旅行に行きたい話
こんな都市伝説がある。もし検索サイトに、空想配達便と検索したら、強く願った人にだけそのサイトが現れ、空想を配達してくれる。
わたしは日本を出たことがない。家庭環境がそんな余裕がなかったのもそうだし、なによりパスポートと取得していなかったから、行こうと思っても、中々腰が上がらなかった。
でも、憧れだけはあった。教科書で見たウユニ塩湖、あそこに行ってみたい。本当に、人が浮くほど塩の濃度が高いのか知りたい。
だけど、現実は忙しく、そんなことを考える余裕も時間もなかった。
そんなとき、このサイトを知った。空想だけならば、そんな思いで名前と配達日を指定する。
半分冗談みたいな感じで打ったが、半分は本気だった。
配達日になった。
ピンポーン、チャイムが鳴る。
ドアスコープで覗くと、黒装束の怪しげな男とも女ともつかない人が立っていた。
極めて空想上の人物っぽくて、なんだか魔法の世界から来たみたいでドキドキする。
手に小さな箱を持っていた。
ドアを開けると、佐々木美希さんですか?と尋ねられた。
黒装束の姿に似合わず、アルトみたいな声で、わたしは少し安心した。
わたしは、はい、と返事をした。
黒装束の怪しい人は小さな箱を差し出した。
その箱を開けると、自分が最も望む空想が見られるという。
人によって相場は違うが、概ね30分くらいらしい。
言葉少なく、黒装束の人はそう説明して、去って行った。
少しの緊張と高揚がある。わたしは小さな箱を開けた。
すると、向かい風が顔に当たった。
目を瞑る。
恐る恐る目を開けると、そこには燦々と指す日光とウユニ塩湖があった。雲と青のコントラストが素晴らしく、まるで夢みたいな光景だった。ウユニ塩湖がどこまでも果てしなく広がっている。まるで海みたいに。
わたしはウユニ塩湖の上を歩いていた。実際は歩けないだろうけど、これは空想だからいいのだ。果てしなく続くウユニ塩湖の上をいつまでも歩いていた。
そして空想が終わった。
わたしは早速、旅行サイトに予約した。実物であのウユニ塩湖を見たくて。空想より素敵だったら嬉しいな、そんな願いを込めて、わたしは旅行サイトの宣材写真を眺めた。




