第46章 食い違う正義
■洋館・臨時病室前
「……チッ。腑に落ちねぇな」
田治見薫は、空になったウイスキーのボトルを揺らしながら、独り言ちた。
彼女の脳裏には、先ほどの手術——いや、拷問の最中の光景が焼き付いていた。
(あのアイスマン(氷川)、確かに足の指を数本切り落とし、腹を開いて内臓を見たが……あの時点ではバイタルは安定していた。
『死なないギリギリ』を攻めるのはアタシの十八番だ。ミスるわけがねぇ)
だが、あのマネキン——宗方がエントランスに現れる直前。
氷川は突然、発作を起こしたかのように絶叫し、全身の血管が破裂しそうなほど血圧が急上昇した。
まるで、見えない力で内側から握りつぶされそうになったかのように。
(慌てて蘇生させて、なんとか命だけは繋いだが……。
あれは、恐怖によるショックか? それとも……遠隔で『消去』されかけたのか?)
「……ま、生きてりゃ検体にはなるか。両手は『没収』しといたしな」
田治見は不気味な違和感を酒で流し込むと、よろめきながら食堂へと向かった。
「いずれ意識を取り戻すだろうが…その時はまた実験させてくれよ?」
■洋館・食堂(作戦会議)
田治見が戻ると、そこでは東義昭を中心とした情報の整理が行われていた。
空気は重い。宗方に完敗した余韻が、まだ拭えていない。
「……報告します」
サラ・コッホがモニターを指し示す。
「奥多摩の採石場近く……例の平屋の監視映像です。
髙橋さんの転移で設置したカメラが、彼らの生活を捉えています」
画面には、質素な日本家屋が映っている。
「外には犬が一匹。名前はコタロウ。
宗方が定期的……朝と夕方に散歩に連れて行っています。
そして夜には必ず、六名も宗方もこの家に戻り、就寝していることが確認できました」
「完全に、普通の生活ですね」
髙橋俊明が眼鏡を直す。
「彼らがあんな怪物だとは、映像だけでは到底思えません」
「そして……グレイからの情報ですが」
サラは首を横に振った。
「尋問の結果、新しい情報はゼロ(ナッシング)。
彼は本当に、六名のことを何も知らなかった。ただ『利用されている』という自覚すらなかったわ」
「……こちらからも報告だ」
田治見が椅子にドカりと座る。
「氷川の野郎も、口を割る前にぶっ壊れかけちまったからな。
新しいネタはなしだ。……ま、あんな下っ端がボスの正体を知ってるとは思えねぇがな」
「……そうか」
東は腕を組み、深いため息をついた。
情報は出揃った。敵の居場所も、生活パターンも分かっている。
だが、「勝てるビジョン」が見えない。
(……宗方。あのマネキンの転移能力は脅威だ)
東は脳内でシミュレーションを繰り返す。
(我々が採石場を急襲したとする。だが、奴はセンサーに映らず、壁も無視して移動できる。
こちらの攻撃が届く前に逃げられるか……あるいは、逆にこの『拠点』に転移してきて、留守番部隊を皆殺しにする可能性が高い)
東は顔を上げた。
「……我々の居場所がバレている以上、ここに拠点を構えて攻撃を仕掛けること自体が、最大のリスクになる。
攻撃のために主力が外に出れば、ここはガラ空きだ。宗方に背後を突かれれば終わりだ」
「じゃあ、拠点を移しますか?」
谷雄一が提案するが、東は首を振った。
「無駄だ。奴らはどこへでも追ってくる。それに、これだけの設備を短期間で再構築するのは不可能だ」
堂々巡りの問答。
全員が、宗方のあの「神速の転移」と「礼儀正しい侵入」を思い出し、押し黙っていた。
東は決意を固め、現場の能力者たちを見渡した。
「……前回の話し合いで、我々は六名を『共存不可能』として排除することに決めた。
だが、現状……あの転移速度と、未知数の六名の能力を相手に、岩を落とすだけの作戦で勝てると思うか?」
東の問いかけに、誰も即答できない。
「スナイプも、当たればいいが……外せば即座に距離を詰められる。
最悪、返り討ちにあい、こちらが全滅する可能性すらあると私は考えるのだが……」
東は、鈴木、髙橋、そして音無の目を見た。
「実際に能力を行使して戦っている君たちに問いたい。
宗方と六名にまともに相対して……勝てる見込みはあるか?」
「……正直、キツいっすね」
鈴木が渋い顔で頭をかいた。
「俺の鈴も、あいつ(宗方)には効くか分からねぇ。そもそも、鈴を振る前に首を飛ばされそうな速さだった」
「同感です」
髙橋も青ざめている。
「僕の転移より、座標指定の精度も速度も上です。……空間戦で負ければ、僕らはただの肉の塊です」
「…………」
音無は拳を握りしめたまま、言葉が出なかった。
(勝てない。……今のままじゃ、絶対に守りきれない)
絶望的な戦力差。
打開策が見えないまま、重苦しい沈黙が部屋を支配する。
その時。
コトン。
洋館の玄関。
分厚い扉の郵便受けに、一通の封筒が静かに投函された音。
誰も気づかないほど小さなその音が、終わりの始まりを告げていた。
■洋館・食堂(緊急会議)
テーブルの中央には、投函されたばかりの白い封筒が置かれていた。
中には、達筆な文字で書かれた便箋が一枚。
『拝啓、対策局の皆様。
先日は失礼いたしました。美味しいキムチは召し上がっていただけましたか?
さて、近日中に改めてお茶会(話し合い)に伺いたいのですが、その際、以下の3点について皆様のお考えをお聞かせください』
1. 社会のゴミ(元勅使河原組)を、なぜ掃除しないのか?
2. アメリカとの関係を悪化させ、日本の平和(秩序)を乱した場合責任をどう取るのか?
3. なぜ、僕のことを直接聞かずに、コソコソと調べ回ったのか?
『……以上、楽しみにしております。 六名』
読み終えた東義昭は、眼鏡を外してレンズを拭いた。
その顔には、焦りではなく、難題に挑む棋士のような冷徹な集中力が浮かんでいた。
「……さて。これが『招待状』であり『最後通牒』だ」
東は全員を見渡した。
「現状、物理的な戦闘になれば我々に勝ち目はない。宗方の転移速度と、六名の未知数の能力……。真正面からぶつかれば、1分以内に全滅するだろう」
「違いねぇ」
鈴木浩三が腕を組み、渋い顔で頷く。
「あのマネキン野郎、俺が鈴を握るよりも速く動く。……力押しは自殺行為だ」
「ならば」
東は断言した。
「我々が戦うべき土俵は『暴力』ではない。『論理』だ。
奴は独自の正義……『平和で退屈な日本』という理想を持っている。
だからこそ、我々はその理想の『矛盾』を突き、我々の『正当性』を証明しなければならない」
東はホワイトボードに向かい、3つの問いを書き出した。
「全員で答えを出すぞ。……我々が、奴とは違うという証明をな」
【問1:元ヤクザの処遇について】
「まずはこれだ。奴は『更生などない、ゴミはゴミだ』と言い放った」
「……私は、反対です」
口火を切ったのは、白川真純だった。
「彼らは罪を犯しましたが、償おうとしています。実際に、K-Securityとして市民を守り、感謝されています。
過去の罪だけを理由に未来を奪うのは……それは『正義』ではなく、ただの『選別』です」
「その通りだ」
東が頷く。
「奴の理論を認めれば、一度でも躓いた人間は全て処刑対象になる。
我々の回答はこうだ。
『ゴミではない、“資源”だ』。
社会からはみ出した者を再利用し、国を守る力に変える。……それこそが、国家による最も建設的な『掃除』であるとな」
【問2:対米関係と日本の平和について】
「次はこれだ。奴は『アメリカを怒らせて秩序を乱した』と我々を非難している」
「Short-sighted(短絡的)ね」
サラ・コッホが冷ややかに笑った。
「アメリカのご機嫌を取って得られる平和なんて、ただの『隷属』よ。
グレイは覚醒者を軍事利用しようとしてたのよ? それを見過ごすことが『平和』なの?」
「ああ。俺たちが守りたいのは、そんな薄っぺらい平和じゃない」
アレックス・ターナーも同意する。
「自国の民は自国で守る。そのための『力(対策局)』だ」
東は力強く書き込んだ。
「結論は出たな。
『他国の軍靴の下で眠る平和など、偽りだ』。
リスクを負ってでも自立し、外敵を排除することこそが、真の恒久平和に繋がる。我々はそのための『抑止力』である」
【問3:コソコソ調べた非礼について】
「最後だ。『なぜ直接聞かないのか』……。随分と子供じみた問いだな」
音無賢人が、静かに立ち上がった。
その瞳は、六名への個人的な憎しみを越え、組織の一員としての覚悟に満ちていた。
「……信用できないからです」
賢人は全員に語りかけた。
「あいつは、お婆ちゃんにお茶をもらった直後に『だから殺していいよね』と言える奴です。
言葉と心が乖離している。……そんな相手の言葉を、どうやって信じろと言うんですか」
「正論だ」
髙橋俊明が眼鏡を直す。
「僕たちは『友達』になりたいわけじゃない。『災害』に備えたいんです。
台風に向かって『君はどういうつもりだい?』とは聞かないでしょう? ハザードマップを作るのは当然の危機管理です」
東はニヤリと笑い、最後の答えを書き記した。
「決まりだ。
『君は人間ではない。“災害”だ』。
予測不能な災害に対し、事前調査を行い対策を練るのは、公的機関としての義務である。……礼儀など必要ない」
■結論
東はホワイトボードに並んだ「回答」を見つめ、振り返った。
「……いいだろう。理論武装は完了した」
東の声に、熱がこもる。
「六名よ。君の正義は『排除』と『停滞』だ。
だが我々の正義は『管理』と『再生』、そして『自立』だ。
我々は君の思想を真っ向から否定する。
……この回答を以て、奴を論破し、動揺させ……その一瞬の隙を突く」
東は拳を握りしめた。
「これは『面接』ではない。『言論による決闘』だ。
……音無君、日時の指定は?」
「明後日の正午です」
「よし。
最高の茶菓子と……『処刑台』の準備だ。
客人を迎え撃つぞ」
「「「了解!!」」」
対策局は、物理的な力ではなく、「組織としての哲学」という最強の武器を携え、少年との対話に挑む覚悟を決めた。
■洋館・エントランスホール
約束の正午。
洋館の空気は、弦が切れる寸前まで張り詰めていた。
東義昭の指示の下、全員が配置につく。鈴木はポケットの鈴を握りしめ、サラたちは死角に潜み、音無は気配を消して梁の上に。
ピンポーン。
静寂を破り、インターホンの音が鳴り響いた。
モニターには、笑顔の青年と、フードを被った従者の姿。
今回は、きちんと玄関から来たようだ。
「……開けろ」
東の合図で、髙橋俊明が重いドアを開ける。
冷や汗が背中を伝う。
「こんにちは! お時間通りに来ましたよ!」
「……失礼致します」
六名と宗方が、深々と頭を下げた。
「先日は、勝手に転移で中に入ってしまって申し訳ありませんでした。以後、気をつけます」
あまりに丁寧な謝罪。
髙橋は毒気を抜かれそうになりながらも、震える足で二人を招き入れた。
「い、いえ……。どうぞ、こちらへ」
■洋館・食堂
「やあ、東さん。また会えて嬉しいです」
六名は、前回と同じ椅子に座ると、ニコニコと周囲を見回した。
その視線が、壁際に立っている鈴木浩三のところで止まる。
「あ、鈴木さん! どうでした? 前のキムチ」
「あ?」
鈴木が虚を突かれる。
「あー……その……」
鈴木は東の顔色を伺ったが、東は無表情だ。
鈴木は観念して、ボソリと答えた。
「……悔しいが、美味かったよ。酒に合いすぎて困ったくらいだ」
その言葉に、六名の顔がパァッと輝いた。
「ですよね!! 宗方の自信作なんです!」
六名は足元の紙袋を持ち上げ、ドンとテーブルに置いた。
「よかったぁ。お口に合わないかと思って心配してたんですよ。
はいこれ、今日も持ってきたので! 皆さんで食べてくださいね!」
またしても、赤い瓶。
殺し合いの瀬戸際での、ほのぼのとしたお土産タイム。
全員が調子を狂わされる中、東だけが冷静に本題を切り出した。
「……感謝する。では、始めようか」
東はホワイトボードを背に、六名と対峙した。
「君からの『3つの問い』に対する、我々の回答だ」
【問1:元ヤクザの処遇について】
「君は彼らを『ゴミ』と言ったが、我々の認識は違う。彼らは『資源』だ」
東は断言した。
「社会から弾き出された者を再利用し、国の盾として機能させる。それこそが、国家による最も建設的な『掃除』だ」
六名はそれを聞き、ふむ、と顎に手を当てた。
「リサイクル、ですか。……面白い考え方ですね」
六名は少し悲しげに笑った。
「でも、腐った食材を混ぜたら、スープ全体がダメになっちゃいませんか?
僕は……やっぱり不安だなぁ。
この前、銀行強盗があった時、勅使河原さんと会ったんです」
六名は遠くを見る目をした。
「勅使河原さんが頑張ってましたけど……もし彼が失敗したり市民の皆さんに危害を加えるのでしたら、僕が直接犯人と勅使河原さんを『掃除』するつもりでした」
対策局メンバーに戦慄が走る。
【問2:対米関係と平和について】
「次に、アメリカとの関係だ」
東が続ける。
「他国の軍靴の下で眠る平和など、偽りだ。
リスクを負ってでも自立し、外敵を排除することこそが、真の恒久平和に繋がる。我々はそのための『抑止力』である」
「かっこいいですね」
六名は素直に感心した。
「自立。……うん、僕もそう思います。
でも、その『力』による平和維持って、結局は力の弱い人が泣くだけじゃないですか?
僕は、誰も力を持たない、『平和で退屈な日本』に戻したいだけなんです」
六名は東を真っ直ぐに見つめた。
「東さんは秩序を守っている。それは素晴らしいです。だから僕は、あなた達とは敵対したくないんです。
……分かってくれませんか?」
平行線をたどる議論。
そして、最後の問い。
【問3:コソコソ調べた非礼について】
「最後だ。『なぜ直接聞かなかったのか』」
東が答える前に、音無賢人が立ち、六名の前に立った。
その瞳には、かつてのような激情はなく、冷え切った絶望と覚悟が宿っていた。
「……俺が答えます」
賢人は、六名の目を射抜くように見つめた。
「信用できないからです」
「……え?」
六名がキョトンとする。
「君は、お婆ちゃんにお茶をもらった話の後に、『だから殺していいよね』と言える人間だ。
笑顔でキムチを渡しながら、俺の両親を『間引き』した人間だ」
賢人は拳を握りしめ、言葉を叩きつけた。
「言葉と心が乖離している。……そんな相手の言葉を、どうやって信じろと言うんですか。
だから調べたんです。君という『災害』に備えるために」
その言葉が落ちた瞬間。
「…………」
六名はショックを受けたように、口を半開きにして固まった。
「信用……できない……?
そっか……。僕、お婆ちゃんのこと、僕なりに優しくしたつもりだったんだけどな……」
六名は深く傷つき、子供のように俯いてしまった。
「……一緒に平和な日本を取り戻したかったのに……」
その姿を見た、隣の宗方が——。
ギチチチチチッ……!!
不快な音が響いた。
宗方の全身の関節が、異常な音を立てて軋んでいる。
ウインドブレーカーの下から、どす黒い殺気が膨れ上がる。
「……貴様ら」
宗方の声から、丁寧さが消え失せていた。
無機質な合成音声のような響きの中に、煮えたぎるような「憤怒」が混じる。
「……六名様の、何が分かるのですか!!」
ドォン!!
宗方の足元の床が、踏み込みだけで粉砕された。
凄まじいプレッシャーが爆風となって吹き荒れ、洋館全体を揺らす。
「六名様は! 穢れた世界を嘆き! 自らの手を汚してでも救おうとしている聖人です!
その崇高な孤独を……純粋な想いを! 『信用できない』などと!」
宗方のフードが外れ、陶器のようなマネキンの顔が露わになった。
ガラス玉の瞳が、憎悪で赤く発光している。
「万死に値するッ!!!!」
「マズい! 鈴木! 鳴らせ!」
東が叫ぶ。
鈴木がポケットの鈴に手を伸ばす——。
遅い。
シュンッ!
宗方の姿が掻き消えた。
「がぁっ!?」
次の瞬間、鈴木の巨体が宙を舞い、壁に叩きつけられた。
鈴を取り出す暇もなく、鳩尾に重い一撃を入れられたのだ。
「鈴木さん!?くそっ…!」
シュン!
髙橋が宗方の後ろに転移し宗方に触る。
「転移!太平洋上空!」
シュン!
宗方が消える……だが次の瞬間。
シュン!
宗方が直ぐに食堂に戻ってくる。
「なっ……!」
髙橋が反応しようとするが、
シュンッ!
「ぐっ!」
髙橋の視界が反転し、床にねじ伏せられる。
宗方が髙橋の背中に乗り、腕を極めている。
「空間使い風情が……。私の前で転移などおこがましい!」
「撃て! アレックス!」
サラが叫び、隠れていた場所から銃口を向ける。
だが、宗方は髙橋を踏み台にして再び消えた。
サラとアレックスの背後。
「遅いですよ」
ドゴォッ!!
二人の元スパイが、同時に吹き飛ばされ、テーブルをなぎ倒して転がる。
「……な、なんだコイツ……!」
谷と白川が銃を抜くことさえできずに凍りつく。
圧倒的。
鈴木の無効化も、髙橋の転移も、スパイの技術も。
全てを速度と暴力で凌駕する、理不尽なまでの性能差。
宗方は、最後に音無賢人の目の前に現れた。
「……ッ!」
賢人は反応してナイフを振るうが、宗方はそれを素手で受け止めた。
硬質な皮膚。刃が通らない。
「貴様が一番罪深い」
宗方は左手で賢人の首を鷲掴みにし、片手で吊り上げた。
「がっ……あ……」
「六名様を傷つけた罪……。その命で償いなさい」
宗方の右手が、賢人の心臓を貫くべく振り上げられる。
同時に、床に倒れた鈴木、髙橋、サラたちが音無の方を見る。
「やめろぉぉ!!!」
対策局の全員が、音無の死を覚悟した。
「——待って!! 宗方!!」
六名の悲痛な叫び声が響いた。
ピタッ。
宗方の手刀が、賢人の胸の皮一枚で停止した。
「……六名様」
宗方は動きを止めたまま、六名を振り返った。
その表情には、人形特有の無機質さと、主への盲信が混ざり合っていた。
「なぜ止めるのですか。
こいつらは……貴方の心を、土足で踏みにじりました。
生かしておく価値などありません。……今すぐ掃除しましょう」
「ダメだよ……!」
六名は椅子から立ち上がり、宗方の元へ駆け寄ると、その振り上げた腕を両手で掴んで下ろさせた。
「乱暴はダメだ。……掃除の基準が…違うじゃないか…」
「…………」
宗方の赤い瞳から、光がスッと消える。
殺気が霧散し、ただの静かな人形に戻る。
賢人は床に落とされ、激しく咳き込んだ。
「……申し訳ありません。取り乱しました」
宗方は一歩下がり、深く頭を下げた。
だが、その場にいる全員が理解していた。
この人形は、六名の言葉一つで、いつでも自分たちを皆殺しにできるのだと。
洋館の食堂は、破壊された家具と、圧倒的な死の予感に支配されていた。




