0007 大英雄 バーソロミュー
時間エミュレーター。
レジェンダリーダンジョンで頻繁に現れる、いわゆるアイテムボックスだ。封印されたボックスを開けると、召喚獣が現れて試練を与える。その試練を突破すれば、莫大な報酬を手に入れられる。ヒストリックダンジョンでも時々出現することがある。
「えーっと。時間帯からすると 0049 年?紀元前の時代ですか……。カードリック王朝とハクセン帝国の時代ですね」
「アカデミーでの考古学の勉強を怠らなかったんだな、イタト」
「人様に恥じない程度にはね。だとすると、大将軍バソロミューか使徒ラムエルが登場する確率が高いです。少し攻略が厄介になりますね」
両者ともに武闘タイプで、決闘を仕掛けてくる可能性が高かった。知識の試練を課すアテニフやカードロよりは難しかったが、そこまで忌避するほどではない。
「やりますか?」
「男ならGOだ!、イタト」
『 kakalol 様が入場しました 』
kakalol: Yo. Hi.
Gigigigigigi: お、面白いところに来たな。
hih2378: ようこそ。今、ワクワクしてるぜ。
一人の視聴者が入室すると同時に、イタトはエミュレーターの時間を 12 時に合わせ、アラームを作動させた。
『作動時間エラー。作動時間エラー。守護者呼び出し。守護者呼び出し』
さて、誰が出てくるだろうか。
そして、現れた人物は。
マントを羽織り、銅色の肌に引き締まった筋肉を持つ、砂漠の大英雄。大将軍バソロミューだった。
「初めて見る未来人か。ふむ。我を呼び覚ましたのは貴様らか」
「試練に挑み、報酬をいただくためです」
「我の試練は簡単だ。三分!我を三分だけ食い止めてみせよ」
そう言うと同時に、大将軍バソロミューは突進してきた。
俺は慌ててイタトに指示し、レールガンを作動させた。
最新の魔導科学文明の産物と呼ばれるレールガンが轟音を突き破り、バソロミューの腕を強打した。
「ちと、チクっとしたぞ」
「まさか!」
傷一つ付いていなかった。いや、反弾鋼気に阻まれた、というのが正しい表現だった。
バソロミューは咆哮をあげながら、標的を俺に変えた。俺は剣を真直ぐに構え、彼が繰り出したクローを斜めに受け止めた。
かすめて通り過ぎた場所に、火の跡が燃え尽きるように残った。
大将軍バソロミューは、砂漠の大英雄らしく、炎の属性力を宿していたのだ。
「属性力を知らぬとでも!愚かな未来人め!」
「クソ!」
すぐに大規模な作戦を実行するイタト。
「俺がサテライトを起動させます!リョウさん。最後まで少しだけ持ち堪えてください!」
人工衛星の座標を撃ち上げ、軌道爆撃を仕掛けようとするイタト。
彼はすでにノートパソコンを取り出し、計算に取り掛かっていた。集中を乱すことのできない状況。
ここからは、俺一人でこの難題を解決しなければならなかった。
「貴様は随分と祝福されているな、我と正々堂々の 1 対 1 か」
「もちろんです。僕一人でも、あなたには十分でしょう」
「デッキも空っぽの貴様が?」
スキャン技術で俺のデッキを覗き見たバソロミューは、嘲笑を浮かべた。いくら彼が古代人だとはいえ、デッキ程度は扱えたからだ。
バソロミューがデッキから取り出したのは、長大な方天画戟。そして10重畳の強化を実行した。
凄まじい速度で強化を終え、振り下ろされた彼の槍の前に。
俺は。
死んだ。
倒れゆく俺の後ろ姿を見つめるバソロミューは、冷ややかに言い放った。
「身の程を知らぬ蛆虫は、そこに横たわっていろ」
幽霊馬を召喚したバソロミューは、一気に駆け抜けようとする。
「いけない!」
その瞬間。
時空が停止した。
(このまま、全てが終わってしまうのか)
良いカードを引いていながら、たかが古代人一人に勝てなかったからといって。
全てが台無しになるのか?
ただ経験が多いというだけで、戦闘に真剣に臨まなかった罪?
タダでクリアできると喜んで、ただ付いて行っていただけの罪?
違う。
俺は。
(あまりにも安易すぎたのだ)
そうだ。
全ては俺の過ちだ。
だが、もしもう一度、俺に機会があるのなら。
こんなにも虚しく過ごしたりはしないだろう。
「力」
力が必要だ。
何よりも、全ての状況を変えられる圧倒的な力が!
『面白い奴だな』
今、誰だ?俺に話しかけたのは。
『見る限りでは、面白い状況に陥っているようだな』
あなたは、僕が引いたカードの一人ですね!
『そうだ。見てるだけじゃ退屈でな。特に、お前が悪いようにも思えないしな』
そうでしょう?
そうですよね?ね?
『どこ、一度だけ、儂がお前に力を貸してやろう』
ところで、あなたは誰なんですか?
『儂は数多くの国をさまよい、様々な名前を得た。そして今は、そんな虚名に固執してはいないが、それでも晩年には一つの名で呼ばれた』
だから、一体名前は何なんですか!
『儂は大剣豪だ』