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巡り巡る 〜漢字の意味が世界を変える世界〜  作者: 暇な鍼灸師


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第40章 予防という名の殺人



■洋館・食堂



凍りついた空気の中、誰もが六名の狂気に言葉を失っていた。


その静寂を破ったのは、普段は温厚な髙橋俊明だった。


「……ふざけるな!」


髙橋が震える声で叫んだ。


「アレは……『寺土』は危険すぎる!

あんな巨大な怪物が、制御不能になって街へ出たら……ヤクザを追いかけて一般市民のいる場所で暴れ始めたら、どうなると思ってるんですか!?」


髙橋の脳裏には、愛する妻や娘の顔が浮かんでいた。あんなものが街を歩けば、日常など一瞬で踏み潰される。


「そうだ! 迷惑ってレベルじゃねぇぞ!」


鈴木も続く。


「人為的な災害だ! 俺たちが止めなきゃ大惨事だったんだぞ!」


「……あなたのやったことは、テロリズムと変わりません」


白川も毅然と言い放つ。


口々に浴びせられる非難。


だが、六名は怒るどころか、パァッと花が咲くような笑顔になった。


「あぁ、やっぱり!」


六名は嬉しそうに手を叩いた。


「やっぱり、あなた達が倒してくれたんですね!

いやぁ凄いなぁ! 正義の心を持つ人たちが、それだけの強大な力を持っていることが……僕は本当に嬉しいです!」


「は……?」


髙橋たちが毒気を抜かれる。


すると六名は、急にシュンと肩を落とし、申し訳なさそうに眉を下げた。


「……ごめんなさい。素直に謝ります」


「え?」


「実はね、宗方むなかたっていう僕の相棒がいるんですけど……彼にも、皆さんと同じように怒られちゃったんです」


六名は頭をかいた。


「『やりすぎです』『周囲への被害を考えなさい』って。

だから僕、反省したんです。怪獣を放し飼いにするのは良くないなって」


「わ、分かればいいんだが……」


鈴木が戸惑う。


「だから」


六名は顔を上げ、真剣な眼差しで東を見た。


「直接、僕が手を下して殺した方が、被害が少ないんじゃないかな? って思って」


「…………」


「だから今日、東さんに交渉しに来たんです」


六名は身を乗り出した。


「東さんは、覚醒者を管理して、平和のためにその能力を使って貢献している人ですよね?

秩序を重んじる方なら、話が分かると思ったんです」


六名は、部屋の隅で震えている黒田たちを指差した。


「東さん。……あの人たち、殺していいですか?」


東は眉一つ動かさず、冷ややかに問い返した。


「……君は、人の命を何だと思っている?」


「え? そりゃあ……『守るべき物』だと思いますよ?」


六名は即答した。微塵の迷いもない。


「でもそれは、秩序を守って、人に優しく出来る人達のことですよね?」


六名の瞳が、濁った光を帯びる。


「人に酷い事をしていた連中が、看板を変えて『警備会社に入りました』って言って……。

僕、大丈夫かなって思ったけど、やっぱりお婆ちゃんを虐めてた。やっぱりダメだったじゃないですか」


六名は悲しげに首を横に振った。


「更生なんて嘘だ。ゴミはゴミ箱へ、悪人は地獄へ。

それが一番、世の中が綺麗になる方法だと思いませんか?」


「……君の正義は、あまりに潔癖すぎるな」


東が吐き捨てる。


「そうですか? ……あ、でも僕も学習してるんですよ?」


六名はニコリと笑い、世間話でもするように続けた。


「僕ね、昔は『すごく危ない苗字の人』も、問答無用で殺した方がいいって思ってた時期もあったんです」


「危ない苗字……?」


「ええ。ほら、『神』とか『鬼』とか『魔』とか……あと『風』もかな…苗字にそういう漢字がつく人たちです。

そういう名前なら、きっと能力も凶悪で危険だろうなって」


六名は苦笑いした。


「でも僕、全然人脈ないから……電話帳見たり、一軒一軒、家の表札を見て回って頑張ってたんですよ」


そして、六名はふと視線を逸らした。


東を見ているのでもない。鈴木を見ているのでもない。


自分の背後にある、「何もない空間」。


そこには今、音無賢人が「無」で気配を完全に消し、殺気を殺して潜んでいるはずだった。


誰にも見えない、認識できないはずの場所。


六名は、その虚空に向かって、優しく話しかけた。


「……ねえ。そこにいますよね? 音無さん」


「……ッ!?」


透明化している賢人の心臓が、早鐘を打った。


(なぜだ……? 気配も、音も、存在すら消しているのに……こいつには『見えて』いるのか?)


六名は見えない賢人の目を見るように、ニコリと微笑んだ。


「先日、テレビで見ましたよ。

『音』と『無』……暗殺に特化した危険な能力なのに、あなたはそれを平和のために使っている。素晴らしい精神性だ」


六名は、懐かしむように目を細めた。


「あのお家のご両親……とってもいい人たちでしたよ」


「……え?」


賢人の思考が停止する。時が止まる。


六名は、こともなげに言った。


「僕が表札を見て宗方と一緒に訪ねた時も、お茶を出してくれて。

『息子は優しい子だ』って、自慢げに話してくれました」


六名は、残念そうに溜息をついた。


「あの時、ご両親はまだ『非覚醒者(ただの人)』でした。能力なんて持っていなかった」


「……だ、だったら……」


賢人は気配を消している事も忘れて喉から、音のない声が漏れる。


「でもね、僕知っているんです」


六名は自分のこめかみを指差した。


「いくら丁寧で優しい人でも突然強力な力を得たら変わっちゃう事を」


六名は、庭の雑草を抜くときのような、無邪気な顔で言った。


「だから、殺したんです」


「……は?」


「だって、そうでしょ?

もしあのご両親が覚醒して、悪い人になっちゃったら大変じゃないですか」


六名は、残酷な理屈をさも正論のように語った。


「だから、『芽』のうちに摘んでおきました。

悪い能力が咲く前に、宗方に頼んで……ほら、首に手形の跡が残るくらい、強く絞めてもらったんです。

……あれは、必要な『予防』だったんですよ」


プツン。


賢人の中で、理性の弦が弾け飛ぶ音がした。


「あ……」


目の前が真っ赤に染まる。


金剛寺でもない。強盗でもない。


目の前に座っている、この優しげな少年が。


あの日、あんなに優しかった父と母を……まだ何もしていない、ただ普通に生きていただけの両親を。


「将来覚醒するかもしれない」という、身勝手な妄想だけで殺した張本人。


「あぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


賢人の喉から、言葉にならない咆哮が迸った。


東が止める間もなかった。


「殺すッ!!!」


(——『無』! 全力!)


認識できない速度、認識できない殺意。


透明な刃と化した賢人の手が、六名の心臓へと振り下ろされた。


ブンッ!!


空を切る音。


「……え?」


賢人が実体化する。


彼が両手を伸ばした先——椅子の上には、誰もいなかった。


「……消え、た?」


六名は、立ち上がったり避けたのではない。


最初からそこにいなかったかのように、瞬時に空間から消失していたのだ。


ただ、温かい紅茶の湯気だけを残して。


「お、音無! 落ち着け!」


鈴木が駆け寄るが、賢人は呆然と、誰もいない椅子を見つめ続けていた。


「あいつが……あいつが……!!」


予防。掃除。


そんな軽い言葉で、俺の全てを奪ったのか。


復讐の相手は、あまりにも近くにいて、そしてあまりにも遠かった。


賢人が血走った目で周囲を探す。


すると、頭上から能天気な声が降ってきた。


「おっと。高い所から失礼します」


全員が天井を見上げる。


そこには、吹き抜けの高い天井から吊るされた巨大なシャンデリアの上に、軽々と腰掛けている六名の姿があった。


「うわぁ、凄いなぁ! このシャンデリア、埃ひとつない!」


六名はクリスタルを指でなぞり、感心したように言った。


「こんな高い所まで掃除したんですか? ……みなさんの『愛』を感じますねぇ」


「ふざけるな……! 降りてこい!」


賢人がテーブルに足をかけようとする。


「まあまあ、落ち着いてくださいよ」


六名はシャンデリアの上から、賢人を哀れむような目で見下ろした。


「音無さん。あなたの殺意はもっともだ。

僕があなたの大切なご両親を『掃除』したんですから、怒るのは当たり前です」


六名はニコリと笑った。


「だから……僕の『計画』が終わったら、僕はあなたに殺されたいです」


「……は?」


賢人の動きが止まる。


「計画だと?」


東義昭が、冷徹な声で問いただした。


「君の言う『計画』とは何だ?」


「決まってるじゃないですか」


六名は空を仰ぎ、夢見るように語った。


「日本が……覚醒者なんていなかった頃の、『平和で退屈な国』に戻ることですよ」


六名の瞳に、狂信的な光が宿る。


「そのために今、米軍の中に僕の『相棒その二』を潜り込ませて、『能力の源』のような物を探させています。

……僕はね、その源が見つかったら、破壊したいんです」


「破壊……」


「ええ。そうすれば、皆能力が使えなくなるでしょう?

誰も空を飛ばない、誰も火を吹かない。……ただの人間同士が暮らす、前の平和な日本に戻ると思うんですよね」


六名は少し寂しそうに肩をすくめた。


「でもね、まだダメなんです。まだ、悪い人たちがたくさん残ってる。

だから、僕ができる限り『掃除』をしてから……力の源を壊して、全ての能力を消し去って……。

最後に、復讐者の代表である音無さんに殺される」


六名は賢人を見た。


「これが、僕の完璧な『計画』です」


全員が言葉を失った。


それは、あまりにも壮大で、あまりにも独りよがりな救済のシナリオ。


「だから東さん」


六名は東に語りかけた。


「東さんがやっていること……覚醒者を管理して、秩序を作ろうとするのは、綺麗な日本になるために凄く嬉しいことです。

でも……将来的には覚醒者がいなくなるので、その組織も不要になっちゃうかもしれません。……ごめんなさいね?」


「……フン」


東は鼻で笑ったが、その目は笑っていなかった。


(……こいつは本気だ。本気で、この世界をリセットしようとしている)


東は数秒間、思考を巡らせた。


今ここで、この怪物を捕らえることは不可能だ。髙橋や鈴木ですら反応できない速度で移動している。

ならば、繋ぎ止めるしかない。


「……六名君、と言ったな」


東は天井を見上げたまま言った。


「先ほどの提案……『勅使河原組の残党を殺す』という件だが。

今、即決はできない」


「そうですか?」


「ああ。組織として検討する必要がある。

……追って連絡をする。連絡先を教えてくれ」


「……分かりました!」


シュンッ!


「うわっ!?」


鈴木がのけぞる。


六名がシャンデリアから消え、一瞬にして東のすぐ隣に移動していた。


「あいつ……ッ!!」


賢人は六名が降りてきたのを見て、理性のタガが外れた。


「殺すッ!!」


賢人はテーブルの上を駆け抜け、六名に飛びかかろうとする。


ガシッ!!


「……離せ! 鈴木さん! 離せよぉ!!」


鈴木浩三が、背後から賢人を羽交い締めにし、床に押さえ込んだ。


「音無! 今じゃない! ダメだ!」


「なんでだよ! 親の仇だぞ! 目の前にいるんだぞ!!」


「分かってる! 痛いほど分かるが……今やったらお前が死ぬ! こいつはヤベェんだよ!」


鈴木は必死に賢人を抑え込む。その巨体が震えるほどの力で、賢人はもがいていた。


その横で、六名はサラサラとメモ用紙に住所と電話番号を書き記した。


「……はい、これです。いつでも連絡くださいね」


「ああ。預かっておく」


東がメモを受け取る。


「では、今日はこれで……」


六名は帰ろうとして、ハッとした顔で振り返った。


「あぁ、いけない! ごめんなさい!

最初に渡すべきだったのに!」


六名は持っていた紙袋を、東のデスクに置いた。


「これ、ウチで漬けた『キムチ』です。

宗方が自信作だって言うんで、おすそ分けです。

美味しいので、皆さんで是非食べてくださいね?」


「……は?」


黒田やサラが呆気にとられる。


殺害予告をしに来た相手が、手作りキムチを置いていく異常さ。


「では! またお会いしましょう!」


六名はニッコリと笑い、軽く手を振った。


フッ……。


次の瞬間、六名の姿は完全に消失した。


気配も、音も、質量も残さず。ただ、キムチの入った紙袋だけを残して。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


賢人の絶叫が、がらんとした食堂に響き渡る。


「逃げられた……! 」


賢人は床に拳を叩きつけ、涙を流して慟哭した。


鈴木は何も言わず、ただ賢人の肩を抱きしめ続けた。


テーブルに残されたキムチの赤色が、まるで凝固した血のように、不気味に静まり返っていた。


六名が消えた後の食堂には、重苦しい沈黙と、置き去りにされたキムチの匂いが漂っていた。


しばらくの沈黙の後、音無賢人は鈴木の手を払い立ち上がる。東義昭の手元にあるメモ用紙——六名の連絡先が書かれた紙を、穴が開くほど見つめていた。


「……東さん」


賢人の声は、地を這うように低かった。


「その紙……見せてください」

「ダメだ」


東は即答し、メモを懐にしまおうとした。


「今の君に見せれば、君は単身で乗り込み、無駄死にするだけだ」


「……関係ない。俺の親の仇だ」


「組織の命令だ。頭を冷やせ」


「邪魔をするなら……!」


スゥッ……


賢人の姿が、世界から掻き消えた。


「無」の発動。気配も音もなく、東の懐へと肉薄する。


「鈴木! 鳴らせ!」


東が叫ぶ。


「チッ、すまねぇな音無!」


チリリリリリリ…………!!


鈴木浩三が鈴を激しく打ち鳴らす。


その音色が空間を支配した瞬間、東の目の前に、手を伸ばした賢人の姿が強制的に実体化した。


「しまっ……!」


賢人が舌打ちをした、その刹那。


トンッ。


横に控えていたアレックス・ターナーが、賢人の首筋に手刀を打ち込んだ。


的確かつ慈悲深い、意識を断つためだけの一撃。


「……あ……」


賢人の瞳から光が消え、その場に崩れ落ちた。


倒れる寸前、アレックスが優しくその身体を支える。


「……Sorryすまない, kid. 寝ていてくれ」


「……ふぅ」


東はネクタイを緩め、指示を出した。


「髙橋君、音無君を自室へ運べ。鍵をかけ、目覚めても出られないようにしろ」


「は、はい……。可哀想ですが、仕方ないですね」


髙橋が賢人を背負い、転移で消える。


東は残ったメンバー——鈴木、谷、白川、サラ、アレックス、幸田、黒田、勅使河原——を見渡し、手元のメモを広げた。


「全員、よく聞け。

この紙には、奴のアジトと思われる住所と番号が書かれている。

今から読み上げる。……全員、脳に刻み込め。一言一句間違えるな」


東は住所と番号を読み上げた。


全員が復唱し、記憶する。


「覚えたな? 私も覚えた」


確認を終えると、東はポケットからライターを取り出し、メモに火をつけた。


メラメラと紙が燃え上がり、灰になっていく。


「これで物理的な証拠は消えた。

音無君が目覚めても、この紙を奪って暴走することはできない。情報は我々の頭の中だけだ」


東は灰皿に燃えカスを捨て、椅子に深く座り込んだ。


「……さて。どうしたものか」


六名という規格外の存在。


その衝撃は、歴戦の猛者たちの心にも深い爪痕を残していた。


「……バケモンだな、ありゃあ」


鈴木が腕を組み、忌々しげに吐き捨てた。


「熊井や氷川とは違う。話が通じねぇ。『災害』が服着て歩いてるようなもんだ」


「ええ。センサーに一切反応しないなんて……」


サラが青ざめた顔で端末を抱きしめる。


「私の科学技術プライドが全否定された気分よ。あんなのが敵に回ったら、この要塞なんて紙細工だわ」


「……俺は、あいつの目が怖かった」


谷が震える手でタバコを取り出す。


「『殺した』って言いながら、まるで雑草でも抜いたみたいな顔をしてた。……罪悪感の欠片もねぇ。あれは『人間』の目じゃねぇよ」


「同感です」


白川も自分の腕をさすった。


「『秩序のため』『平和のため』……。彼の論理は、彼の中では完璧に成立している。だからこそ、説得も交渉も通用しない」


戻ってきた髙橋が、重い足取りで加わった。


「……僕の家族も、彼の基準では『掃除』の対象になるんでしょうか…?

能力者は消すべきだなんて……。あんな純粋な殺意、初めて見ました」


「……私は」


幸田美咲が、消え入りそうな声で呟いた。


「怖かったです。でも……少しだけ、悲しそうにも見えました。

『平和で退屈な日本に戻したい』って……。彼自身も、能力なんて欲しくなかったのかもしれません」


Crazyイカれてるな」


アレックスが首を振る。


「動機が何であれ、奴は虐殺を肯定している。……放置すれば、確実に大量の血が流れるぞ」


全員がそれぞれの感想を口にする中、部屋の隅で黒田たちK-Securityの面々は、絶望に打ちひしがれていた。


「……俺たちのせいだ」


黒田が頭を抱える。


「あいつは言った。俺たちが田村の件でヘマをしたから……『やっぱりゴミだ』って判断したって」


「俺たちが……親父や、対策局のみんなを危険に晒しちまった……」


横手も涙を流す。


その時。


ずっと黙っていた勅使河原州宏が、おもむろに立ち上がった。


彼は無言でジャケットを脱ぎ、シャツのボタンを外し、上半身裸になった。


背中には、鮮やかな刺青が彫られている。


「……親父?」


黒田が顔を上げる。


「ケジメを、つける」


勅使河原は懐から、白い布に巻かれた短刀を取り出した。


その目は据わっていた。


「俺の教育が行き届かなかったせいで、あんな化け物を呼び寄せちまった。

音無の小僧のご両親を侮辱させ、東先生たちにも迷惑をかけた。

……死んで詫びるしかねぇ」


「お、親父!?」


「やめてください!!」


組員たちが叫ぶ。


勅使河原は短刀を抜き、切っ先を自身の腹に向けた。


「黙って見てろ!!

……ゴミはゴミらしく、最後くらい綺麗に散らぁ!!」


「やめろぉぉぉ!!」


勅使河原が刃を突き立てようとした、その瞬間。


ガシッ!!


「……よせ」


アレックスが、勅使河原の手首を万力のような力で掴み、動きを止めた。


「放せ! 異人さんに止められる筋合いはねぇ!」


「離さん!」


アレックスは、短刀をもぎ取り、遠くへ放り投げた。


「死んで何になる!

あんたが腹を切って、あの六名とかいう怪物が消えるのか? 音無の両親が生き返るのか!?」


「……う、ぐっ……!」


「責任を感じるなら生きろ! 生きて、あいつと戦う戦力になれ!

それが……生き残った俺たちの『仁義(duty)』だろうが!」


アレックスの怒号に、勅使河原は膝から崩れ落ちた。


「……ちくしょう……ちくしょう……!」


「親父ぃぃぃ……!」


黒田と横手、そして組員たちが勅使河原に駆け寄り、抱き合って泣き崩れた。


無力感。絶望感。そして後悔。


洋館の食堂は、お通夜のような重苦しい空気に包まれた。


東は何も言わず、ただ燃え尽きたメモの灰を見つめていた。


答えは出ない。


ただ時間だけが、残酷に過ぎていった。

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