3-2 舟の上にて
「自分で寧々さんと話せばいいじゃないですか」
「俺が話してもかっとさせるだけだ。今日だって、縁談の話を出しただけで寧々の機嫌が悪くなったところを見ただろ?」
「あれはあなたの切り出し方が悪かったんだと思いますが。というか朔夜さん、最初からそのつもりで夕餉に誘ってきたんですか?」
「ちがうちがう。豆にうまいもん食わせたかったってのは本当だ。でも寧々のことを頼まれてほしいっていうのも本当だ!」
豆はじとりとした目で朔夜を見つめる。月明かりに照らされた朔夜はなんとも情けない顔をしていた。……この件で困っているのは事実らしい。こじれた恋慕は当人同士では解決できないこともあるのかもしれない。
とはいえ、豆としては絶対に断りたい話だった。
それなのに朔夜も諦める気はないらしい。しばらく問答をした末に豆が折れないのを見るや、仕方ないという顔をして切り札を出してきた。
「本当はこういうことをしたくないんだが……、この件を頼まれてくれないなら、若大将権限でしばらく琥太郎に会わせてやらねえぞ」
ぴくりと、豆の眉が跳ねる。赤子の笑顔が頭によぎった。ふくふくとした頬を桃色に染めて笑う、琥太郎の姿が。
「……それは、ずるいのでは?」
琥太郎には豆もすっかり絆されていた。会う度に笑顔で抱っこをせがんでくる琥太郎がかわいくて仕方ない。その琥太郎を人質に取られるとは。額をおさえてため息をつく。
「……仕方ないですね。今回だけですよ」
「本当か。助かる!」
ぱっと表情を明るくした朔夜に、妙なところで無邪気な男だなと苦笑する。まったく調子が狂わされる相手だ。
――しかし、毒か。
「妖怪の朔夜さんに利く毒というのは、すこし気になりますね」
朔夜が目をまたたいた。
「気になるって、なにがだ」
「妖怪は人間よりも丈夫でしょう。そんな妖怪に利く薬なんて、人間の娘が手に入れられるものでしょうか」
「……ああ。そう言われてみれば」
寧々はどこで毒を手に入れたのだろう――と思いながら、豆にはすでに見当がついていた。
「あの店、きな臭かったんですよね」
ここまで来たなら、そちらも確かめてみるべきか。毒を融通する者と寧々の関係を断ち切らないと、これからもよくないことが起きる気がする。寧々はすこし危ういようだから。
それにだれかが毒を用意したとなると、その目的はなんだろう。
……もしかしたら、寧々はその「だれか」の手のひらで踊らされているだけなのかもしれない。百鬼の若大将は命を狙われやすいというし、朔夜に毒を盛りたかったのは寧々以外にもいたのではないか。
思案を巡らせながら、苦笑する。
――琥太郎のときと同じ流れだな。
朔夜といると、妙なことに巻き込まれる。そういうことは勘弁してほしいと言ったはずだが、まあ、今回も乗り掛かった舟だ。仕方がない。
「寧々さんとは俺が話します。その代わり、朔夜さんにもしてほしいことがあるんですが、頼まれてくれますか?」