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そういえば、俺の名前って

全然物語が進まない、これがスローライフってこと!?

死んだことは間違いない。元の世界に戻っても、俺の体は墓の下にあるだろう。

仕方がない、0歳から記憶があるんだ、この人生を最高のものにして、やりたいことを全部やろう。


そうして、俺の二週目の人生が始まった。


なんだかんだあって、半月が過ぎた。


半月も過ぎれば、ぼんやりしていた視界もまだ完璧とまではいかないがはっきりとしてきて、ハイハイでなら移動できるようになった。

言葉もある程度は話せるようだが、普通の会話が全部早口言葉で話しているような感覚で話そうとすると詰まってしまう。

まだ舌の筋肉が発達していないのだろう。

とりあえず、ママとかパパとかそういう言葉で喜ばしている。


1か月ほど前にハイハイで移動し始め、それを皮切りに王妃すなわち母親の寝室で眠るようになった。

どうして転生先の言語を理解できるのかと思ったが、どうやら少し違う文法や言葉が違うだけで、この世界も元の世界と似た言葉を話しているらしい。


最近は俺の魂とこの体が定着してきたからか、体を自由に動かせるようになってきた。もちろん、表情もこの通り。

ガラスに映る笑顔の赤ちゃんは何とも愛らしい。

まあ俺なのだが、我ながらいい遺伝子を継いだなと思う。


体を自由に動かせるようになったからか、抵抗できずに眠りにつくことも最近は少ない。

ということで、自分の息子がよく寝る時期に全然寝ない。

そんな母親はどうするか。


読み聞かせによる寝かしつけを始めた。


この世界には興味があるし、自分で動けない分、この世界の歴史とか伝説とかを知れるのはとてもありがたい。

この世界にも物語があって、どれが事実かフィクションかはわからないが、そこそこ多くの物語に共通してあるものが登場する。


それは、魔法である。

この世界には元の世界と違って、魔法があり、魔獣がおり、勇者がいるらしい。

うちの母親は愛国心が強いのか、それとも強くたくましい勇者が姫を救う物語が好きなのかはわからないが、勇者の出てくる物語を話すときはまるでオタクのように、楽しそうに早口で話す。

絶対その文字列にそんな長ったらしい説明はないだろうというくらいに補足説明をしてくる。

まあ王妃であるのだから、その国に愛国心があるのは当たり前かもしれないが。


城下町を見下ろすのをやめ、部屋の中を見渡す。

3人は横になって寝られるのではないかと思う大きなベッドが部屋に入って一番奥にあり、部屋の四隅には、クローゼット、本棚、化粧台、机がそれぞれある。

この部屋に入ってくる父親を思い出す。

赤ちゃんだからドアが大きく見えていると思ったが、2メートルはあるであろう父親が入ってきてもてっぺんまでまだ余裕があった。

もしかしたらこの部屋はとても大きいのかもしれない。

さすがは王家だ。


生後半年の赤ちゃんが部屋を見渡しながら、「おー」と微笑みながら鳴くのを見て、王妃の使用人たちが、あまりの可愛さにその赤ちゃんくぎ付けになっていた。

同じ部屋で何かを書いている王妃も言うまでもない。


さて、読み聞かせの話に戻るが、話す言葉は理解できても書いてある文字は元の世界とは全く異なる。

早く文字を覚えないと、この世界のことについて何も知れない。

何より、母親が本棚にしまっている本が何の本なのか気になって仕方がない。


何もしていないで、姿勢よくたっている使用人のもとに移動していく。


移動先の使用人の口が綻ぶ。


やっと着いた頃には、へとへとだ。

赤ちゃんで体力もないのにこんなに大きな部屋で生活させられているのだ。

少しの移動でもへとへとになってしまう。

使用人の足に抱き着き、抱っこを要求する。

王族のベッドだから最高級のものを使っているのは間違いないが、体重の軽い赤ちゃんにとっては少し硬くて寝心地が悪い。

それに比べて、人の腕はよい。

暖かいし、柔らかい、俺の寝相に沿って腕の位置を最適なところに移動してくれる。


――最高だ――


そう思いながら、うとうと、眠りにつこうとする。

母親が何かを書くペンの音、使用人が掃除をする音、窓の外から聞こえてくる小鳥のさえずり、すべてが重なって最高の入眠へ誘われる。


「「おい、聞いてくれエイディー。朗報だ」」

静寂に満ちた部屋に、雷撃が走る。


う、うるさー


あまりの声の大きさに閉じていた瞼が大きく開く。


「どうしたのですか、そんなに大きな声で」

入ってきたのは王様だ。

興奮からか少し息が上がっている。

王様は鋼のような肉体に、戦場をくぐりぬけたであろう傷跡が刻まれている。

誰が見ようと男という体だ。


「ついに、こいつの名前が決まったぞ」

こいつ、、、あ、俺のことか。

今まで、名前で全然呼ばないなと思っていたが、まだ名前が付けられていなかったのか。

なんだろう。

そう考えると、いやな想像が思い起こされる。

キラキラネーム、頼むから王様2世とか王様ジュニアとかそんな名前はやめてくれ。

かっこよくなくてもいいから、変な名前はやめてくれ。

まだはっきりと話せない俺は心の中で真剣に祈る。


「ついに決まったのですね、結構長かったですね。」

王様に微笑みながら、向きをただす。

確かにそうだ。いくら迷うとはいえ、半年も名前を付けないのはどうかと思う。

俺が転生者じゃなかったら、名前を「かわいい」と勘違いしても不思議ではないぞ。

王様を見ながら、心の中でまた文句を言う。


「ああ、命名士が名前をもらおうとするたびに倒れてしまってな。少し時間がかかってしまった。」

父上の眉間に寄った皺からは、本気で困り果てた様子がうかがえた。

命名士?この世界にはそんな職業があるのか。

思っていたより元の世界より違うのかもしれない。


「それで、名前は何になったの?」

「ふふふ、では発表する。

 バルゼルガ王国第三皇子の名前は。」

羽織っている上着の中から巻物のようなものを取り出す。


「「シプル、シプル・バルゼルガと命名する。」」

巻物を広げ、シプル・バルゼルガと書いてあるであろう文字列を母親に見せる。


「シプル、シプル、いいじゃないの。」

母上は嬉しさのあまり、父上に飛びつき、唇を重ねた。

シプルか、まあ悪くない。想像していたよりもずっと良い。


安堵からか、本能からかそのまま深い眠りに落ちていった。



一話にするには長すぎたので、2話に分けました。

すぐに3話目があがるはずだと信じたい心持ち。

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