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巡り巡る 〜漢字の意味が世界を変える世界〜  作者: 暇な鍼灸師


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第14章 最強の虎の穴と少女を守る透明な盾



◾︎永田町 衆議院議員 東義昭 事務所



契約書への署名が終わり、張り詰めていた空気が僅かに緩んだ頃、東義昭は次なる資料をテーブルに広げた。


「組織はできた。次は『拠点』の話だ」


東が指差したのは、都心から少し離れた郊外にある、広大な敷地を持つ洋館の写真だった。


「政府が差し押さえた元華族の別邸だ。ここを**『覚醒者特別犯罪対策局・本部兼合宿所』**とする」


「合宿所……?」


音無賢人が眉をひそめる。


「そうだ。音無君、君には帰る家がない。サラ君とアレックス君も、身分上は『保護観察中の外国人』だ。ホテル暮らしをさせるわけにもいかん」


東は淡々と言い渡した。


「よって、行き場のない者、家族のいない者は、この館で共同生活を送ってもらう。24時間体制で連携を取り、即応体制を敷くためだ」


それを聞いて、髙橋俊明が恐縮そうに手を挙げた。


「あー、東先生。俺は家族がいますので、そこには住めませんよ?」


「分かっている。髙橋君は自宅から通い、緊急時のみ『転移』で駆けつけてくれればいい」


東は鈴木浩三の方も向いた。


「鈴木君もだ。君は山が拠点だ。無理に都会で暮らす必要はない」


「おう、助かるぜ。あんなデカい屋敷じゃ、落ち着いて眠れもしねぇからな」


鈴木は安堵の息をついた。


「問題ないな。では……」


東は一枚の写真をピックアップし、テーブルの中央に置いた。


まだあどけなさの残る少女——幸田美咲の写真だ。


「この『幸田美咲』も、ここに住まわせる」


その言葉に、白川真純が反応した。


「幸田さんを……ですか? 彼女は職員ではありません。あくまで保護対象です」


「だからこそだ」


東は書類に目を落としたまま、事務的に答えた。


「彼女は両親を殺され、天涯孤独となった。しかも犯人の氷川はまだ捕まっていない。彼女を一人にするのは危険すぎる。……この『合宿所』で、君たちが24時間体制で守るのが、最も合理的だ」


もっともな意見だ。


誰もが納得しかけた、その時だった。


(——『白』)


白川の視界が切り替わる。


刑事としての勘が、東の言葉に微かな違和感を覚えたのだ。


「最も合理的」「守るため」。その言葉を発した瞬間、東の全身がカッと白く発光した。


——嘘。あるいは、重大な隠し事。


白川は表情を険しくし、立ち上がった。


「……東先生。嘘をおっしゃらないでください」


「……ん?」


東が顔を上げる。


白川は東を睨みつけた。


「『守るため』……それだけじゃありませんよね? 貴方は、彼女をこの家に住まわせることで……何か別の目的を果たそうとしている」


室内の空気が一変する。鈴木や髙橋が驚いて東を見る。


白川は確信を持って告げた。


「先生。貴方は幸田さんを……あの殺人鬼・氷川をおびき寄せるための**『生きた餌(囮)』**にするつもりですね?」


その言葉に、鈴木が激昂した。


「なっ……! おい東! 本当か!?」


「囮って……彼女はまだ子供ですよ!?」


髙橋も非難の声を上げる。


しかし、東は悪びれる様子もなく、眼鏡の位置を直した。


「……フン。流石に勘がいいな、白川刑事」


東は椅子に深く座り直し、冷ややかな瞳で全員を見渡した。


「その通りだ。否定はしない」


「……ッ!あなたには人の心がないんですか!」


白川が机を叩く。


「彼女は両親を殺されたばかりなんですよ! 心の傷も癒えていないのに、あんな奴の前に晒すなんて……!」


「人の心、か」


東は鼻で笑った。


「では聞くが、白川君。……君は彼女をどこに隠すつもりだ?」


「え?」


「警察病院か? ビジネスホテルか? それとも君の自宅か?」


東は冷酷に現実を突きつけた。


「そんな場所、氷川の能力の前では紙切れ同然だ。奴は必ず彼女を見つけ出し、奪いに来る。その時、君一人で守りきれる保証があるのか?」


「そ、それは……」


「いいか、よく聞け」


東は立ち上がり、ホワイトボードの『合宿所』の図面を指差した。


「囮? 違うな。……『最強の要塞』のド真ん中に、一番大事な姫を置くだけだ」


東の熱弁が振るわれる。


「今の彼女は、氷川が生きている限りどこにいても狙われる。ならば、逆転の発想だ。

能力無効化の猟師(鈴木)、空間使い(髙橋)、元凄腕スパイ(サラ・アレックス)、そして透明な暗殺者(音無)、そして白川君、谷君の君たち二人……。

このメンバーが寝食を共にするこの家こそが、**現在日本で最も安全な『虎の穴』**だ」


東は白川を指差した。


「彼女を確実に守り、かつ、向こうからノコノコやってきた氷川を確実に始末する。……これ以上に合理的で、彼女の生存率が高いプランがあるなら言ってみろ」


ぐうの音も出ない正論。


白川は唇を噛み締め、俯いた。


「……最低です。でも……否定できません」


「けっ、胸糞悪ぃ話だ」


鈴木が吐き捨てるように言った。


「か弱い嬢ちゃんを餌にするなんてよぉ。……だが、確かに俺たちの目の届く範囲にいてくれた方が、守りやすいのは事実だ」


「悔しいですが……東先生の言う通りですね」


髙橋も苦渋の表情で眼鏡を拭いた。


「下手に隠れてコソコソするより、ここで堂々と待ち構える方が安全か……」


一般人たちが倫理的な嫌悪感を示す中、プロフェッショナルな二人が口を開いた。


Bravoブラボー。完璧な作戦ね」


サラがパチパチと手を叩いた。


「感情論抜きで言えば、100点満点のプランよ。ターゲット(氷川)の執着心を利用して、キルゾーン(殺害エリア)に誘い込む。……スパイの教本に載せたいくらいだわ」


「ああ。俺も賛成だ」


アレックスも腕を組んで頷く。


「護衛対象を護衛能力外に置くのは愚策だ。一箇所に固めて、火力を集中させる。それが一番生存率が高い。……残酷だが、それが戦場のリアルだ」


プロの視点からの全面肯定。


場の空気は、「嫌だが、やるしかない」という方向で固まった。


その一部始終を、音無賢人は黙って聞いていた。


(囮、か……)


賢人の脳裏に、昨夜の避難所で見た美咲の姿が浮かぶ。


『俺もだ』と言った時の、彼女の空虚な瞳。


自分と同じ、理不尽に全てを奪われた人間。


賢人は東を睨んだ。この男は悪魔だ。目的のためなら人の心を踏みにじる。


だが、その悪魔の知恵がなければ、強大な敵には勝てないことも理解していた。


(……いいだろう。東、あんたが彼女を『餌』として使うなら)


賢人は拳を強く握りしめ、心の中で静かに、しかし熱く誓った。


(俺は、その餌に食らいつこうとした敵の喉笛を、誰よりも早く食い破る『トラップ』になってやる)


「……分かりました」


賢人は顔を上げ、静かに告げた。


「俺も、そこに住みます。……彼女の部屋の隣にでも俺の部屋を作ってください」


「……音無君?」


白川が驚いて彼を見る。


「餌だか囮だか知りませんが……俺がいる限り、彼女には指一本触れさせません」


その言葉に、東は満足げに口角を上げた。


「……交渉成立だな。では、引越しの準備に取り掛かりたまえ」


こうして、奇妙な共同生活が始まることになった。

一つ屋根の下、最強の能力者たちと、悲劇の少女。そして、それを取り囲む悪意と陰謀。


新しい拠点は、安息の地となるか、それとも死の檻となるか。


誰もが不安と覚悟を抱えながら、それぞれの準備へと散っていった。



◾︎午後 永田町



東の事務所ビルを出た一行は、それぞれの帰路についた。


「んじゃ、俺は山に戻って荷造りだ。三日後にな」


「ええ。僕も会社と家族への説明がありますから。……また三日後に」


鈴木と髙橋は転移で、一方は徒歩と電車で去っていった。


残された五人は、警察署へ戻るために用意された黒のワンボックスカー(7人乗り)へと乗り込んだ。


運転席には谷雄一。助手席には白川真純。


セカンドシートには音無賢人が一人で座り、サードシートにはサラとアレックスが陣取った。


車が走り出すと、後部座席の二人が早速口を開いた。


「にしても、あの『東義昭』って男……Crazyクレイジーね」


サラがシートに深くもたれかかり、天井を仰いだ。


「政治家っていうより、マフィアのボスみたいだったわ。日本の政治家ってあんなのばっかり?」


「まさか。あんなのが何人もいたら、国会は毎日戦争だ」


アレックスが苦笑する。


「だが、やることは合理的だ。シェアハウス……か。どんな場所なんだろうな。盗聴器だらけじゃないといいが」


「あはは、ありえるわね! ……ねえ、音無はどう思う?」


サラがヘッドレストの横から顔を出して、賢人の肩を突いた。


賢人は少し驚いたように振り返り、真面目な顔で答えた。


「……食えない人だと思います。俺たちの弱みも、強みも、全て把握して利用しようとしている。……油断できない相手です」


賢人の分析に、サラは頬を膨らませた。


「んもう、真面目ねぇ。そういう分析もいいけどさ、もっとこう『あいつムカつく』とか『あの眼鏡割りてぇ』とかないわけ?」


「え……いや、それは……」


「いい? 音無」


サラは身を乗り出し、賢人の顔を覗き込んだ。


「これから一緒に住むんだからさ。思ってる事があるなら、自分から会話に入ってきなさいよ。もっとフレンドリーに、オープンに行こうぜ?」


賢人は困惑し、苦笑いを浮かべた。


「はぁ……努力します」


そのやり取りを見て、アレックスが諭すように口を挟んだ。


「音無。サラの言うことは、ただの馴れ合いじゃない。チームとして大事なことだぞ」


「大事なこと……ですか?」


「ああ。これから俺たちは『報告・連絡・相談』を密にしなきゃならない。だがな、普段からコミュニケーションを取っていなければ、いざという時に『些細な違和感』を言い出しにくくなる」


アレックスは指を立てた。


「『こんなこと言わなくてもいいか』という遠慮が、命取りになることもあるんだ。だから、もっと気軽に話してほしいし、俺たちにも話しかけてほしい。……お前を守るためでもあるんだぞ?」


運転席でハンドルを握っていた谷も、バックミラー越しに頷いた。


「同意見だ。俺も刑事として痛感してる」


谷がウィンカーを出しながら口を挟む。


「必要な情報を、必要な時だけに報告する……それだと情報の『質』は高くなるが、『量』が足りなくなるんだ。雑談の中にこそ、事件解決のヒントや、仲間の不調のサインが隠れてることもある。……だからまあ、気負わずに喋れってことだ」


賢人は、スパイと刑事、二人のプロの言葉を反芻した。


(……なるほど。ただの仲良しごっこじゃなく、生存戦略としてのコミュニケーションか)


「……分かりました。意識してみます」


賢人が素直に頷くと、サラがニカっと笑って彼の頭をガシガシと撫でた。


「Good boy! じゃあ手始めに、好きな食べ物は? 嫌いなタイプは?」


「え、あ、ちょっ……」


「サラ、質問攻めにするな。彼が引いてるぞ」


車内は、サラのハイテンションに賢人がタジタジになりながらも、アレックスがフォローするという賑やかな空気に包まれた。


助手席の白川は、その様子をサイドミラー越しに見つめ、ふっと表情を緩めた。


(……よかった)


ほんの数日前まで、彼は「復讐の鬼」だった。


両親を殺され、世界を拒絶し、孤独に震えていた二十歳の青年。


それが今、少し困ったような顔をしながらも、仲間たちの輪の中にいる。


(彼には、まだ未来がある。……この仲間たちとなら、きっと少しずつ変わっていける)


白川は温かい気持ちになったが、すぐに現実に引き戻された。


彼女の膝の上には、東から渡された「今後の計画書」が置かれている。


(……問題は、もう一人ね)


白川は小さく溜息をついた。


谷がそれに気づく。


「……どうした、白川。ため息なんかついて」


「あ、いえ。……幸田さんのことです」


白川の表情が曇る。


「これから署に戻って、彼女に説明しなきゃいけませんよね。……あのシェアハウスのこと」


「ああ。『お前を守るために、お前を囮にして、殺人鬼をおびき寄せる』ってやつな」


「……谷さん、言い方」


白川はジト目で谷を見た。


「両親を亡くしたばかりの彼女に、どう伝えればいいのか……。下手に隠しても東先生の方針に反するし、正直に言えば彼女が傷つくかもしれないし……」


谷は信号待ちで車を止め、ポリポリと頭をかいた。


「んー……ありのままを話すしかねぇんじゃないか?」


「え?」


「変にオブラートに包んでも、後でバレたら余計に傷つくぞ。『危険だけど、俺たちが全力で守るから協力してくれ』って、誠心誠意頼むしかねぇだろ。あの子も覚醒者だろ?腹括ってもらわねぇとな」


谷の言葉は正論だった。正論すぎて、身も蓋もなかった。


白川は額に手を当てた。


(……はぁ。谷さん、悪い人じゃないし頼りになるけど……こういう『繊細な言葉使い』や『乙女心への配慮』が求められる時には、致命的に向いてないかも)


「……分かりました。私が話します。谷さんは、事務処理をお願いします」


「え? なんでだよ。俺も説得するぞ?」


「いいえ、結構です」


車は警察署へと近づいていく。


賑やかになり始めた後部座席とは対照的に、助手席の白川の胃は、これから始まる重い説得を思ってキリキリと痛むのだった。



◾︎夕方 警察署



警察署の駐車場に、黒いワンボックスカーが滑り込んだ。


ドアが開いた瞬間、待ち構えていた制服警官たちが一斉に駆け寄り、サラとアレックスの左右をガッチリと固めた。


「……はぁ? ちょっと、何なのよこれ」


サラ・コッホは、自分の腕を掴もうとする警官の手を払いのけた。


「ねえ、聞いてない? 私たち、さっき東の書類に署名したんだけど? もう味方よ、味方」


警官たちは無言のまま、厳しい表情を崩さない。手続き上はまだ「重要犯罪者」の移送中なのだ。


サラは「ふんだ」とばかりに、両脇の警官に向かってあっかんべーと舌を出した。


そして、車内に残る音無たちに向かって、大きく手を振った。


「じゃあねー! またあとでねー! シェアハウスで会いましょう!」


隣のアレックスは、両脇に警官がいようとお構いなしに、ポケットに手を突っ込んだまま悠々と歩いている。その姿は連行される犯人というより、VIPの護衛を引き連れた要人のようだった。


二人が署の奥へと消えていくのを見送ると、運転席の谷雄一がシートベルトを外した。


「さてと……。いよいよ大仕事だな」


谷は助手席の白川真純を見た。


「白川。さっきはああ言ったが……本当に、俺が一緒にいなくていいか? 説得、一人で大丈夫か?」


白川は即答した。


「ええ、大丈夫です。谷さんがいると、話がややこしくなりそうですから」


「……む。はっきり言うなぁ」


谷はポリポリと頭をかきながら車を降りた。


「分かったよ。じゃあ俺は、事務処理と上の連中に報告に行ってくる。……頼んだぞ」


谷が背中を向け、庁舎の入り口へと歩き出す。


その背中が十分遠ざかったのを確認してから、白川は後部座席の音無賢人に振り返り、声を潜めて囁いた。


「……音無君」


「はい」


「お願いがあります。……幸田さんの説得、力を貸してくれませんか?」


「え?」


賢人は驚いた。


「俺がですか? でも、俺は口下手だし……」


「ううん、あなたじゃなきゃダメなんです」


白川は真剣な眼差しで言った。


「私だけの言葉じゃ、どうしても『警察からの要請』になってしまう。……同じ痛みを知るあなたの言葉なら、きっと彼女に届くはずだから」


賢人は少し考えた後、静かに頷いた。


「……分かりました。俺でよければ」


「ありがとう」


二人は車を降り、谷とは別の入り口——仮の避難所となっている別棟へと向かった。


歩きながら、賢人は心の中でそっと祈った。


(……頼むから、今この瞬間、谷さんが『能力』を使ってませんように)



◾︎別棟 大会議室



幸田美咲は、パイプ椅子の上で膝を抱え、ぼんやりと宙を見つめていた。


ブカブカのジャージ姿が、彼女の小ささを際立たせている。


「……幸田さん」


白川が優しく声をかけると、美咲はビクリと肩を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。


「あ……白川さん、おかえりなさい……」


「ただいま。……少し、話せるかな?」


白川は美咲の前の椅子に座り、賢人は少し離れた壁際に立った。


白川は深呼吸をし、決して嘘をつかないように、しかしできるだけ丁寧に言葉を選んで話し始めた。


「幸田さん。……これからのことなんだけど」


白川は、新設される「対策局」のこと、そして郊外にあるシェアハウスでの共同生活のことを説明した。


そして、東の計画——彼女をそこで保護することが、結果として犯人をおびき寄せる「最強の布陣」になることも、隠さずに伝えた。


「……つまり、私は囮ってことですか?」


美咲の声が震える。


「……否定はしないわ。でも、決してあなたを危険な目に遭わせるためじゃない」


白川は美咲の手を握りしめた。


「あそこには、昨日あなたを守った鈴木さんや髙橋さん、そして私たちもいる。……世界で一番安全な場所にするって約束する。だから……」


美咲は俯いた。


「怖い……。私、もう誰も死ぬのを見たくない……」


彼女の身体が小刻みに震え始める。やはり、恐怖が勝つ。


白川が言葉に詰まった、その時だった。


「——俺も、行く」


壁際から、低い声が響いた。


賢人が一歩、前に出る。


「音無さん……?」


「俺も、その家に住むことになった」


賢人は美咲の目を真っ直ぐに見つめた。


「俺は……君の部屋の隣で寝るつもりだ」


「えっ……?」


「囮だとか、餌だとか、そんなことはどうでもいい」


賢人の言葉には、不器用だが、鋼のような決意が込められていた。


「もし奴らが来たら、君の目に映る前に、俺が全員排除する。君には指一本、視線ひとつ触れさせない」


賢人は、昨日美咲と交わした「俺もだ」という言葉を思い出しながら続けた。


「俺たちは、同じものを奪われた。……だからこそ、もう二度と奪わせない。俺が、君の盾になる」


美咲の瞳が揺れた。


警察官としての義務感でもなく、大人たちの事情でもない。


ただ一人の人間として、「守る」と言い切ってくれた同世代の青年の言葉。


それが、凍りついていた彼女の心に、小さな灯火を点した。


「……音無さんが、いてくれるんですか?」


「ああ」


美咲は白川を見、そして賢人を見た。


恐怖は消えない。でも、ここには一人じゃないという温かさがある。


美咲は涙を拭い、精一杯の笑顔を作った。


「……分かりました。行きます」


そして、二人に頭を下げた。


「白川さん、音無さん。……ありがとうございます」


その笑顔はまだ弱々しかったが、絶望の底からは確実に這い上がっていた。


白川は安堵で胸を撫で下ろし、賢人は照れくさそうに視線を逸らした。


こうして、最後の一人が決まった。


全てのピースが揃い、彼らは新しい「家」へと向かう準備を整えた。

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