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その”楽しい”の中に、あたしはどのくらいいるんだろう

作者: 澪ナギ
掲載日:2025/12/19

「……だめかもしれない」


 突然呟くから、そっちを見た。

 視線の先には、机に突っ伏したシオン。その表情は見えなくて。


「何がかしら」

「今の子」


 聞いたら、答えが返ってきたから。あぁまたかとその先は聞かなかった。目を本に戻して、文字に目を走らせる。


「……」

「……」

「……」

「何もなし?」

「当たり前じゃない??」


 沈黙に耐え切れなかったシオンが不服そうに聞いてきたけど。こっちも不服よ。


 何回目よこの話。


「聞き飽きたわよ!」

「そんな頻繁じゃなくない!?」

「数週間に一回でも聞けばこんな対応になるでしょ!?」


 最初こそ心配したけれども! あたし間違ってなくない!?

 思わず本を置いて、シオンの方に向き直ってしまった。


「っていうか友達になる前から思ってたけどあんたどんだけ女の子と付き合ってんのよ!」

「入れ替えが激しいだけで付き合ってる子は一人だよっ!」

「合計人数の話してんのよ!!」


 いつの間にか当たり前になってきた会話に若干息を切らす。


 お互い少しだけにらみ合ってから。


 先に溜息をついたのは、あたし。


「その子ももうどのみちだめでしょうよ……」

「わ、わかんないじゃん」

「あんたに気持ちがない時点でアウトじゃない?」

「好きになろうとはしてるよ」

「その時点でアウトだっつってんのよ」



 思わず強くなってしまう言葉はちょっと申し訳ないと思うけれど。

 でもちょっと許してほしい。



 友達になってからもう少しで数か月になる目の前のヒト――閃吏シオンのことは、友達になる前から実はちょっと知っていた。



 よく、いろんな女の子と一緒にいる子。



 友達ではなく、彼女として。

 よくまぁそんなとっかえひっかえするものだと、絶対こういうタイプとは友達にはならないんだろうなと思っていたけれど。



 運命とはよくわからないもので。



 いっぱいいっぱいになっていたときにシオンは助けてくれて。

 よくよく話してみたら、別に女の子好きというわけではなくて、彼もからっぽすぎて、結果いろんな子と付き合う形になっていたそう。



 落ち着いて考えれば多少問題だけれども、今はちょっと置いておいて。



 本人曰く、好きになる努力はしているらしく、付き合ってみるのだけれど。


 結局、ある種完璧すぎるこのヒトの行動は、女の子には刺さらないようで。



 今日も今日とて「だめかもしれない」と聞いていて。


「……改善が見られないってなったら語気も強くなるでしょうよ……」

「俺の何が悪いんだろう……」

「全部合うようにするからでしょ」


 話を聞けば、完璧すぎるんだと、逆に驚いた。


 そのヒトの気持ちに合う言葉、求めている行動。

 最初はそれが嬉しくなるらしいけれど、だんだんと、違うとなってしまうらしい。



 あたしにはよくわからないけれど。



「あたしに対して完璧なんてないのにね」

「美織ちゃんはよくも悪くも読めないから……」


 表情を読むシオンからしたら、あたしの呪いは天敵だったらしく、最初のころは合わないことにものすごく悔しがってた。

 それを思い出して少し笑いそうになりつつ、また「どうしよう」と悩んでいるシオンへ。


「今のシオンで行けばいいのに」

「えー?」

「そのままがいいと思うわよ」


 たまに失敗したときに出る、ものすごい慌てふためいた部分だったり、成功したときの本当にうれしそうな顔だったり。


「自然が一番なんじゃない、シオンは」

「……」


 よくわからないという顔をしているシオンに、笑って。



「あたしはそういうシオンが好きよ」



 言えば、シオンは一度目をぱちぱちと瞬かせてから。



「頑張ってみるよ」



 ちょっと困ったように、笑った。








「笑守人では全然ないのね」

「何が?」



 それから時が経って。

 一緒に笑守人に入学してからしばらく。結局あのあと、すぐに別れることになってしまったらしい彼女のあとから、彼の女性関係のことは聞くことがなくなった。


「女の子」

「ん?」

「前はいっぱい付き合ってたじゃない」

「――あぁ」


 そうだね、と。シオンにとっては良い思い出らしく、楽しそうに笑った。それを見ながら、首をかしげて聞く。


「心境の変化?」

「んー、どうかな」


 まぁでも、と。


 こちらを見て。


「当時の”寂しい”を埋めてくれるヒトたちが、いっぱいいるし」


 そっちに時間を作る暇もなくなったかなと、肩を竦めて笑った。


「そう」

「うん」


 まぁ本人がそれでいいならいいんでしょう。女の子を変に泣かせたりすることもなくなったわけだし。


 そう思いながら。


「よかったわね」

「そうだね」


 一歩だけ先を言ったシオンの背を見て。


「……」


 ほんの少し、寂しいと思ったのは、あたしだけなのかしら。



 当時の”寂しい”。


 理解されなくて、理解できなくて。いっぱいいっぱいになってしまったあたしたち。



 それを。



「あたしじゃ埋められなかったのかな」


 なんて、お互いいっぱいいっぱいでそんな余裕なんてなかったのに。

 わかっているのに、こぼれた言葉に、少しだけ寂しくなった。


「美織ちゃん?」

「いいえ!」


 けれどその寂しさは、表には出ないから。こういうときだけは、自分の呪いに感謝が出る。


 ぱっと笑って、シオンの隣を歩いて。


「これからも、たくさんたくさん、”楽しい”でいっぱいになるといいわね!」


 そう言って。

 一度、昔のようにぱちぱちと目を瞬かせてから。



 昔とは違って、柔らかく笑って。



「そうだね」



 うなずくあなたに、また少しだけ、あたしは寂しくなって。


 隣を歩いているはずなのに、どこか遠くにいる感覚を持ちながら。

 シオンと帰り道を歩いていった。



『その”楽しい”の中に、あたしはどのくらいいるんだろう』/美織




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