5 真相
「おれは毒蛇の妖怪なんだ。もともと山で暮らしていたけど、いつか江戸妖怪の頭になるって決めて、故郷を出たんだよ」
やっと泣き止んだ茶吉が、ぽつりぽつりと語り出した。
「頭ねえ」
朔夜がつぶやくと、茶吉は怯えて肩を揺らす。さきほどの一撃が効いているらしい。
「どうぞつづけてください」
豆が静かに促すと、少年は戸惑いがちにこくりとうなずいた。
「おれ、江戸の町に出たはいいものの、どう暮らしたもんかわからなくて。困っていたときに、この店のおじちゃんがおれを拾ってくれたんだ」
おじちゃんとは、寧々の父のことだろう。
寧々の父は妖怪であることを隠した茶吉を孤児だと思って拾い、飯を食べさせるばかりか丁稚として雇ってくれたらしい。茶吉はひとまず江戸の町に慣れるまではとこの店で奉公をはじめた。
「おじちゃんも姉ちゃんも、すごく美味い飯をつくるんだ。それに、ここで働くのは楽しかったんだよ。だけど、あんたが現れて……!」
茶吉が怯えをこらえるように、きっ、と朔夜を睨む。
「姉ちゃんはあんたのことが好きなんだ。なのにあんたが受け入れないから! 『手に入らないなら殺してやりたい。いや、やっぱり部屋に閉じ込めてあたしだけのものにしたい!』って姉ちゃんが叫んでて……」
「あ、殺そうとしたわけではなかったんですね。それはよかった」
「よくねえよ。どの道危ないこと言ってるだろうが」
豆の言葉に、朔夜が突っ込む。そうは言っても、死ぬよりはいいだろうに。
茶吉はだんだんと舌がのってきたのか、朔夜を指さして叫んだ。
「あんたのことは気に入らなかった。そのうえよくよく調べたら、あんた妖怪の総大将ぬらりひょんだっていうじゃないか! 姉ちゃんはあんたを手に入れたい。おれは総大将の座を奪いたい。だから協力して、あんたを捕えようって決めたんだ」
このとき寧々は茶吉と朔夜が妖怪であることを知ったようだった。だがそれで怯むこともなかったらしい。ふたりは結託して少量の毒を朔夜に盛った。朔夜が弱った頃合いに捕えて、寧々は朔夜を独り占め、茶吉はぬらりひょんの居ぬ間に江戸妖怪を牛耳ろう、と画策して。
まあ朔夜はすぐに気づいて、膳に口をつけなくなったわけだが。
それでも彼らはめげずに毒を盛りつづけた。昨日の膳も毒入りだったらしい。
「なるほどな。それが真相かい」
すべてを聞くと、朔夜は額に手を当てた。呆れ切った顔でため息をつく。
「言いたいことはいろいろあるが……、思ったよりしょうもない話だったな」
「しょ、しょうもないだと?」
「俺を襲おうとしたことは、まあ、この際いいだろう」
いいのか。
豆は朔夜を見た。やはり彼は呆れた顔をしている。
「念のためだが、俺を殺そうとしたわけじゃないんだよな?」
「そりゃ、もちろん。あんたが死んだら意味ないもん。相手を弱らせるくらいの毒しか使ってないよ」
「そうかい。ったく、どうやら若気の至りでもありそうだから、今回は叱る程度で済ませてやる」
懐が深いというかなんというか……。豆も呆れて朔夜を見た。朔夜は腕を組み、眉をひそめている。とんとん、と彼の指が苛立たしげに自分の腕を叩いて「だがな」とつづけた。
「俺は『若大将』だ。『総大将』は俺の親父。俺を封じたところで江戸一番の妖怪にはなれねえぞ」
茶吉がぽかんと目を丸める。
「若大将? 百鬼にそんなのいたっけ? 聞いたことないけど――」
あ。