第35章 市民権を得た異能と合同合宿の号令
■テーブルA:豪快な宴(鈴木浩三 × 黒田義信)
「そら社長! グラスが空だぞ! 注げ注げぇ!」
鈴木浩三が、一升瓶を片手に豪快に笑う。
その向かいでは、新社長に就任したばかりの黒田義信が、恐縮しながらグラスを差し出していた。
「い、いただきます! ……鈴木さん、ペース速すぎじゃありませんか?」
「あぁ? 猟師は身体が資本だ、酒で消毒すんだよ!
それにしても黒田、お前あの時(地下)はガッツあったな。親父さんの為に命張れる奴は嫌いじゃねぇぞ」
鈴木がニカっと笑って背中を叩くと、黒田は照れくさそうに頭を掻いた。
「へへ……必死だったもんでなりふり構ってられなくて…
でも、鈴木さんのあの『木』の能力……マジでビビりましたよ。あんな一瞬で支えを作るなんて」
「おうよ! 今度ウチの山に来い。猪のさばき方、教えてやるからよ」
「え? いや、警備の仕事があるんで……」
「うるせぇ! 新人研修だ! 全員連れて来い!」
「ウ、ウスッ!!」
■テーブルB:中間管理職の悲哀(髙橋俊明 × 横手)
少し離れた席では、髙橋俊明と横手が、お互いにビールを注ぎ合っていた。
「あの……髙橋さん。その節は、事務所で怒鳴ったりしてすいませんでした」
横手が小さくなって謝る。
「いやいや、気にしてませんよ。お互い、上(親分・東)に振り回される立場ですしね」
髙橋は眼鏡を拭きながら、しみじみと言った。
「僕もね、普通のサラリーマンだったのに、気づけばこんな修羅場ですよ。妻には『ブラック企業』だと思われてますし」
「分かります……。俺らも『今日から警備員だ』って言われても、敬礼の仕方すら分かんねぇっすよ。
……あの、髙橋さん。もし良ければ、今度『社会人のマナー』とか教えてくれませんか?」
「ええ、喜んで。名刺の渡し方からやりましょうか」
「お願いします! 兄貴……いや、先輩!」
■テーブルC:大人の悪い時間(勅使河原 × 田治見 × 谷)
部屋の隅、一番濃いオーラを放っているテーブル。
元組長の勅使河原、闇医者の田治見、そして現職刑事の谷が、高級ウイスキーをロックで回していた。
「カッカッカ! まさかデカ(刑事)さんとこうして酒を飲む日が来るとはな。
世も末というか……面白い時代になったもんだ」
勅使河原が上機嫌でグラスを鳴らす。
「違げぇねぇ。本来なら手錠かけてるところだ」
谷が苦笑いする。
「だがまぁ、アンタがカタギになってくれたのは俺としちゃありがたいよ。これ以上、血なまぐさい事件は御免だからな」
「甘いねぇ、二人とも」
田治見がタバコの煙を吐き出した。
「平和ボケしてっと肝臓ヤラれるよ?
おい親父さん、アンタ数値が悪そうだな。あとでアタシの部屋に来な。新しい肝臓見繕ってやるよ」
「おい田治見! その肝臓どこの誰のもんだ!?」
「うるせぇな、医療行為だよ。……あれ?誰の肝臓か思い出せねぇな…?」
「おい!」
■キッチンカウンター:姐さんと舎弟たち(サラ × 若い衆)
「ほらほら! 食べる手が止まってるわよBoys!」
サラ・コッホは、若い元組員たちに囲まれ、女王様のように振る舞っていた。
彼女の手には特製のカクテル。
「姐さん! この料理マジで美味いっす!」
「サラ姐さん、これ何が入ってるんすか!?」
「ふふん、企業秘密よ。
あ、そこの君。野菜スティックのソースが足りないわ。マヨネーズと七味持ってきて」
「ヘイッ! 直ちに!」
屈強な男たちが、サラの指先一つでテキパキと動く。
その様子を見て、サラは満足げに頷いた。
「悪くないわね。日本のYAKUZAは働き者だわ。
ねえ、今度私の買い物にも付き合ってくれない? 荷物持ちが欲しかったのよ」
「喜んで! どこまででもお供します!」
■テラス:静かな観測者(音無 × アレックス × 幸田 × 白川)
喧騒から少し離れたテラスの入り口。
音無賢人は、カオスな宴会場を眺めながら、缶コーヒーを飲んでいた。
隣にはアレックス、そして料理を出し終えた幸田美咲と白川真純がいる。
「……すごい光景ですね」
美咲が目を丸くする。
「ヤクザの人たちが、エプロンつけて唐揚げ運んでるなんて……」
「ああ。世界で一番奇妙なパーティだ」
アレックスが笑う。
「だが、悪くない。……これだけの『異物』が混ざり合って、不思議とバランスが取れている」
「ええ。東先生の狙い通り……いえ、それ以上かもしれませんね」
白川が優しく微笑む。
賢人は、鈴木と黒田が肩を組んで歌い出し、髙橋が横手に名刺交換を教え、谷が田治見に絡まれているのを見て、ふっと口元を緩めた。
「……そうですね。
バラバラだったピースが、ここで一つになった気がします」
かつては孤独だった。
だが今は、この騒がしくも頼もしい「家族」がいる。
「さ、音無君。私たちも食べましょう」
美咲が小皿を差し出した。
「音無さんの好きな、出汁巻き卵です」
「ありがとう、幸田さん」
賢人は卵焼きを口に運び、噛み締めた。
出汁の優しい味が広がる。
それは、これから始まる過酷な戦いを前にした、束の間の、しかし確かな幸せの味だった。
夜は更け、洋館の灯りはいつまでも消えることはなかった。
■北海道上空・米軍ヘリ機内 〜 キャンプ千歳
鉛色の雲が垂れ込める北海道上空。
かつて在日米軍が駐留していた「キャンプ千歳」の滑走路に、漆黒のヘリが降り立った。
機内には、オレンジ色の囚人服を着せられ、手枷足枷を嵌められた男——氷川智宏がいた。
かつての傲慢さは見る影もない。彼は虚ろな目で下を向き、ガタガタと震え続けていた。
アメリカ本土での過酷な拷問と実験が、彼の精神を破壊していたのだ。
「……着いたぞ。降りろ、No.4(氷川)」
グレイ司令官が短く命じる。
氷川はビクリと肩を跳ねさせ、焦点の合わない目でよろよろと立ち上がった。
「あ……うぅ……」
タラップを降りると、北国の冷気が肌を刺す。だが、氷川は寒さなど感じていないようだった。心の中にある恐怖の方が、遥かに冷たかったからだ。
広い滑走路の真ん中。グレイは立ち止まり、顎で前方をしゃくった。
「……やれ。ここで氷を出せ」
氷川は震える手を前に伸ばした。
アメリカの独房では、どれだけ念じても氷のかけらすら出なかった。
だが、日本に戻ってきた今なら——。
「……『氷』……」
ヒュオッ。
氷川の手から冷気が噴き出し、地面を走った。
アスファルトの上に、直線状の氷の道ができる。
「……測定しろ」
「イエッサー。……長さ、約10メートルです」
部下の報告を聞き、グレイは眉をひそめた。
「10メートルだと? ……東京でのデータでは、ビル全体を凍結させるほどの出力があったはずだ」
グレイは氷川に歩み寄り、耳元で囁いた。
「手抜きか? ……もっと出せるだろう?」
「ひっ……!」
「もう一度やってみろ。全力でだ」
「だ、出しました……! これが限界なんです……!」
氷川が泣き顔で訴える。
「嘘をつくな」
グレイの声が低くなる。
「……まだ痛めつけられたいようだな?
今度は何がいい? 電極を脳に直結するか? それとも、またあの肉塊(金子)と同じ様になりたいか?」
「い、いやだぁぁぁ!!」
トラウマが刺激され、氷川は絶叫した。
「だ、出す! 出します! 許してぇぇぇ!!」
氷川は白目を剥き、口から泡を飛ばしながら、意味の分からない言葉を叫んで両手を突き出した。
「アガガガガッ!! 凍れぇぇぇ!!」
バキバキッ!
再び氷が生成される。
「……測定」
「……約11メートル。誤差の範囲です」
「ふむ」
グレイは興味なさそうに頷いた。
部下がタブレットを提示する。
「現在の気温、湿度、天候……全ての環境データは記録しました。この条件下での出力限界は、これで確定かと」
「よかろう。……やはり『場所』か?」
グレイは振り返り、全員に告げた。
「データは取れた。移動するぞ。
……今度は南だ。沖縄米軍基地へ向かう」
「……え?」
氷川の動きが止まる。
「同じように実験する。緯度による変化、あるいは『東京からの距離』が関係しているのかを検証する」
その言葉が、氷川の限界を超えた。
「じっ、けん……?」
氷川の瞳孔が開く。
「実験? 実験! 実験!! 実験んんんん!!!」
プツン。
氷川の中で何かが切れた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 殺してやるぅぅぅ!!」
氷川の身体から、制御不能な冷気が爆発的に溢れ出した。
自爆覚悟の暴走。
「司令! 危険です!」
部下がグレイを庇おうと前に出る。
だが、グレイは動かなかった。
「——『清』、鎮まれ」
凛とした声が響く。
その瞬間、氷川から噴き出していた猛烈な冷気が、ロウソクの火を吹き消すように、フッと掻き消えた。
「……あ、れ……?」
氷川は自分の手を見た。何も出ない。
彼の後ろには、軍服ではなく、ラフな私服を着た細身の日本人の男が立っていた。
いつのまにかヘリに同乗していた男——清原だ。
「……グレイ司令。お怪我は?」
清原が人の良さそうな笑顔で尋ねる。
「問題ない。……ナイスだ、清原君」
「いえいえ、全然気にしないでください。俺たち昔からの友人じゃないですか」
清原は、へたり込んでいる氷川を見下ろした。
彼の能力は『清』と『原』。他者の能力発動を強制的に「清め(無効化)」、鎮静化させる力を『原』によってある一定の広い範囲において、可能とする。鈴木の「鈴」に近いが、より広範囲で静的な制圧力を持つ。
「しかし司令……。氷川の氷、あんなもんでしたっけ?」
清原は首を傾げた。
「映像で見ましたけど、もっとこう……氷が遠くまで、爆発的に出ていた様な気がするんですけど……」
「ああ、私もそう思う」
グレイは顎を撫でた。
「アメリカ本土では全く発動できず、日本(北海道)に入ったら発動できるようになった。だが、威力は全盛期の数分の一……」
グレイは南の空を見つめた。
「やはり、『東京周辺』の方が強力だったようなイメージはあるな。
力の源泉があの地にあるのか、それとも『漢字』という概念の濃度が関係しているのか……」
「……ですよねぇ? 不思議なもんです」
清原は他人事のように笑った。
「ま、解明はこれからだ」
グレイは氷川に背を向けた。
「今度は沖縄で同じ実験をしてみるさ。この能力の発生条件と減衰率の解析が終われば……」
グレイは言葉に詰まった。
(解析が終われば…?終われば…)
「あがっ、離せ! 離せぇぇぇ!」
後ろでは、再び能力を封じられ、ただの狂人と化した氷川が、屈強な兵士たちに取り押さえられていた。
手足を拘束され、猿轡を噛まされ、荷物のようにヘリへと放り込まれる。
「……とりあえず出発だ」
重いローター音が響き渡る。
実験動物を乗せた黒いヘリは、次なる実験場——沖縄へと向けて飛び立った。
日本の空の下で、見えない侵略は着々と進行していた。
■繁華街・大通り
「オラオラァ! 道を空けろ! 一般人は下がってな!」
「怪我してぇのか! あっち行ってろください!」
昼下がりの繁華街は、異様な熱気に包まれていた。
揃いの黒いスーツに身を包み、腕に『K-Security』と刺繍された腕章をつけた強面の男たちが、必死の形相で交通整理を行っている。
その言葉遣いは荒いが、行動は迅速かつ献身的だ。逃げ遅れた老人を背負い、泣く子供を抱えて安全圏へと走る。
「社長! 半径200メートルの避難誘導、完了しました!」
「おう! よくやった! 一般人には指一本触れさせんじゃねぇぞ!」
黒田義信(社長)がインカムを押さえ、鋭い眼光で無線に叫ぶ。
「こちらK-Sec1(黒田)! 現場の完全封鎖完了!
対象は『炎』を操る覚醒者! 現在、コンビニ店内に立てこもり中! 興奮状態で、いつ爆発してもおかしくねぇ!」
黒田はゴクリと喉を鳴らし、空を見上げた。
「……舞台は整いました。いつでもどうぞ、本局!」
『了解。……搬入する』
無線から、髙橋俊明の冷静な声が響いた直後。
シュンッ!!
大気の圧力が変動する音と共に、コンビニの目の前の空間が歪んだ。
着地したのは三人の影。
作業着姿でふてぶてしく立つ鈴木浩三。
フードを目深に被り、気配を消した音無賢人。
そして、スーツの埃を払う髙橋俊明だ。
「で、出た! 対策局だ!」
「瞬間移動の人だ! 本当に来たぞ!」
遠巻きに見ていた野次馬たちから、どよめきと歓声が上がる。
「へっ、今日のギャラリーは一段と多いな」
鈴木が肩を回し、ボキボキと首を鳴らした。
「見世物じゃねぇんだがな。……おい、中の兄ちゃん! 火遊びは終わりだ。出てこい!」
自動ドアの向こう、レジカウンターの中で火の玉を弄ぶ犯人が叫び返す。
「う、うるせぇ! 近づくな! この店ごと燃やすぞ!」
「……懲りねぇな」
鈴木はタイミングを見計らってポケットから古びた鈴を取り出し、無造作に振った。
チリリリリリン……
澄んだ音色が、ガラスを透過して店内に満ちる。
その瞬間、犯人の手元で渦巻いていた炎が、蝋燭を吹き消すようにフッと掻き消えた。
「え? あ、あれ?」
犯人が狼狽え、何度も手を振る。
「なんでだ!? 火が……!」
その隙を、死角に潜んでいた「影」は見逃さなかった。
音無賢人は、鈴が鳴る前に既に裏口から「無」で侵入していた。
気配を殺し、呼吸を殺し、犯人の背後へと忍び寄る。
(……距離よし。体勢よし)
賢人は犯人の手首を掴むと同時に、関節の逆方向へとねじり上げた。
アレックス直伝の捕縛術(CQC)。
「ぐあぁっ!?」
「確保!」
賢人は悲鳴を上げる間も与えず、犯人をうつ伏せに制圧し、膝で背中を押さえて完全にロックした。
「よっしゃあ! 今だ、行け野郎ども!」
黒田の号令で、待機していたK-Securityの屈強な男たちが雪崩れ込む。
「確保ォォォ!」
「暴れんじゃねぇ!」
「店員さんは無事か!」
「怪我人は!? 救護班!」
元ヤクザの迫力で犯人を取り押さえ、同時に人質の店員を優しく(見た目は怖いが)保護する。その手際は、数多くの修羅場をくぐってきた彼らならではのものだった。
数分後。
現場に到着したパトカーから、引き継ぎの警察官が降りてくる。
「お疲れ様です。引き継ぎます」
「へい、よろしく頼みます刑事さん。……犯人は無傷です」
黒田が犯人を引き渡す。
その光景を見ていた市民たちから、自然と拍手が巻き起こった。
「ありがとうー!」
「また守ってくれた!」
「K-Securityのお兄さんたち、顔は怖いけど優しい!」
鈴木と黒田は顔を見合わせ、照れくさそうに鼻をこすった。
「……へっ。感謝されるってのも、案外悪くねぇな」
「違げぇねぇっす、鈴木さん。……これが、カタギの仕事ってやつですかね」
■洋館・トレーニングルーム
帰還後。
音無賢人は、装備を解く間もなくアレックス・ターナーに呼び止められていた。
「音無。ちょっと来い」
「は、はい。何かミスしましたか?」
賢人が恐る恐る近づくと、アレックスは真剣な表情で賢人の肩を掴んだ。
そして、ニカっと白い歯を見せて笑った。
「Good job(いい仕事だった).
さっきの制圧……完璧だったぞ」
「え……」
アレックスは、モニターに映し出された現場映像(アレックス視点の録画)を再生した。
賢人が犯人の手首を取り、流れるように地面に組み伏せるシーンだ。
「アプローチの静かさ、関節を極める角度、そして体重移動。……どれをとっても教科書通りだ」
アレックスは満足げに頷いた。
「以前のお前なら、ただ後ろから能力で気絶させていただろう。だが今回は、相手を傷つけずに物理的に制圧した。
……特訓の成果が出たな、音無」
「アレックスさん……」
賢人は胸が熱くなるのを感じた。
「ありがとうございます。……アレックスさんの教えのおかげです。
能力に頼り切りじゃダメだって、身体で分かりましたから」
「ははっ、素直な生徒は教え甲斐がある。
次はナイフ取り(ディスアーム)の応用を教える。……もっと強くなれよ」
師匠からの最大限の賛辞。
賢人は嬉しさを噛み締めながら、深く頷いた。
■洋館・リビング
夜。リビングの大型テレビでは、今日のニュースが流れていた。
『——ニュースです。
本日未明、連続強盗事件の容疑者として、覚醒者の男が確保されました。
協力したのは、先月発足した「覚醒者特別犯罪対策局」と、民間警備会社「K-Security」の合同チームです』
画面には、テキパキと動く黒服たちと、それを指揮する鈴木や髙橋の姿が映し出されている。
街頭インタビューの映像が流れる。
『いやぁ、頼もしいですよ。警察だけじゃ不安でしたけど、あの人たちが来てくれると安心します』
『最初は怖かったけど、みんな良い人たちで。ウチの猫が逃げた時も、音無さんって人が見つけてくれたんです』
『K-Securityのお兄さんたち、見た目はアレだけど礼儀正しいしね』
リビングのソファで、東義昭と勅使河原州宏は、そのニュースを見ながらコーヒー(と日本酒)を飲んでいた。
「……どうやら、定着してきたようだな」
東が満足げに呟く。
「『覚醒者は怖い』というイメージが、『覚醒者は頼りになる』へと変わりつつある。
世論調査でも、対策局への支持率は急上昇中だ。新法案の審議も、これで一気に進むだろう」
「カッカッカ! 世も末だと思ったが、案外捨てたもんじゃねぇな」
勅使河原は酒を煽り、画面の中の黒田たちを見て目を細めた。
「あいつら……俺の下で看板背負ってた時より、ずっとイイ顔してやがる。
『日陰者』が『日の当たる場所』を大手を振って歩けるようになるとはな。
……東先生、あんたには感謝してもしきれねぇよ」
「礼には及ばん。彼らが優秀なだけだ」
東は書類に目を落とした。
「清掃、警備、情報収集……。彼らの働きのおかげで、この街の犯罪検挙率は過去最高を記録している。
……先日など、警察庁長官が『ウチの若いモンも見習わせたい』とボヤいていたくらいだ」
「ガハハ! そいつは痛快だ!」
そこへ、トレーニングを終えた賢人やアレックス、そして他のメンバーたちがぞろぞろと食堂へ集まってきた。
「ただいまー! 今日は忙しかったわね!」
サラが上着を脱ぎ捨てる。
「お帰りなさい! ご飯できてますよ!」
幸田美咲がエプロン姿で出迎える。
「おう、腹減った! 今日はなんだ?」
「今日はリクエストにお答えして、唐揚げタワーです!」
「最高だ!!」
鈴木、音無、髙橋、黒田、谷……。
立場も過去も違う者たちが、一つの食卓を囲み、今日の戦果を笑い合う。
唐揚げタワーがみるみるうちに崩され、ビールが空いていく。
東はその光景を見て、静かにコーヒーカップを置いた。
「……さて、勅使河原さん」
東が声をかけると、上機嫌で日本酒をあおっていた勅使河原が振り返った。
「ん? なんですかい、先生。もっと酒が欲しいなら……」
「いや、十分だ。……話したいのは、今後のことだ」
東は眼鏡の位置を直し、真剣な眼差しを向けた。
「地盤は固まった。実績も十分だ。
だが……現状に満足していては、足元をすくわれる」
「ほう?」
「見ての通り、現場での連携は上手くいっている。だが、それはあくまで『個人のセンス』に頼っている部分が大きい」
東は、楽しげに話す音無と黒田たちを指差した。
「覚醒者である彼ら(対策局)と、大半が非覚醒者である彼ら(K-Security)。
この二つの異なる戦力が、より有機的に、より緻密に連携できれば……我々は警察組織をも凌駕する『最強の部隊』になれるはずだ」
東はテーブルに身を乗り出した。
「そこで提案だ。
近日中に、対策局とK-Securityによる『合同大規模訓練』を行いたい」
「合同訓練……ですかい?」
「そうだ。実戦形式で、対策局とK-Securityが互いの強みと弱みを理解し合う。
……ただの下請けとしてではなく、真の『パートナー』として戦えるように練度を上げるのだ」
その提案に、勅使河原はニカっと破顔した。
「カッカッカ! 厳しいねぇ先生は!
せっかく軌道に乗ったってのに、まだ休ませてはくれねぇか!」
勅使河原は盃を飲み干し、ドンとテーブルに置いた。
「だが、悪くねぇ話だ!
ウチの若いモンも、ただ交通整理してるだけじゃウズウズしてたところだ。
覚醒者の旦那方と肩を並べて戦えるなら、願ったり叶ったりだぜ!」
「交渉成立だな」
東は満足げに頷くと、食堂全体に響く声で宣言した。
「全員、聞け!
明後日より、対策局とK-Securityによる『合同強化訓練』を行う!」
「「「えぇーっ!?」」」
唐揚げを頬張っていた鈴木と黒田が同時に声を上げる。
「場所は裏山だ!
鈴木君、髙橋君! 君たちが教官となり、黒田君たちを徹底的に鍛え上げろ!
音無君、アレックス君! 君たちは彼らと連携し、死角のないフォーメーションを完成させるんだ!」
「げっ、マジかよ……」
鈴木が嫌そうな顔をするが、その目は笑っていた。
「ま、黒田たちをシゴくのは楽しそうだけどな」
「望むところっすよ! 鈴木さん、手加減なしでお願いします!」
黒田が立ち上がり、敬礼する。
「ふふ、忙しくなりそうですね」
美咲が微笑みながら、追加の唐揚げを運んでくる。
「ああ。……もっと強くならないとな」
賢人も拳を握りしめ、隣のアレックスと頷き合った。
平和な日常を守るため、彼らは立ち止まらない。
最強のチームを、さらに強固な「組織」へと進化させるための、熱い日々が始まろうとしていた。




