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巡り巡る 〜漢字の意味が世界を変える世界〜  作者: 暇な鍼灸師


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第11章 最強の組織図と暴かれる癒着の構図



◾︎翌朝 議員会館 東義昭の事務所


デスクの上には、各社の朝刊とタブレット端末に表示されたニュース速報が並べられていた。


『警察署襲撃! 謎のテロリスト集団による破壊行為』

『勇気ある覚醒者! 崩落する署内から市民を救助』

『一家惨殺事件の生き残り、幸田美咲さんを保護』

『新聞記者になりすましたスパイ!? 米国籍の男女を銃刀法違反で逮捕』


東はコーヒーを啜りながら、これら4つの見出しを冷徹な目で分析していた。


(……点と点が、線になったな)


東の脳内で、昨夜の光景が再構築されていく。


(音無賢人が警察に姿を現した。……奴は逃げるのをやめたのか? いや、違う。強力な『協力者』が現れたからだ。その協力者と共に、情報を守り、我が身を守り……結果として日本の治安を守るために戦った)


そして、視線は「スパイ逮捕」の記事に止まる。


(……米国の差金だろうが、不自然だ。高度な訓練を受けた米軍の諜報員が、日本の所轄の刑事に手錠をかけられるか? 逃げようと思えば逃げられたはずだ)


東はニヤリと笑った。


(つまり、彼らは『捕まることを選んだ』。……音無を逃がすための捨て石か、あるいは日本に留まるための亡命措置か。どちらにせよ、面白い駒が転がり込んできた)


「……フン。使えるな、この状況は」


東は内線電話を取り上げ、短縮ダイヤルを押した。


「……長宗我部か。今すぐ来い。……ああ、昨日の件だ。『新法』を書き換えるぞ」


数分後、長宗我部政宗が東の部屋に駆け込んできた。


「東君! ニュースを見たか! まさかあんな事態になるとは……」


「騒ぐな。むしろ好機だ」


東は長宗我部をソファに座らせ、手元の資料を放り投げた。


「世論は今、恐怖と感動の入り混じったカオス状態だ。『覚醒者は怖い』が『覚醒者に守られた』という事実もある。そして『海外スパイの介入』という外圧……。これらを一挙に解決する法案が必要だ」


東はホワイトボードに向かい、ペンを走らせた。


「長宗我部、単なる『能力使用の制限』や『警察官の限定解除』じゃ手ぬるい。……組織を作るぞ」


「組織?」


「ああ。**『覚醒者特別犯罪対策局(仮称)』**だ」


東は流暢に、かつ法的なロジックを組み立てて説明を始めた。


「既存の警察法第二条(警察の責務)の解釈変更だけでは限界がある。現場の警察官に能力を使わせるという案も、指揮系統が混乱するだけだ。ならば、警察庁の内部部局……あるいは国家公安委員会の管理下に、覚醒者犯罪を専門に取り締まる**『新たな法執行機関』**を設置する」


「……まさか、FBIのようなものを?」


「それに近い。だが中身はもっと特殊だ。この組織の捜査官には、**『特別司法警察職員』**としての権限を与え、覚醒能力の使用を法的に認可する。……ここまではいいか?」


長宗我部は真剣な表情で頷いた。


「ああ。だが、誰がその捜査官になる? 警察内部の覚醒者だけでは数が足りないし、訓練も追いつかないぞ」


「だからこそだ」


東は新聞の『勇気ある覚醒者』の記事を指差した。


「**『民間覚醒者の特別採用枠』**を設ける。公募およびスカウトだ。国家公務員法に基づく一般職ではなく、任期付きの特別職として採用し、身分と生活を保障する代わりに、国のために力を振るわせる」


「なるほど……! それなら、昨日活躍した彼らも……!」


「そういうことだ。……さて、ここからが仕事の分担だ」


東は長宗我部を指差した。


「俺はこの新法案の骨子作成と、内閣法制局との擦り合わせを行う。条文の不備は俺が完璧に潰す。……貴様は、**『根回し』**をやれ」


「根回し、というと?」


「警察庁長官と、警視総監だ。彼らは新しい組織ができることを『警察権力の縮小』と捉えて反発する可能性がある。……そこを貴様の『人徳』と『政治力』で説き伏せろ」


東は悪巧みをする子供のような顔で続けた。


「『この新組織は警察の別動隊であり、予算獲得の目玉になる』とでも吹き込んでおけ。それと、昨日の事件の所轄署長……千葉といったか? 彼にも恩を売っておけ。現場の声は後押しになる」


「分かった。……彼らが動きやすいように、私が泥を被ってでも道を作ろう」


長宗我部は力強く頷いた。


「よし。……ああ、それともう一つ」


東は声を潜めた。


「逮捕されたスパイ二人……サラとアレックスといったか。彼らの身柄は、検察に送致される前に**『公安』**に移送させろ」


「公安に? なぜだ?」


「**『司法取引』**だ。……日本じゃ導入されたばかりで使い勝手が悪い制度だが、今回の法改正に『特定重要知能犯罪への協力』に関する条項をねじ込む。彼らの持つ米国の情報と技術は利用価値がある。……飼い殺すより、首輪をつけて飼い慣らす方が得策だ」


「……東君。君は本当に、悪魔のような知恵が回るな」


長宗我部は苦笑したが、その目には信頼の色があった。


「褒め言葉として受け取っておく。……さあ行け、長宗我部。金剛寺が次の手を打つ前に、外堀を埋め尽くすぞ」


長宗我部が出て行くと、東は再びソファに深く座り込み、天井を見上げた。


(……さて、役者は揃いつつある)


東の脳裏に、最強の組織図(構図)が浮かび上がる。


• 局長: (俺が裏から操るとして、表向きは信頼できるキャリア官僚か……あるいは長宗我部自身か)

• 実働部隊(捜査官):

• 音無賢人: 隠密捜査・潜入担当。

• 鈴木浩三: 防衛・制圧・対能力者戦闘の要。

• 髙橋俊明: 機動力・緊急展開・広域避難担当。

• 谷雄一 & 白川真純: 現場指揮・捜査・尋問担当。

• 特殊顧問(技術・諜報):

• サラ & アレックス: 対外諜報・サイバー戦・重火器支援。


(……完璧だ。このメンバーなら、金剛寺の私兵団どころか、国家レベルの脅威にも対抗できる)


東は手元の書類——『覚醒者特別対策局設置法案(草案)』の表紙をペンで叩いた。


「……待っていろ、音無賢人。お前の望む『平和な日本』……俺が法律ルールで作ってやる」


東は不敵に笑うと、恐ろしい速度でキーボードを叩き始めた。


それは、新しい日本が生まれる胎動の音だった。



◾︎警察署襲撃事件から数日後の永田町



国会議事堂の上空には重苦しい曇天が広がり、地上ではマスコミの報道陣が黒山の人だかりを作っていた。


議員会館の控え室。東義昭は窓のブラインドの隙間からその光景を見下ろし、静かにコーヒーを啜った。


「……世論は沸騰しているな」


テレビのニュース速報は、昨日の事件一色だった。


『警察署、半壊! テロの恐怖』

『瓦礫を支えた謎の英雄たち! 覚醒者の善行か?』

『逮捕されたのは米国籍の男女! 諜報活動の疑いも?』


恐怖と称賛、そして外国への不信感。これらが入り混じり、国民の感情はカオス状態にあった。だが、東にとってこの混沌は、新しい秩序を作るための「粘土」に過ぎなかった。


「東君」


ノックと共に長宗我部政宗が入室してきた。彼は疲労の色を隠せない様子だったが、その瞳には強い意志が宿っていた。


「……警察庁長官との会談が終わったよ。彼らも昨日の被害には相当ショックを受けている。『メンツを潰された』とな」


「いい傾向だ。警察のプライドが傷つけば、彼らは反撃のための力を欲しがる」


東は資料をデスクに広げた。


「今日の閉会中審査は、我が国における『覚醒者対応』の分水嶺になる。金剛寺は必ず、この混乱に乗じて『警察の武装強化』を提案してくるはずだ。……背後にいる米国からの圧力があるからな」


「ああ。だが、このタイミングで外国製武器の輸入など……」


「正気の沙汰ではない。だが、追い詰められたネズミは平気でその正気を失うものだ」


東はネクタイを締め直し、鏡に映る自分——冷徹な策士の顔を確認した。


「行くぞ、長宗我部。金剛寺の野望を、この議場で完全にへし折ってやる」



◾︎衆議院 内閣委員会室



カメラのフラッシュが焚かれる中、金剛寺武は脂汗をハンカチで拭いながら席についていた。


昨日の今日で、彼の顔色は土気色だった。グレイからの「来春まで」という最後通告が、呪いのように頭の中でリフレインしている。


(やるしかない……! 何としても武器輸入の予算を通さねば、私は消される……!)


委員長の開会宣言と共に、金剛寺は勢いよく挙手し、マイクの前に立った。


「……昨日の事件は、我が国の治安維持能力の欠如を露呈させました! 警察署が、たった数名の覚醒者によって半壊させられたのです! 現場の警察官は、拳銃という豆鉄砲しか持たず、ただ逃げ惑うしかなかった!」


金剛寺は悲痛な声を張り上げた。


「今こそ決断の時です! 私は提案する! 米国の対覚醒者用重装備……特殊弾頭ライフルや強化装甲車の緊急輸入を! これらを現場に配備し、怪物を物理的に制圧する力を持たせるべきだ! 予算は即時執行すべきです!」


議場がざわつく。恐怖に駆られた一部の議員からは「そうだ!」「警察を守れ!」という声も上がる。


流れは、金剛寺に傾きかけたかに見えた。


しかし、東義昭は冷めた目でゆっくりと立ち上がった。


「……金剛寺先生。貴方の主張は、昨日のニュースの『半分』しか見ていないかのような発言ですね」

「な、なんだと!?」


東は手元のタブレットを操作し、議場のモニターに一枚の写真を表示させた。


それは、崩壊した署内で巨大な瓦礫を支える鈴木と、それを誘導する髙橋、そして彼らに守られる市民の写真だ。


「現場をご覧なさい。建物が崩壊するほどの質量攻撃や、人間を一瞬で凍らせる超常現象……。これに対し、ライフルが何挺あれば対抗できるとお考えで?」


「だ、だからこそ高性能な装備を……!」


「無駄です」


東はバッサリと切り捨てた。


「昨日の現場には、高度な訓練を受け、銃で武装した外国人……元諜報員たちがいました。彼らですら、覚醒者の暴力を完全には抑え込めなかった。しかし、**『こちらの覚醒者』**はどうでしたか?」


東は声を張った。


「彼らは瓦礫を受け止め、被害を最小限に食い止めた。**『能力を制するのは能力』**です。高価な鉄屑(武器)を輸入して現場の警官に重荷を背負わせるより、既に力を持った彼らを組織化する方が、遥かに迅速で確実だ」


「ぐっ……! だが、覚醒者を警察組織に入れるなど、裏切りや暴走のリスクが……」


金剛寺が食い下がるが、東はここでトドメのカードを切った。


「リスク? ……リスクと言うなら、金剛寺先生。貴方が推す『米国製武器』の方がよほどリスクだ」


東の目が鋭く光る。


「今回の事件、逮捕された二名の外国人は米軍関係者との情報がある。……我が国の警察署を破壊したテロリストの背後に、ある国家の影が見え隠れしているこのタイミングで」


東はわざとらしく首を傾げた。


「なぜ貴方は、執拗に**『その国』からの武器購入を推すのですか? まるで、『誰かとの約束』**でもあるかのように」


「ッ!?」


金剛寺の心臓が早鐘を打つ。


図星を突かれた動揺。そして「癒着」を疑われる恐怖。


周囲の議員たちの視線が、一斉に疑惑の色を帯びて金剛寺に突き刺さる。


「ま、まさか! 私はただ日本の治安を……!」


「ならば、私の案に賛成できますよね? 国産の、しかも人件費だけで済む最強の警備隊(覚醒者対策局)を作るのですから。……それとも、アメリカから武器を買わないと困る事情でも?」


「ぐ、ぐぐぐ……!!」


金剛寺は言葉を失い、奥歯が砕けるほど噛み締めた。


これ以上反対すれば、自分の汚職疑惑が深まるだけだ。完全に詰んだ。


東は勝利を確信し、委員長に向かって一礼した。


「……武器輸入の件は『継続審議』とし、新組織設立の法整備を急ぐべきです。以上」



◾︎委員会終了後 金剛寺の個人事務所



帰ってきた金剛寺は、部屋に入るなりネクタイを引きちぎり、ブランデーのボトルをラッパ飲みした。


「クソッ! クソッ! 東めぇぇぇ!!」


武器輸入の道は閉ざされた。


スパイ事件が明るみに出た今、アメリカからの輸入など世論が許さない。


つまり、グレイとの約束である「販路の確保」は、不可能になった。


「……終わった。グレイに知られれば、私は消される……」


金剛寺は震える手でデスクにしがみついた。


金も、名誉も、命も失う未来が目の前に迫っている。


だが、極限の恐怖の中で、金剛寺の脳裏にどす黒いアイデアが閃いた。


「……待てよ?」


金剛寺は顔を上げた。その瞳には、狂気と狡猾さが混濁していた。


「そもそも、今回の計画が失敗したのはなぜだ? ……グレイの部下がへまをして捕まったからだ」


そうだ。悪いのは私ではない。


あのアメリカのスパイ共が、警察署で騒ぎを起こして捕まったせいで、武器輸入が不可能になったのだ。


「……責任転嫁できる」


金剛寺はニヤリと笑った。


だが、それだけではグレイを納得させることはできない。手土産が必要だ。


グレイが今、最も欲しがっているもの。


「音無賢人……あいつを確保する。……いや、確保して『私の手駒』にする」


金剛寺の頭の中で、新たなシナリオが組み上がっていく。


プランA:

音無を確保し、私の支配下に置く。そしてグレイに突きつけるのだ。

『お前の部下の失態で輸入は失敗したが、私が尻拭いをして音無を確保してやったぞ』と。

そうすれば、グレイに対して優位に立てる。音無という最強の暗殺者を盾にすれば、グレイといえど私を無下にはできまい。


プランB:

もしグレイとの関係修復が不可能なら……音無そのものを、他国や裏組織に高値で売り飛ばす。

その莫大な資金を持って、海外へ高飛びする。


「……ククク。どちらに転んでも、音無さえ手に入れば逆転できる」


金剛寺は内線電話を掴んだ。


相手は、別室で待機している氷川と熊井だ。


「おい、氷川! 熊井! 聞け!」


金剛寺の声に、再び野心と殺意が戻っていた。


「方針変更だ! 警察の介入など気にするな。なりふり構わず『音無賢人』を狩り出せ! 手足の一本や二本、くれてやっても構わん! ……奴さえ手に入れば、我々の勝ちなのだ!」


政治家としての仮面を捨て、ただの犯罪者へと堕ちた金剛寺。


追い詰められた獣は、最後の獲物を求めて牙を剥いた。

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