第15章 外交カードの応酬と見限られた政治家
◾︎警察署 仮設留置所
別棟の大会議室で、白川たちが幸田美咲の説得に当たっている頃。
本庁舎の瓦礫から少し離れた、仮設の留置場エリア。
谷雄一は、廊下のベンチで缶コーヒーを飲みながら、何気なくその「耳」を使っていた。
(……ん?)
谷の眉がピクリと動く。
「谷」の能力が、無数の足音の中から「異質な一つ」を拾い上げたのだ。
制服警官の革靴の音。だが、その歩き方はあまりに訓練されすぎていた。重心の移動がスムーズで、衣擦れの音さえ最小限に抑えられている。
(……ただの巡査じゃねぇな。誰だ?)
谷は缶コーヒーを置き、音もなく立ち上がって腰のホルスターに手を掛けた。
「はーい、夕食の時間よー」
留置場の独房。サラ・コッホは、鉄格子の前に立った制服警官を見上げた。
盆には、ラップのかかったカツ丼と味噌汁が乗せられている。
警官は無言で、配膳口から食事を差し入れようとした。
「……ちょっと待って」
サラの声が、鋭く響いた。
「ねえ、お兄さん。……これ、毒入ってるでしょ?」
警官の手がピタリと止まる。
隣の独房にいたアレックスが、弾かれたように立ち上がった。
「サラ! 気をつけろ!」
「大丈夫よ、アレックス」
サラはフフッと笑い、鉄格子越しに警官——変装した米軍の諜報員——を見下ろした。
「ねえ、あなた。私たちの『後輩ちゃん』でしょ? 匂いで分かるわよ、その緊張感」
サラは教師のような口調で言った。
「毒を使うなら、もっと無臭のものを選びなさい。あと、配膳する時に心拍数が上がりすぎ。……先輩として、ちゃんと教えてあげないとね」
諜報員は表情を消し、盆を放り捨てた。
懐から取り出したのは、銃ではなく、細長い筒——吹き矢だ。
ヒュッ!
風を切る音と共に、微細な針がサラの首筋を狙う。
「っと」
サラは最小限の動きで首を傾げ、針を避けた。針は壁に突き刺さる。
ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!
諜報員は凄まじい速さで次々と針を放つ。
狭い独房の中、逃げ場はないはずだ。しかしサラは、まるでダンスでも踊るかのように、紙一重で全ての針を躱していく。
「あはは! 懐かしいわねそれ!」
サラは笑いながらステップを踏む。
「私も昔よく使ってたわー。音が出なくてとっても良いよね! 擦りでもすれば終わりだし!でもさ、弾速が遅いのよ、それ!」
サラが挑発した瞬間、諜報員が焦って次弾を装填しようとした。
「——動くな!!」
ガァン!!
留置場の扉が蹴り開けられ、谷雄一が拳銃を構えて飛び込んできた。
後ろには数名の警官が控えている。
「警察だ! 武器を捨てろ!」
諜報員は舌打ちし、抵抗を諦めて両手を上げた。
完全に包囲されている。
「……確保!」
警官たちが雪崩れ込み、諜報員を取り押さえる。
谷は肩で息をしながら、サラの独房へと駆け寄った。
「おい! 大丈夫かサラ!」
「あら刑事さん。ナイスタイミング」
サラは涼しい顔で、壁に刺さった吹き矢を引き抜いていた。
「余裕だよ。……正直、もっと早く激しく殺しに来ると思ったのに。吹き矢なんて古風な手を使うなんて、皆日本に来ると奥ゆかしくなるのかしら?」
サラは冗談を飛ばしながら、毒入りのカツ丼と、数本の吹き矢の先端をハンカチに包み、鉄格子の隙間から谷に渡した。
「はい、これ証拠品。大事なプレゼントよ」
「あ?」
「捕まったあの『後輩』と、この吹き矢、そして毒入りの食事……。これらをセットにして、あの**『東』ってヤツに相談してみて**」
サラの瞳が、策士の色を帯びる。
「『米軍が日本の警察署内で、重要証人を暗殺しようとした』。……これ、最高の外交カードになるでしょ?」
谷は受け取った証拠品を見つめ、ニヤリと笑った。
「……なるほどな。転んでもただじゃ起きない女だ」
谷は証拠品をポケットにしまった。
「分かった。すぐに東先生に連絡する。……それとな、三日後だ」
「三日後?」
「ああ。お前たちの身柄を、新設される『覚醒者特別犯罪対策局・本部兼合宿所』へ極秘輸送する。……それまで、ここで寝ずに持つか?」
ここ(留置場)はもう安全ではない。いつまた刺客が来るか分からない状況だ。
サラは髪をかき上げた。
「四日までは寝なくても大丈夫だけど……肌に悪いから、なるべく早く輸送して欲しいわね。美容睡眠は大事なのよ」
「善処する」
谷は短く答えると、踵を返した。
「アレックスも無事だな? ……少し待ってろ、すぐにここから出してやる」
谷が慌ただしく出ていくと、留置場には再び静寂が戻った。
「……ふぅ」
アレックスが壁に背中を預け、天井を仰いだ。
「分かっていたことだが……グレイの野郎、完全に俺たちを殺しに来てるな」
「そりゃそうでしょ? むしろ遅かったくらいだよ」
サラは壁に刺さった残りの針を見つめ、自嘲気味に笑った。
「……ねえ、アレックス」
「ん?」
「私ね、あの東の書類にサインする前だったら……ここで殺されても、まあいいかなって思ってたの」
サラの声が、少しだけ震えた。
ずっと、組織の駒として生きてきた。用済みになれば捨てられるのが運命だと思っていた。
「でもさ……」
サラは脳裏に、あの車内で見た音無の不器用な笑顔や、これから始まる奇妙な共同生活を思い浮かべた。
「生きる理由が、新たに出来ちゃったからさ」
サラは鉄格子を強く握りしめた。
「……今、死ぬわけにはいかないんだよね」
アレックスは、隣の独房から小さく笑い声を上げた。
「奇遇だな。俺もだ」
二人の元スパイは、迫りくる死の影を振り払うように、暗闇の中で力強く頷き合った。
彼らはもう、ただの駒ではない。生きる意志を持った「仲間」だった。
◾︎深夜 衆議院議員 東義昭 事務所
深夜の議員会館。東義昭の執務室には、まだ明かりが灯っていた。
静寂を切り裂くように、デスクの上の秘匿回線専用の携帯電話が震える。
「……私だ」
東は書類に目を落としたまま応答した。電話の主は、青梅警察署にいる谷雄一だ。
『……報告します、東先生。先ほど、留置場内でサラ・コッホとアレックス・ターナーへの暗殺未遂が発生しました』
「ほう?」
東の手が止まる。
『実行犯は、警察官に変装した米軍の諜報員と思われます。サラの機転と私の介入で現行犯逮捕し、毒物と凶器の吹き矢も押収しました。二人も無事です』
谷の声は、緊張と疲労で強張っていた。
『ですが、警察署内にまで刺客が入り込むとは……。奴ら、本気で口封じに来ています。先生、通常の警備では限界が……』
「……クク」
受話器の向こうで漏れた低い笑い声に、谷は言葉を詰まらせた。
『……先生?』
「ククク……ハハハハハッ!!」
東は天井を仰ぎ、狂ったように高笑いをした。
深夜のオフィスに、悪魔の哄笑が響き渡る。
『ひ、東先生!? 笑い事じゃありません! 現場は命懸けで……』
「笑わずにはいられんよ、谷君。……でかした!」
東は椅子を蹴って立ち上がり、窓ガラスに映る自分のニヤついた顔を見つめた。
「それはただの事件じゃない。**『傑作』**だ」
「傑作……?」
「そうだ。君たちは今、ただの暗殺者を捕まえたんじゃない。**『アメリカの首輪』**を手に入れたんだよ」
東の瞳が、獲物を追い詰める蛇のように細められた。
「『同盟国であるアメリカが、日本の警察署内で、証拠隠滅のために毒殺を図った』……。この事実は、核兵器に匹敵する外交カードになる。これを使えば、グレイの野郎も二度と我々に手出しはできん」
東は声を潜め、矢継ぎ早に指示を飛ばした。
「いいか谷君、よく聞け。その実行犯を、絶対に所轄の留置場に入れるな」
『えっ? しかし、手続き上は……』
「手続きなどドブに捨てろ! 通常の刑事手続きに乗せて調書を作れば、翌朝にはアメリカ大使館員が飛んできて、『日米地位協定』と『公務中の事故』を盾に身柄を連れ去っていくぞ。みすみす証拠を返すつもりか?」
『そ、それは……! では、どうすれば』
「今すぐ署の裏口を開けておけ。私の息がかかった**『公安』**の人間を向かわせる。犯人と証拠品は、すべて公安のブラックボックスに放り込め。書類上、犯人は『身元不明の浮浪者』として処理し、存在を消せ」
『……公安、ですか。分かりました、現場の責任は俺が持ちます』
「頼もしいな。この『貸し』は大きいぞ。新組織での君のボーナスに色をつけておこう」
東は一度言葉を切り、時計を見た。午前3時。
「それと、サラとアレックスの処遇だ。移送を早める。3日後などと悠長なことは言っていられない」
『はい。ですが、これだけマークされているとなると、護送車を出しても襲撃される可能性が……』
「だからこそだ。……裏をかく」
東はニヤリと笑った。
「明日の夜明け前……午前4時半だ。裏口に**『ゴミ収集車』**を一台向かわせる。それに紛れて脱出させろ」
『ゴ、ゴミ収集車!?』
「ああ。運転手には、信頼できる**『あの男』**を手配した。……スパイ映画のようで、彼らも気に入るだろうよ」
電話を切った直後、東は部屋のドアを開けた。
そこには、連絡を受けて待機していた長宗我部政宗と、弁護士の高柳慎吾が立っていた。
「……話は聞いた。東君、アメリカが動いたのか?」
長宗我部が険しい顔で問う。
「ああ。だが、尻尾を掴んだ」
東は高柳に視線を向けた。
「高柳、仕事だ。公安と連携して、捕らえた実行犯の自供ビデオと、毒物の分析データを即座に作成しろ。法的効力のある『脅迫状』を作るんだ」
「……承知しました」
高柳は眼鏡を光らせ、冷静に頷いた。
「宛先は、在日米軍司令部……グレイ氏でよろしいですか?」
「その通りだ。『お宅の部下を預かっている。これが公になれば日米同盟に亀裂が入るな? 我々に干渉するな。そして……金剛寺を切れ』とな」
東はワイングラスを手に取り、空に掲げた。
「これでチェックメイトだ。金剛寺は孤立し、アメリカは沈黙する。……夜明けと共に、我々の時代が来るぞ」
◾︎午前4時30分 警察署の裏口搬入口
薄暗がりの中、一台の大型パッカー車(ゴミ収集車)が、重低音を響かせて停車した。
裏口から、谷に先導されてサラとアレックスが出てくる。
二人は手錠を外され、ラフなスウェット姿に着替えていた。
「……Hey, detective(ねえ刑事さん)。迎えの車って、リムジンじゃなかったの?」
サラが目の前の薄汚れたトラックを見て、呆れたように眉を上げた。
「文句を言うな。一番目立たない車だ」
谷が苦笑いする。「ほら、運転手が待ってる」
運転席のドアが開き、降りてきたのは……作業着にタオルを頭に巻いた、巨大な男だった。
「……おぅ。待たせたな」
鈴木浩三だ。彼は不機嫌そうに軍手を直した。
「す、鈴木さん!? なんであなたが?」
アレックスが目を丸くする。
「東の野郎に叩き起こされたんだよ。『初仕事だ、行ってこい』ってな。……ったく、俺は猟師だぞ? なんでゴミ収集車の運転なんざしなきゃならねぇんだ」
鈴木はトラックの後部を指差した。
「ほら、乗れ。荷台は空にしてある。臭いは……まぁ我慢しろ」
サラはトラックを見上げ、次いで鈴木を見て、吹き出した。
「あはは! 最高! 007でもこんな脱出劇はないわよ!」
「笑ってねぇで早く乗れ! グズグズしてっと、また変なのが湧いてくるぞ!」
鈴木が急かすと、アレックスがサラの手を取って荷台のスペースへと押し上げた。
「……Thank you, Suzuki. 借りができたな」
「借りは出世払いでいい。……しっかり掴まってろよ! 飛ばすからな!」
鈴木が運転席に乗り込み、エンジンを吹かす。
ブォォォォン!!
「谷さん、ありがとう! また基地で!」
サラが手を振り、ゴミ収集車は朝霧の中へと消えていった。
見送った谷は、大きく伸びをした。
「……やれやれ。これで肩の荷が下りたか」
ポケットの中の携帯が震える。
画面には『白川』の文字。
「……おう、白川か。ああ、スパイ二人は出荷完了だ。……そっちはどうだ?」
『はい。音無君と幸田さんの準備、完了しました』
「よし。……俺たちも行こうか。新しい職場へ」
朝日が昇り始める。
瓦礫と化した警察署を背に、それぞれの「正義」を持った者たちが、一つの場所へと集結しようとしていた。
■在日米軍基地 司令官執務室
朝の冷ややかな光が、ブラインドの隙間から差し込んでいた。
無機質な執務室で、グレイは湯気の立つブラックコーヒーを片手に、デスク上のタブレット端末を見下ろしていた。
画面に映っているのは、東義昭から送られてきた「プレゼント」だ。
拘束された部下の自供ビデオ。毒物の詳細な成分分析表。そして、弁護士・高柳慎吾の名で作成された、法的効力を持つ警告文。
『貴国の関与を示す証拠は全て保全した。これらが国連や国際メディアに流出するのを望まないのであれば、以下の条件を呑まれたし』
グレイは表情一つ変えず、画面をスクロールさせた。
条件はシンプルかつ絶対的だ。「我々への干渉停止」と「金剛寺武との絶縁」。
「……ふっ」
グレイの口から、乾いた笑いが漏れた。
彼はタブレットを叩き割ることも、無能な部下を罵ることもしなかった。ただ、静かにコーヒーを一口啜り、その香りを愉しんだ。
「……一本取られたな」
独り言のように呟く。その声には、屈辱よりも、敵将への奇妙な敬意が混じっていた。
(東義昭……。ただの日本の政治家だと思っていたが、ここまでやるとは)
グレイは脳内で、瞬時に損益計算を行った。
部下の暗殺失敗は痛手だ。だが、それ以上に致命的なのは、この「証拠」を握られたことだ。
もしこれが公になれば、日米同盟に亀裂が入り、自分のキャリアはおろか、極東における米軍の戦略そのものが崩壊する。
(……『詰み(チェックメイト)』だ。この局面、私の負けだ)
グレイは即座に思考を切り替えた。
負けた勝負に執着するのは三流のすることだ。一流は、傷が浅いうちに撤退し、次の機会を待つ。
彼は内線電話の受話器を取り上げた。
「……私だ。作戦室へ通達」
グレイの声は、氷点下のように冷徹だった。
「コードネーム『K』……金剛寺案件は、これをもって凍結する。……いや、廃棄だ」
電話の向こうで、部下が息を呑む気配がした。
『は、廃棄ですか? しかし、彼には多額の資金を……』
「損切りだ。関連データは全て消去しろ。資金ルートも今すぐ遮断だ。……彼との通信記録もな」
グレイは窓の外、遥か彼方の空を見つめた。
「あの男はもう用済みだ。……東たちに、餌としてくれてやる」
『……イエッサー』
電話を切ると、グレイは窓ガラスに映る自分の顔を見て、ニヤリと笑った。
「サラ、アレックス……。優秀な飼い主を見つけたようだな」
かつての部下たちが、敵の懐刀として生き延びたことを悟る。
だが、それもまた一興。
「いいだろう、東義昭。今回は引いてやる。……だが、忘れるなよ」
グレイはタブレットの電源を切り、ゴミ箱へと無造作に放り投げた。
「次に会う時は、ビジネスではない。……戦争だ」
米軍という巨大な後ろ盾は、音もなく、潮が引くように日本から手を引いた。
後に残されたのは、裸の王様だけだった。
■金剛寺武 個人事務所
「……おい、どうなっている!」
金剛寺武は、パソコンの画面を睨みつけながら絶叫した。
画面には、海外の隠し口座の残高が表示されているはずだった。しかし、そこにあるのは『Account Frozen(口座凍結)』の赤い文字だけ。
「ふざけるな! なぜだ! なぜアクセスできない!」
金剛寺は震える手でスマートフォンを取り出し、グレイへの直通回線をコールした。
この回線だけは、どんな時でも繋がるはずだった。
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』
無機質なアナウンス。
金剛寺は耳を疑った。もう一度かける。何度かけても同じだ。
「使われていない……だと? 馬鹿な、昨日まで話していたんだぞ!」
金剛寺は受話器を投げ捨て、裏の連絡用の専用端末を起動した。
しかし、画面には『No Signal(信号なし)』の表示。
全てのホットラインが、物理的に切断されていた。
「あ、あぁ……」
金剛寺はその場に崩れ落ちた。
理解したくなかったが、理解せざるを得なかった。
「切られた……。切り捨てられたのか、私が!?」
資金も、武器の供給ルートも、そして最大の権威であるアメリカの後ろ盾も。
全てが一瞬にして消滅した。
あの「来春まで」という約束すら、反故にされたのだ。
「グレイィィィ!! 貴様ァァァ!!」
金剛寺は狂ったように叫び、デスクの上の高級な調度品を次々と床に叩きつけた。
ガシャーン! バリーン!
陶器の割れる音と、男の絶叫が事務所に響き渡る。
騒ぎを聞きつけた氷川と熊井が、ドアを開けて顔を出した。
「おいおい、どうしたんですか先生。またヒステリーか?」
氷川が足を庇いながら呆れたように言う。
金剛寺は、充血した目で二人を睨みつけた。
その形相は、もはや政治家のそれではなかった。追い詰められ、傷ついた手負いの獣の顔だった。
「……終わった。何もかもだ」
金剛寺は血の滲む手で髪をかきむしった。
「アメリカは私を見捨てた! 資金も止まった! ……もう、私には何もない!」
「あぁ? 何もないって、じゃあ俺たちの報酬はどうなるんだよ」
熊井が不満げに唸る。
「うるさい! 金だ金だと喚くな!」
金剛寺は熊井に向かって花瓶を投げつけた。熊井はそれを片手で弾く。
「……落ち着けよ、先生」
氷川が冷ややかな目で言った。
「金がないなら作ればいい。……まだ手はあるでしょ?」
「手だと……?」
「音無賢人とあと民間人の髙橋だっけ?」
氷川はニヤリと笑った。
「グレイに売れないなら、他の国に売ればいい。中国でもロシアでも、あの『透明人間』や『転移能力』の髙橋を欲しがる組織は山ほどある。それに来年の春までの約束も多分無くなったんじゃないかなぁ?だから俺たちも音無捜索に全力出せるでしょ?」
(それに幸田ちゃんも多分音無と一緒にいると思うしなぁ…)
その言葉に、金剛寺の目に狂気じみた光が戻った。
「……そうだ。そうだな」
金剛寺は立ち上がり、歪んだ笑みを浮かべた。
失うものはもうない。名誉も、地位も、未来も。
ならば、この国そのものを道連れにしてでも、生き延びてやる。
「東……長宗我部……そして裏切り者のグレイ……!!」
金剛寺は拳を握りしめ、呪詛のように呟いた。
「許さん……絶対に許さんぞ……! 私をコケにした全員、地獄へ道連れにしてやる!」
「やるぞ、お前たち! 手段は選ばん! 街の一つや二つ消し飛んでも構わん! 音無と髙橋を確保し、換金し、その金で……奴ら全員をぶっ殺す!」
悪徳政治家は死んだ。
そこに生まれたのは、世界への復讐を誓う、最悪のテロリストだった。




