異世界に行きたい話
こんな都市伝説がある。もし検索サイトに、空想配達便と検索したら、強く願った人にだけそのサイトが現れ、空想を配達してくれる。
異世界転生、異世界転移、何でもいいけど、小説でもアニメでも漫画でも、異世界物が人気だ。
本当に異世界なんてあるのか分からないけど、現実に囚われない自由な設定、世界観に出来るし、非日常を味わうにはピッタリだ。
異世界に行って活躍する、冒険する、自分じゃない自分になれるようで、ドキドキする。
だから、異世界に行ってみたい。
そんなとき、このサイトを見つけた。空想でもいいから、異世界に行きたい。衝動に駆られて、サイトに名前と配達日を記入した。
ソワソワしながら待った。遂に配達日になる。
ピンポーン、チャイムが鳴った。
「はいはーい!」
出ると、そこには全身黒装束の怪しい人が小さな小箱を抱えて立っていた。
怪しい人は思ったより普通の声で、紫芳樹さんですか、と本人確認してきた。
俺は頷いて、身分証を見せた。
怪しい人は、小さな小箱を俺に差し出して、こう言った。
「小箱を開けると、空想が出てきます。人によりますが、空想はおよそ30分ほどです」
そう言って怪しい人は去っていた。
速攻でドアを閉めた。心臓がドクドク鳴っている。今更ながら、やばい物に手を出しちゃった感がする。
ベットの上に小箱を置いて凝視した。
もし、覚醒剤とかだったらどうしよう。
なんか錠剤やラムネみたいなものが入ってたら、警察に届けよう。
俺を息を呑んで、そっと小箱を開けた。
目の前に草原が広がっていた。柔らかい草の匂いがする。
茫然としていると、どこどこと音が聞こえる。慌てて音の方を振り向くと、イノシシみたいなモンスターがこちらに突進してきた。
「うわっ」
身を竦ませていると、「大丈夫か!」という声と共に、人が俺とイノシシモンスターの間に入ってきた。
バシュッ
騎士のような鎧を身に纏った人は、見事な剣裁きでイノシシモンスターを一刀両断した。
俺は腰が抜けて座り込むしかなかった。
騎士風の人がこちらに振り向く。
「立てるか」
差し伸べられた手を掴んだ瞬間、空想が終わった。
気づけば、部屋が暗くなっていた。慌てて部屋の電気をつける。何の変哲もない、自分の部屋だ。
そのことを残念に思う自分と、どこかホッと思う自分がいることに気づいた。
突然イノシシモンスターに襲われたら死ぬしかない。騎士風の人が都合よく助けてくれるとは限らない。土壇場で魔法みたいな能力も、発揮しないかもしれない。
まぁ、現実はこんなものか。
そう落胆すると共に、さっき自分を助けてくれた騎士風の人への憧れが止まらなかった。
自分もあんな人みたいに、誰かをサッと助けれる人になりたい。
まずは献血から始めてみようか。
落胆していた自分の心は、いつの間にか上を向いていた。




