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※サメくん視点(してん)(はなし)です。

 


 ポカポカと、あたたかい、ひかりにあてられて……。



 サメくんは、ねむっていました。


 ザザーン、ザザーンと、こっちへきては、あっちへいく……きまぐれななみのおとが、サメくんのみみのなかにヒュッとはいっては、ピュイーっと、ぬけていきました。


 サメくんは、ねむったままでした。


「…………そろそろ、おこしたほうが、いいんじゃないか?」

「…………そうだね。ねぇ、ねぇってば、もしもしー?」


 と、もうふたつ、サメくんのみみにはいるおとが、ありました。

 けれど、やはり、サメくんが()をさますことは、ありませんでした。


「……もーしもーし」

「…………」

「もぉーしもぉーし!!」

「……!」


 サメくんは、()をさましました。

 うつむいたじょうたいから、バッ! と、かおをまえにあげました。

 ピュピューイっと、とおりすぎた、やわらかいかぜが……サメくんのあたまに、ほっぺたにあたります。

 ザザーンと、ちかよってきたなみが、サメくんのおなかにあたります。

 ……サメくんは、()を、パチクリとさせました。

 そして、


「ぐっ、ぐぇええええええ!? おっ、おぼ、おぼぼぼ、ぼっ、れるぅ……っ! おぼれるッ……! だ、だだ、だれかたすけてぇええええ――――――――!!」


 ジタバタジタバタと、そのばで、あばれまわりました。


「だ、だいじょうぶだって……! そこは”うみ”のなかだよ! もうしんぱいないから、おちついて!」

「ぎゃああああ!! だ、ダメだダメだ!! ボクはもうダメだぁ――――!!」

「おい、あばれるんじゃねぇ!! せっかくオレさまたちが、たすけてやったってのに、それをムダにする()かおまえは!!」

「たすけたすけたすけたす……………………え?」


 サメくんは、そこでようやく、みみにはいるおとが、いみをもたない()()()()でないことに、()がつきました。

 だれかが……ふたりが、サメくんに、はなしかけているのです。

 サメくんは、じぶんのなかにはいってくることばに、みみをかたむけようとしました。

 すると、サメくんのからだから、フッと、ちからがぬけました。


「ほっ……よかったぁ~。びっくりさせちゃったかな? ごめんね。そんなつもりじゃあ、なかったんだ。でも、いきなりあばれだしたから、こっちがびっくりしちゃった。あはは。げんきそうで、ほんとうによかったよ」

「フン、まったくだ。オレさまが、すぐにおまえのジタバタをとめてやったからよかったものの……たすけたこっちが、あやうくケガをするところだったぜ」


 サメくんのあたまのうえから、おひさまのひかりといっしょに、ことばのあめがふってきました。

 サメくんは、もういちど、かおをあげました。

 そこにいたのは、まあるいみみがふたつに、くろときいろのシマシマなかわをかぶった、よんほんあしのひょろ~っとしたヤツ……。

 そしてもうひとり、それとははんたいに、おおきくて……まっくろで……ゴツゴツした、シャチさんのとくちょうをもっているけれどそうではない……ムッキムキのてあしを、じしんたっぷりにサメくんにみせつけているヤツでした。

 サメくんは、ビクッと、すこしだけ、からだをちいさくまるめました。


「あっはは。なにも、こわがることはないよ。オレたちは、キミのみかたさ。ほら……オレたちのうしろにあるたべものだって、キミのためによういしたんだ。よかったら、たべるかい?」


 シマシマのヤツが、サメくんに、そうはなしかけました。

 シマシマのヤツは、”りく”のすなはまにおいてある、いーっぱいのくだものや、いーっぱいのいきものに、アゴをくいっとあげて、しめしました。

 そのとき、ぐぐぅ~~と、サメくんのおなかから、おっきなオナラのようなおとがなって、あたりにひびきました。

 そういえば……と。

 サメくんは、タカくんとの”しょうぶ”にむちゅうで、おなかがペコペコだったことを、いまになっておもいだしたのです。

 サメくんのくちのはしっこから、だばー……と、つばがあふれだしました。


「ふふっ。さぁさぁ! えんりょなく、たべてくれよ!」


 シマシマのヤツと、ムキムキのヤツが、すなはまのほうから、サメくんのいるなみのあさいところまで、たべものをはこんできてくれます。

 サメくんは、『いただきます』もしないうちに、バクッ! バクッ! と、ごはんにかぶりつきました。

 そのようすをみて、かおをみあわせたシマシマとムキムキは、クスッとわらいました。




「――なにがあったんだい?」


 サメくんのおなかが、まぁるくふくらんだころ……シマシマは、サメくんに、そうたずねました。

 おなかがいっぱいになって、えがおでまんまるのおなかをさすっていたサメくんは――ハッ! となって、それからキョロキョロと、いそいであたりをみまわしました。


「そうだ……! ボクはいったい……なんで、こんなことに……」


 そこは、()()のばしょでした。

 タカくんとであった、あの”りく”……サメくんが、おぼれてくるしんでいた、あのすなはまそのままでした。


「キミをさいしょにみつけたのは、じつはオレなんだ」


 シマシマは、サメくんに、そういいました。

 サメくんは、「キミが……?」と、しんじられないものでもみるようなかおをしました。

 シマシマは、かたをすくめて、すこしだけわらいました。


()()()()()()、ね。けれど、おぼれてくるしんでいるキミを……オレだけのちからじゃあ、とてもじゃないけど、たすけてあげられなかった。……そこで」

「オレさまがよばれて、きてやったってわけさ」


 サメくんは、しせんをとなりにうつしました。

 そこには、ムッキムキのうでをむねのまえでくんで、どっしりとかまえている――ムキムキがいました。

 ムキムキは、フンと、かるくはなをならします。


「しかしだな、それにしても、”どうぶつづかい”があらいってもんだぜ。チーターのたのみじゃなけりゃあ、こんなメンドーなことには()をかさなかった……。おいおまえ、となりのコイツのおかげでいのちびろいしたな。かんしゃしておくんだな」

「たすけてくれるって、しんじてたからだよ――ゴリラさん。キミはそんなこというけど……たべものをさがすのだって、てつだってくれたじゃないか」

「オレさまも、はらがへってたんだよ! ついだでだよ、ついで!」

「あはは。はいはい、わかったよ。そういうことに、しておこうか」

「そうだ、わかりゃあいいんだ。まったく……」


 プンスカプンと、『ゴリラさん』はふきげんそうなようすでしたが、はんたいに、『チーターさん』は、あかるくわらっていました。

 サメくんは、そんなふたりをみて、”デコボコともだち”だ、とおもいました。


「ところで――」


 シマシマ――チーターさんは、サメくんのほうに、もういちど、かおをむけました。


「オレのしつもんが、どっかへとんじゃったけど……サメくん、キミはいったい、こんなところで、なにをしていたんだい?」

「…………」


 チーターさんに、そのことをたずねられると、サメくんは……かおをまっかにして、なにもいえなくなりました。

 モジモジ、モジモジして、なかなかいいだせずにいました。

 チーターさんとゴリラさんは、そのようすを、ふしぎそうにみつめていました。


「おい、なんだよ。はやくいわねぇか」


 ゴリラさんにせかされて、サメくんは――ビクッ! と、おどろいたはんのうをみせました。

 ……けれど、たしかに、ふたりにここまでよくしてもらっているのに、じじょうをはなさないというのは、しつれいなんじゃないかと、サメくんはおもいなおしました。


「よし……!」


 サメくんは、ペチペチと、じぶんのりょうてでほっぺたをたたくと、ふたりにむきなおりました。


「じ、じつは、それもこれも……すべては……ボクがよわっちいくせに、ちょうしにのって、タカくんに”しょうぶ”をしかけたことが、いけなかったんだ……!」

「「タカくんとの”しょうぶ”……?」」


 チーターさんとゴリラさんは、おたがいに、かおをみあわせると、くびをかしげました。

 サメくんは、いちからじゅうまで、ぜんぶはなしました。

 ――きのうのまえのひ、タカくんとであって、どっちがせかいでいちばんつよいか、エサとりの”しょうぶ”をすることになったこと。

 ――きのう、”しょうぶ”のかちまけがきまらず、もういちど、やりかたをかえて、エサとりの”しょうぶ”をすることにしたこと。

 ――そしてきょう、エサとりをはじめたはいいものの、”りく”のうえにどうやってもあがることができず、かといって、どうぶつたちもやってこず……いっそおもいきって、”りく”のうえにあがってみようとしたところ、いっぽすらふむことなく、いきができなくなってしまったこと。

 ウソいつわりなく、サメくんは、はなしました。

 さいごに、「ほんとうは……ほんとうは、タカくんに()()()だなんて、おもっちゃいなかったんだ……。だけど、もしかしたら……もしかしたら、こんなよわっちいボクでも、なにかひとつ、タカくんにかてるモノがあるんじゃないかって……。そんなきぼうをもってしまったことが、さいしょから、まちがっていたんだ……。ボクは、ボクがなさけなくて、しかたがない……。こんなことになってしまって、ほんとうに、くやしいなぁ……」と、ポロポロなみだをながしながら、つけくわえました。

 さいしょからさいごまで、サメくんのはなしをじっくりときいていた、チーターさんとゴリラさんは、もういちど、かおをみあわせると……………………ふふっ。

 くちびるに()をあてて、すこしだけ、わらいました。

 そのはんのうに、サメくんは、きょとんとしました。

 サメくんのおもっていたはんのうとは、おおきくちがっていたからです。

 ――チーターさんは、いいました。


「そりゃあ、そんなもの、くらべたってしかたがないだろ? オレたちには、できることと、できないことがあるんだから」

「……どういういみだい?」


 サメくんは、くびをかしげました。

「コホン!」と、チーターさんは、せきばらいをすると、ことばをつづけました。


「オレは……このせかいじゅうのだれよりも、はしるのがはやいと、おもってる。……でも、”ちから”くらべじゃあ、となりのゴリラくんのほうが、もっとすごいとおもうんだよ」


 となりのゴリラさんは、「へへっ」と、はなのしたをゆびでこすると、じしんたっぷりに、ムッキムキのうでをあげてみせました。


「こうやって、ことばにするのはイヤだが……オレさまだってそうだ。このせかいじゅうのだれよりも、”ちから”がつよいとおもってる。……でも、”はしりのはやさ”じゃあ、となりのチーターには、とてもとても、かなうもんじゃない。まぁ、オレさまのばあい、ほかにも”イチバン”のモノが、あるかもしれんがな!」


 ゴリラさんは、そういうと、むねをはり……ムフフン! と、うでにちからをいれてみせました。

 パンパンにふくれあがった、おおきなうでは、まるでぶっとい()()()のようで……サメくんが、これまでであったどうぶつたちのなかで、そのようなおおきなうでをもったどうぶつは、いませんでした。

 たしかに、ゴリラさんのいうとおりかもしれないと、サメくんはおもいました。


「いまオレたちがたべたような、たべものをさがすときだってそうさ」


 チーターさんは、また、はなしだしました。


「オレは、”はやい”のがとくいだから、とお~いばしょまでいってきて、いろんなエサをとってきたわけさ。ゴリラさんには、おおきないきものをとってきてもらったり、おおきなきぎをたおして、くだものをとってきてもらったりした……」

「…………」

「……キミも、そうだろ?」

「……!」


 こえに()がついたサメくんが、あわててかおをあげると、チーターさんとゴリラさんが、サメくんのかおを、のぞきこんでいました。


「オレたちにはできないけれど……でも、キミにできること、キミにしかできないことは、たーくさんあるはずさ」


 そのとき、サメくんは、ハッとしました。

 サメくんのあたまのなかにうかんだものは……タカくんのかおでした。


「おーい! おーい! みんな、かくれていないで、そろそろでておいでよ! サメくんならだいじょうぶ! やさしいひとだから!」


 サメくんからかおをはなしたかとおもえば、チーターさんはこんどは、すなはまのうしろにひろがる”もり”にむかって、おおごえでよびかけました。

 すると…………いっぴき……にひき、これまたさんひきと、きのみきやはっぱのかげから、つぎつぎと、ちいさなどうぶつたちが、すがたをみせはじめました。

 それぞれの、ちっちゃなくちにくわえられているのは……さっきサメくんたちがたべたモノよりは、ずいぶんとちいさいモノばかりですが、それぞれが、りっぱな”たべもの”でした。

 どうぶつたちは、すなはまにぴょんぴょこおりてくると、サメくんのまわりに、あつまりだしました。

 そして、くちにくわえられているたべものを、そっとおくと、


「これ、おいしいから、たべてみてね!」

「あんまり、ムリしないでね……」

「はやく、げんきになってね!」


 などと……くちぐちに、いろいろなことばをかけては、また、”もり”のほうへとかえっていきました。

 ……サメくんは、これまで、ひんやりとつめたい”うみ”のかんしょくしか、しりませんでした。

 おひさまのひかりよりもあたたかいものを、しりませんでした。

 けれど、そのときだけは……もしかすると、じぶんのおなかは、おひさまのひかりよりもあたたかいモノでつつまれているんじゃないかと、サメくんはつよくそうかんじました。


「ありがとう……ありがとう……」


 ポロポロと……ポロポロと……。

”うみ”よりもあおいなみだを、あめよりもおおつぶのなみだを、こぼしながら……。

 ペコペコと……ペコペコと……。

 あたまをさげて、かんしゃをつたえて……。

 モグモグと……ムシャムシャと……。

 サメくんは、ずっと、ずーっと、もらったいのちを、たべつづけました。

 そのようすをみて、またクスッとわらいあうチーターさんとゴリラさんは、しずかに、すなはまからいなくなりました。

 サメくんが、それにきづくことは、ありませんでした…………。




「チーターさん……ゴリラさん……」


 サメくんが、それにきづいたころ……。

 おひさまは、せかいのすみっこで、まっかっかになっていて、『きょう』というひのおわりをしらせていました。

 かぜも、ピューピューと、おひるどきよりもつめたくなって、サメくんのはだをチクチクとはりのようにさしてきます。

 ……それでも、サメくんは、いたくもかゆくも、つめたくも…………かなしくもありませんでした。


 ただ――「ありがとう」と。


 もうすぐいなくなる、まっかっかなおひさまと……もうすぐやってくる、まっくらな”そら”にむかって、ひこうきぐものようないのりを、とばしました。




「…………」


 サメくんは、”うみ”には、かえりませんでした。

 ザザーン、というちいさななみにからだをあずけ、されるがままでした。



 サメくんは、()のまえにのこっている、あかいくだものをひとつ……じっと、みつづけていました――――。


 

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