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可哀想なお兄様(棒)

 ーー理由は分かった。でも、私にこだわる必要無いんじゃない?


 今、彼女がいなくたって、お兄様ならすぐに出来そう。

 一緒に働く同僚達からも狙われてるからね。


「お兄様、私でなくたって、同じ企画部の主任の成田さんはどうです?あと私の斜め向かいの席の藤宮さんとか。彼女達、お兄様に好意がありますよ?」

「そうなのか?」


 成田さんは出来る女系美人で、藤宮さんはアイドル系美人だ。

 ちょっと嬉しそうにした部長が、ハッと我に返った様子で頭を振る。


「ーーいや、マリーが良い。俺はマリーと結婚する」


 今、嬉しそうだったのは何なのか。

 これはまだ隠してる事があるなと麻衣はピンと来た。


「何故私に執着するんですか?好みのタイプだったりします?」

「いや、好みのタイプというわけでなはい」


 反射的に言ってから、部長がマズい!という顔をして口元を押さえた。


「ーーほほう、お兄様、いい度胸してますわね」


 麻衣が無言でジロリと睨むと、部長は何とか誤魔化そうとした後でやっぱり無理そうだと観念したらしく、髪をかきあげて溜息をついた後に、キリッと真顔になった。


「ーー正直に言おう。……俺は見る目が無い」


 は?と目を点にした麻衣の前で、部長は無駄にシリアスな雰囲気を漂わせた。


「三歳の時の初恋だった幼稚園の先生は、知らなかったが、アイドルオタクでオタク同士の喧嘩でボコボコにやりあうくらい血の気の多い人だった。ーー小学生の頃好きになった保健の先生は、ヤバい人だったらしく、保健室に軟禁されかけた」


 たらりと麻衣が冷や汗を流す。


「中学の時付き合った一つ年上の女の子はいじめっ子だったらしく、それを知ってすぐ別れた。その後付き合った後輩は可愛かったが、全く勉強が出来ないうえ話が合わなくてすぐ別れた」


 ま、まだあるの?


「高校で付き合ったモデルの子は金使いが荒くて喧嘩別れした。そのあと付き合った同級生の子は高飛車で、店員を呼びつけて無茶な要求をするような子で、それもすぐに別れた」


 う、うわあ……


「大学に入ってから付き合った人は束縛してくる子で、毎日必ず一時間はその日の出来事を報告しないといけなくて速攻で逃げた。次に才女と評判の子と付き合ったが、彼女は放課後に要人と活動していたので離れた」

「……要人と活動……?何だか凄い人みたいですね。秘書か何かで働いていたんですか?」


 やっとまともな人が現れたと安堵して、忙しいのが原因で別れたのかな、と麻衣が感心していると、部長はアッサリ、いや、と否定した。


「教授とパ○活動とかいうのをしていたので身を引いた」

「ーーパ○活かい‼」


 ややこしいわ!


「社会人になってからは警戒していて、アメリカでマイナーな女優と付き合っていたんだが、弁護士とフットボール選手と三股掛けられていたことが分かって別れた。アメリカでは、石を投げたら弁護士に当たると言うくらい弁護士人口が多いんだ」


 いや、そんな豆知識はいいから。


「……お兄様、可哀想な女性遍歴ですわね」

「だろう?」


 ドヤってどうする。


「……ミュリアーナの時も思いましたけど、女性を顔だけで選んでるからじゃありませんか?」


 痛い所を突くと、自覚があるのか、部長はうっ、と呻く。

 しかし、咳払いをして何事もなかったように持ち直す。

 

「そこでマリーと出会ったのは運命だと気付いたんだ。マリーとなら幸せになれるはずだと思ってね」

「……何故そこで私なんですか?今世では初対面だし、過去世では十九歳から修道院へ送られて、お兄様達とは無関係に暮らしたはずですよ」


 麻衣は困惑してしまう。


 そう、過去世では、マリエールは十九歳でトランク一つを持って辺境の修道院へ行き、ヴェトラート侯爵家からはるか離れた、彼女の事を誰も知らない土地でひっそり余生を過ごしたのだ。

 ボロボロの教会を毎日掃除して、孤児の世話に明け暮れ、最後は病気で若くして亡くなった。


 ところが部長は苦笑して肩をすくめた。


「無関係じゃなかったんだな、それが。さすがに貴族の妹が耐えられないんじゃないかと、こっそり覗きに行っていたんだ。君は気付いてなかったけどね。寒さで凍えてないか、慣れない平民の生活で疲れ切ってないか、貧しい生活でお腹を空かせていないか……これでも心配していたんだよ」


 ーーーー全く、気付いていなかった


 麻衣は目を見張って、息を飲んだ。


「でも、連れ戻せなかった。ーーーー何しろ、マリエールは子供たちを連れて魚釣りに行ったり、一緒に仲良く歌をうたったり、一生懸命子供たちの世話をして楽しそうに暮らしていた。……侯爵家では見た事が無い、明るい笑顔をしてね」


 ああ、と麻衣は思い出した。

 修道院はボロかったけど、マリエールにとっては天国だった。

 シスター達は優しいし、ちびっ子たちはやんちゃだったが可愛かったし、捨て犬や捨て猫がいっぱいいてモフり放題。

 おむつをガシガシ洗い、クワで芋を掘り、井戸から水を何回もバケツで汲むなど大変だったけど、平民の暮らしが意外に合っていたらしく、苦にならなかったんだよね。

 狭いベッドで、子供たちとぎゅうぎゅうに押し合いへし合いしながら寝るのも楽しくて、毎日誰かがどこかで喧嘩してたけど、賑やかで笑い声も絶えなくて。

 ーー懐かしいなあ、としみじみしていると、部長が視線を合わせて来る。


「この一か月マリーの仕事ぶりを見て来たし、前の部長からも評判が良かった。前世の事もあって、暖かい家庭を築くなら、マリーしかいないと思ったんだ」


 部長がふっと寂し気な顔になる。


「前世でも今世でも俺は使用人に囲まれて幼少時代を育ってきた。両親は愛情はかけてくれたが、親子の暖かな団らんというのをよく知らない。俺もマリエールを見て、ああいう愛情にあふれた家庭を築きたいという憧れを持っていたんだ」


 良い話なんだけど、ここで突っ込んでいいですか?

 …………お兄様、このセレブめ‼


 一着三十万円のブランドスーツを着て某有名大学を出て、アメリカの女優と付き合って、コンビニのプリンを初めて食べて感動するような上流階級なお兄様と、平凡な私が付き合っても前途多難な未来しか見えないんですけど、どうなのこれ⁈


「マリー、幸せにするよ」


 ポジティブシンキング過ぎませんこと⁉

 

 

 





 

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