5
※サメくん視点の話です。
「しまった…………」
タカくんとサメくんが、ふたたび”しょうぶ”のやくそくをしたひの――つぎのひ。
サメくんは、きのうとおなじように、まっさおにかがやく”うみ”のうえを、すいーっと……およいではいませんでした。
それどころか、きのうも、すいーっとおよぐことは、できていませんでした。
なぜなら、
「そうだ……。ボクは、やっぱり、”うみ”をでることなんて……できやしなかったんだ」
そのとおりでした。
サメくんは、”りく”のうえをはしることも、あるくことも……ましてや、タカくんみたいに”そら”をとぶことなんて、ゆめのまたゆめでした。
それでも、サメくんは、タカくんと”しょうぶ”のやくそくをしてしまったからには、なにがなんでもタカくんにかちたいとおもっていたのです。
けれども、そんなおもいをいくらつよくにぎりしめていても、いきなりサメくんが”りく”のうえでいきをして、じゆうにあるけるようになるわけでは……ありません。
”うみ”のなみがいちばんあさい、”りく”のすなはまにちかいところで、グルグルグルグル、わっかをえがいておよぎつづける……。
それが、サメくんの『いま』でした。
すなはまには、だれもいません。
ザザーン、ザザーンと、こっちへきては、あっちへいく、きまぐれななみと……ポツンとひとり、サメくんだけです。
きのうは、そうではありませんでした。
なんにんかのどうぶつたちが、すなはまで、ひなたぼっこをしたり、かけっこをしたり、おやまをつくったりして、あそんでいました。
しかし、きのうサメくんがそこへやってくると……すなはまであそんでいたどうぶつたちはもちろん、そのちかくをとおりかかったどうぶつたちも、サメくんをみつけるやいなや、ピューっとどこかへにげていき、パタリとすがたをみせなくなったのです。
おそらく、サメくんのもっている、せなかのギザギザのせいでしょう。
それは、”うみ”のなかでの、サメくんのつよさのあかしでもありました。
ただ、”うみ”のそとへギザギザがでてくると、おひさまのひかりがあたって、それのギロリとするどくとんがったようすが、まわりからよくわかるのです。
そして、きのうすなはまにいた”りく”のどうぶつたちは、ほかのなかまにも、「いまサメくんがすなはまにいる」ことをつたえているのかもしれません。
きょう、すなはまにだれもいないのは、おそらく、そういうわけでした。
「ちくしょう……ちくしょう……」
サメくんは、くやしいおもいでむねがいっぱいになり、めからポロリとなみだがこぼれました。
”うみ”のなかを、あれだけじゆうにおよげているボクのことだから、”りく”だって”そら”だって、そのきになれば、すいすいっとおよげてしまうだろう……。
どんなばしょだって、つよいボクならへっちゃらさ……サメくんは、そうしんじていました。
――でも、そうではありませんでした。
じっさいに、サメくんは、いっぽでも”りく”へでようとすれば、たちまちにして、いきがくるしくなって、うごけなくなってしまいます。
ちょっとまえに、シャチさんたちにエサばをうばわれ、”うみ”のうちがわから”うみ”のそとがわへとおしだされたときに、それはすでにしっていたことでした。
しっていたのに、どうして……。
「…………」
しかし、このままでは、なにもかわることはないし、なにもはじまりません。
なにもエサをとってこなければ、タカくんはまえよりも、サメくんをバカにしてくるかもしれません。
「それだけは……それだけは、ぜったいにイヤだ!!」
サメくんは、よこにブンブンと、あたまをふりました。
と、そのとき――サメくんのめに、せのたかいいっぽんのきが、うつりこみました。
それは、タカくんがきのうと、そのまえのひにもとまっていた……タカくんが、ひとやすみしていたばしょでした。
そういえば……と、サメくんは、おもいかえします。
タカくんのとまっていたきは、”うみ”のちかくで、しかもあそこには、まぁるまるとしていて、おいしそうなくだものが、いーっぱいみのっていたよな……。
あそこぐらいまでなら……もしかしたら…………ボクなら……………………。
ちょ~~っとがまんすれば、いけるでしょ!
「よーし……」
サメくんは、クッとかおをひきしめて、はらをくくりました。
そして――
「えいっ、やーーーー!!」
ドデン!! と、サメくんは、おもいきって”りく”にあがりました。
でも、
「ぐえっ、ぐええええっ!? や、やっぱりムリ! ムリムリムリムリ!! お、おっおっ、おぼれっ、おぼれるぅ!! た、たすけてぇーー!!」
ジタバタジタバタと、サメくんは、『いきができない』くるしさのあまり、あばれまわります。
すなまみれになりながら、おおごえをあげて、さけびつづけます。
そのこえをきいたのか、”りく”にすんでいるどうぶつたちは、もりのきぎのすきまからかおをだして、たかいところからすなはまを、のぞきこみました。
しかし、だれひとりとして、サメくんのもとへは、ちかよりません。
ポカポカと、ひざしのあたたかいおひるどき……。
ザザーンと、なみのおとしかきこえないすなはまで……。
サメくんは、いよいよ、あたまのなかが、まっしろになります…………。
(あぁ……クソっ。ボクは、もう、ダメそうだ……。あれだけちいさな『ハエくん』にだって、まけちゃいそうな……よわっちくて、ダメダメで、みっともない、こんなすがた……。なんて…………なんて、なさけないんだ……………………)
サメくんは、そこで、きをうしなってしまいました。