黒田と横手を施設長と副長に推しましたが……あいつらには荷が重すぎます。

返事だけは一丁前ですが、中身を何一つ理解していねぇ」


勅使河原は、高柳に向き直り、再び頭を下げた。


「高柳先生も、すまなかった。

うちのバカ息子たちのせいで、先生に無理難題を押し付けちまった。

……許してくれ」


「い、いえ! 勅使河原さんが謝ることでは……!」


恐縮する高柳を制し、勅使河原は顔を上げた。


その目には、覚悟の光が宿っていた。


「責任は、俺が取ります」


勅使河原は東を見据えた。


「『特定覚醒者収容施設』の施設長、俺がやります。

現場のことはあいつらに任せますが、管理、運営、法務……責任を負うトップは、俺が務めます」


「貴方が?」


東が眉を上げた。


「だが、法的な知識が必要になりますよ」


「ええ。ですから高柳先生」


勅使河原は高柳を見た。


「改めて、俺への指導をお願いできねぇでしょうか」


高柳は、少し戸惑った表情を見せた。


(親分とはいえ、あの黒田たちのトップだ。……期待はできないかもしれないが)


「……分かりました。では、基本的なことから確認させていただきます。

勅使河原さん、労働基準法における『使用者』の定義とは?」


高柳は、中学生に教えるような基礎中の基礎を問うた。


しかし、勅使河原の口から出た答えは、流暢かつ完璧だった。


「事業主、または事業の経営担当者、その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者を指します。

……つまり、現場監督だろうが部長だろうが、部下に命令する権限がありゃあ、法律上は『使用者』として責任を負うってことですな」


「……っ!?」


高柳が目を見開いた。


「では、管理監督者の要件は?」


「経営者と一体的な立場にあること。出退勤の自由があること。そして、その地位にふさわしい待遇……つまり役職手当等が支払われていること。

……昔、うちでも揉めたことがありましてね。『名ばかり管理職』ってやつは認められません」


「……す、素晴らしい」


高柳が次々と投げる質問に、勅使河原は自身の経験(組織運営)を交えて的確に答えていく。


リスク管理、人員配置、懲罰規定の運用。


それは、極道を束ねてきた「実務家」としての重みのある回答だった。


高柳の死んでいた目に、急速に光が戻っていく。


彼は眼鏡の位置を直し、興奮気味に身を乗り出した。


「……誤解していました。

貴方は、私が教えるまでもなく『組織論』を理解している」


高柳は東に向かって断言した。


「東さん。勅使河原さんでしたら、二日です。

二日あれば、施設運営に必要な全ての法的知識とマニュアルをマスターしていただけます。

……いや、むしろ私が教わることの方が多いかもしれない」


「頼めますか、高柳」


「ええ、喜んで!

ようやく……ようやく『言葉』が通じる相手と仕事ができます!」


高柳は水を得た魚のように生き返っていた。


「勅使河原さん。改めて、頼みます」


東の言葉に、勅使河原はニカっと笑い、力強く頷いた。


「へい。責任を持って、最強の監獄に仕上げてみせます」


室内の空気が、停滞から前進へと切り替わった。


だが、その空気を再び引き締めるように、勅使河原は声を低くした。


「……それと東先生。全くの別件ですが、ご報告が」


「なんだ?」


勅使河原の表情から笑みが消え、かつての「極道の顔」が覗いた。


「街の空気が、きな臭くなってやがります。

……俺たちとは犬猿の仲だった、『不死原組ふじわらぐみ』。

あいつらが、妙な動きを見せています」


「不死原……。あの『死なないヤクザ』か」


「ええ。

普段はシマが違うんで干渉しませんが……どうやら、どこぞの誰かからデカい『ヤマ』を請け負ったようで。

……兵隊を集め始めています」


東はワイングラスを置き、目を細めた。


西園寺が放った「毒」が、早くも回り始めている。


「……なるほど。役者は揃いつつある、ということか」


頼もしい施設長の誕生と、迫り来る不死の軍団。


対策局は、内部を固めると同時に、最大の防衛戦へと突入しようとしていた。

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