人気者になりたい話
こんな都市伝説がある。もし検索サイトに、空想配達便と検索したら、強く願った人にだけそのサイトが現れ、空想を配達してくれる。
人気者になってみたい、例えば学校のカースト上位に立ちたい。上司や同僚、後輩から好かれてたい。はたまた芸能人にさえなって、世間からチヤホヤされたい。
現実は友達はいるが、人気者とは言えない。大学では何か話題の中心になるようなことは何もなく、日々は過ぎていく。
そんなときだ。このサイトを知ったのは、空想だけでも人気者になってみたい。そんな欲求が、名前と配達日を打たせた。
配達日になった。
ピンポーン、チャイムが鳴る。
ドアスコープで覗くと、黒装束の怪しげな男とも女ともつかない人が立っていた。
怪しい人物に、一瞬警察に電話しようと思ったが、今日が空想の配達日なことを思い出した。
もしかしたら、配達人なのかもしれない。なぜなら、手に小さな箱を持っていたからだ。
ドアを開けると、宮本孝さんですか?と尋ねられた。
黒装束の姿に似合わず、若い声だった。
おれは、はい、と返事をした。
黒装束の怪しい人は小さな箱を差し出した。
その箱を開けると、自分が最も望む空想が見られるという。
人によって相場は違うが、概ね30分くらいらしい。
言葉少なく、黒装束の人はそう説明して、去って行った。
おれは小さな箱を訝しんで眺めた。そのまま数分が立つ。もっとVRチャットみたいな機械を想像していたので、どうにも騙されているような気がしないでもない。
でも騙されたとしてもタダだからいいか。
そう思いながら、おれは箱を空けた。
おれはレッドカーペットを歩いていた。周囲には眩しいばかりにカメラのフラッシュが焚かれる。人々がおれに熱狂して、少しでも触れようと腕を伸ばす。
それをガードマンが押さえていた。
おれは手を振りながら、良い気分で、レッドカーペットの中央に立つ。
そして、何かを言った。周囲はそれにどよめいた。そして歓声を上げた。
おれは腕を振りながらそれに応えて、苦労しながら建物の中に入っていった。
空想はそこで終わった。
大衆が自分に注目しているのは正直気持ち良かった。やっぱり人気者には憧れてしまう。
でも現実でこんなに人に囲まれたら、動きづらくてしょうがないだろうな。
その事実に少しだけ、今の自分の日常を好きになれそうな気がした。




