疲れた話
こんな都市伝説がある。もし検索サイトに、空想配達便と検索したら、強く願った人にだけそのサイトが現れ、空想を配達してくれる。
窓の外は、雨が降り注いでいる。
ただでさえ疲れているのに、これでは気が滅入ってしまう。
そんなとき、このサイトの存在を知った。
リモートの仕事に疲れ果てて、このサイトに名前と配達日を書いた。
体はいつも思ったように動かない。仕事のことで頭がいっぱいだから。
そんなとき思った。こんなに頑張った先にある終わりって、どんな景色が見られるんだろう。
そう思ったからかもしれない。こんな怪しいサイトに名前を書いたのは。
配達日になった。
ピンポーン、チャイムが鳴る。
ドアスコープで覗くと、黒装束の怪しげな男とも女ともつかない人が立っていた。
怪しい人だ。
でもなんだかそれが本物っぽい。
ドアを開けると、宮本マリさんですか?と尋ねられた。
黒装束の姿に似合わず、若い声だった。
わたしは、はい、と返事をした。
黒装束の怪しい人は小さな箱を差し出した。
その箱を開けると、自分が最も望む空想が見られるという。
人によって相場は違うが、概ね30分くらいらしい。
言葉少なく、黒装束の人はそう説明して、去って行った。
わたしは早速パソコンの前にその小さな箱を置いた。
今は昼休憩、黒装束の人の話なら、休み時間内に終わるだろう。
わたしは意を決して箱を開けた。
空想の中で、わたしはシロツメクサが花開く花畑に囲まれていた。思い出した。子供の頃好きだった花だ。
穏やかな風が髪を揺らして、それが心地よかった。
思い切って、花畑に倒れてみた。深く息を吸い込むと、濃い草の匂いがする。
見上げると真っ青な空が、太陽を携えて輝いている。
花の上を、夢のような素敵な蝶たちが舞っていた。
空想はそこで終わった。
死んだらこんな景色が見られるなら、あともう少しだけ頑張れるかも。
わたしは背伸びして、パソコンに向かって仕事を再開した。
あとちょっとだけ、あとちょっとだけ、と呟きながら。
窓の外はまだ雨が降っていたけど、わたしの心は晴れやかだった。
あとちょっとだけ。
不思議と、タイピングを打つ手が早くなっていった。
心にはまだ、あの景色が広がっていた。




