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”うみ”のうえにうかんでいる、ギザギザしたものは、みぎへいったりひだりへいったり、しばらくはグルグルとおなじばしょをまわりつづけていましたが、やがてとまりました。

 そして、ゆっくりと、ちいさないわのほうへ、ちかづいていきます。

 ギザギザしたものは、じょじょに、じょじょにおおきくなり、とんがりあたまのようなものまでみえたころには、タカくんよりもずっとおおきなからだをもっていることがわかりました。

 むむっと、タカくんは、()をほそめました。

 ギザギザしたものは、”もの”ではなく、”どうぶつ”のひとりだったのです。

 そんな、とんがりあたまのギザギザやろうは、ちいさないわにたどりつくと、「ふぅー……」と、おおきくいきをはいて、いわにもたれかかりました。

 ついさきほど、おこってさけんでいたのが、うそのようです。

 からだのそこからムズムズしていたタカくんは、こえをかけずにはいられませんでした。


「おい、そこの」


 タカくんは、はっぱのかげからかおをだして、”した”にこえをおとしました。

 けれど、きこえていないのでしょうか……ギザギザやろうは、ウンともスンともいいません。

 それどころか、「ふあ~あ」と、のんきにあくびをしています。

 カチン、とあたまにきたタカくんは、こんどは、からだごとはっぱのかげからだして、スゥー……と、たっぷりいきをすいこみ、


「やい! そこの!」


 と、ありったけのこえで、さけびました。

 すると、ようやくタカくんのこえにきづいたのでしょうか、ギザギザやろうは、とんがりあたまをもちあげると、キョロキョロと、あたりをみまわしはじめました。

 そして、タカくんのこえが”うえ”からおちてきていることにきづいて、ギザギザやろうがみあげたところ、タカくんとしっかり()があいました。

 ドキッとしたタカくんは、はっぱのかげに、いっぽもどりました。


「やあとも、キミはだれだい?」


 ギザギザやろうは、タカくんがおもっていたよりも、ニコニコとしたようすで、あいさつをしてきました。

 タカくんは、ムズムズするからだが、ますますムズムズするのをかんじました。

 でも、タカくんは、おこったり、さけんだりすることはありません。

 それとははんたいに、つばさをすこしばかりととのえ、むねをはって、ドンとおおきくかまえました。

 フフン、とひとつ、はなもならします。


「ボクは、タカだよ。そらのタカ。キミこそ、だれなんだい? ギザギザくん」


 タカくんが、おおきなこえでへんじをすると……なにかおかしかったのでしょうか、ギザギザやろうは、ハッハッハと、タカくんのこえにまけないぐらいのおおごえで、わらいました。


「だれって、ボクはサメだよ」


 タカくんは、きょとんと、くびをかしげます。


「サメ? なんだい、それは」

「ん? キミ、知らないの? ほら、サメだよサメ。”うみ”でいちばんつよい、うみのサメ。”うみ”といえば、ボクじゃないか」


 ギザギザやろう――『サメくん』は、タカくんがじぶんをしらないことにびっくりしたようで、じぶんがどれだけゆうめいなのか、どれだけつよいのかを、いっしょうけんめい、タカくんにいってきかせようとします。

 けれど、タカくんは、きけばきくほど、どんどんくびがかたむいていきます。


「んん? いやぁ、やっぱり、キミのことはよくしらないなあ。ボクはうまれたときから、ずぅーっと”そら”をとんでたから、”りく”や”かわ”や”うみ”にあるもののことは、だいたいしってるつもりだったんだけどなぁ」

「えぇ? ほんとうにしらないのかい? ボクはタカくんのこと、ようくしってるっていうのに」

「え? キミはボクのこと、しってるの?」


 こんどは、タカくんが()をまるくして、びっくりするばんでした。


「もちろんだとも。いつもそらを、すいーすいーって、ボクとおなじようにはやくおよいでいるじゃないか。『まるでサメくんみたいだよね』って、”うみ”のなかじゃあ、けっこうゆうめいなんだぜ? たしかに、ボクもおもったよ。ああ、なーんて、きもちよさそうなんだろうって……だから、ボクはキミのまねをしてみたものさ。でも、まぁ、うまくはいかなかったんだけどね。そらをおよぐことは、どうもボクにとっては、むずかしいみたいでさ……」

「そ、そうだったんだね」


 タカくんは、けっしてくちにはだしませんでしたが、「やった!」と、むねのおくでよろこびました。

 じぶんが”うみ”のなかでもゆうめいで、しかも、こんなギザギザでとんがりあたまで、つよそうなみためをしているサメくんにまでほめられたとおもったからです。

 もしも、サメくんのことばどおり、サメくんが”うみ”でいちばんつよいのなら、サメくんにほめられたタカくんは、サメくんよりもさらにつよいのかもしれません。

”そら”でいちばんつよいじぶんが、”うみ”でもいちばんつよいのなら、このせかいで、じぶんよりもつよいどうぶつはいないのではないかと、タカくんは、いよいよそうおもいはじめていました。

 そして、タカくんはなんだか、とてもウキウキしたきもちになりました。


(さーてさて、いますぐにでも、こいつをきょうのばんごはんの”ごちそう”にしてやってもいいところだが……しかしまぁ、”うみ”でいちばんつよいヤツとであうことなんてそうそうないし、ボクのけらいにしてやっても、いいかな……なんて)


 タカくんは、ムフフンと、むねをはって、とくいげにはなをならします。

 ところが、「でもね」と、サメくんはクッとこわいかおをして、ことばをつけくわえます。


「タカくん、キミは……いや、キミたちは、ボクたちがエサをさがしているとき、たまにそれをピョイって、よこからもっていってしまうことがあるだろ? ほんとうのきもちをいうとね、じつはボクは、キミにとてもおこっているんだ。ちょうど、ここでであったからいっておくけど……はっきりいって、ボクたちはキミたちにめいわくしているんだ」


 ついさきほどまで、タカくんをほめていたはなしはどこへやら、サメくんはこんどは、タカくんにむけて、プンスカプンスカと、おこりはじめました。

 サメくんのしょうじきなきもちを、いきなりぶつけられたタカくんは、びっくりして、おもわずクラッとたおれてしまいそうになります。

 けれど、タカくんは、サメくんのつよいことばに、たおれることはありませんでした。

 それどころか、タカくんもムッとして、ツンとくちばしをとがらせると、まけじとサメくんにいいかえします。


「めいわくだ……なんていわれても、こっちもこっちで、まいにちまいにち、たべるためのごはんを、いっしょうけんめいさがしているんだ。しかたのないことなんだ。だから、ボクにかんけいのないキミに、もんくをいわれるりゆうはないね。それに、ボクにエサをとられるということは、やっぱり、キミがボクよりよわいからじゃないのかい?」


 それをきいたサメくんは、もっとおこりました。


「なにおう。ボクがいちばんつよいにきまってる! あのシャチとだって、ごかくにたたかたんだ! キミこそ、『”そら”でいちばんつよい』とかなんとかいってるけど、ほんとうは”そら”や”りく”にもっとつよいヤツがいるから、こうして”うみ”のほうまでにげてきたんじゃないのかい?」


 それをきいたタカくんは、とうとうカチンときて、サメくんとおなじくらいおこりました。


「な、なにおう。きいておどろけ、ボクは”そらのおうさま”だ! ”そら”どころか、”りく”にも、ボクよりつよいヤツなんて、だーれもいやしない。”うみ”でしかつよいといえないキミとは、わけがちがうんだ。ボクはキミより、なんばいもなーんばいも、つよいんだからね!」


「いや、ボクのほうがつよい」

「いーや、ボクのほうが、それよりつよい!」

「いーやいや、ボクのほうが、さらにそれより……」


 といういいあらそいが、しばらくつづきました。

 やがて、タカくんもサメくんも、たいりょくがスッカラカンになって、ゼェゼェといきをきらしはじめたとき……サメくんが、あるていあんをしました。


「ぐぐぐ……ようし、それじゃあひとつ、ボクとキミとで”しょうぶ”といこうじゃないか! どっちがエサをおおくとることができるか、いまからきょうそうするんだ! これでかったほうが、まけたほうよりもつよいことにする……いいね?」

「ああ、いいとも。ボクがまけることなんて、ありえないんだから、その”しょうぶ”、よろこんでうけることにするよ」

「へへ、そうこなくっちゃ。あしたのおひるどき……またここにしゅうごうだ! タカくん、まけるのがこわくなって、とちゅうでにげるんじゃないぞ!」

「そっちこそ、ズルとか、ひきょうなことだけは、しないでおくれよ。……まぁ、キミがちょびっとゆうりなほうが、このボクとではいいしょうぶになるのかもね」


 そのタカくんのことばをきいて、かんぜんにおこったサメくんは、プンスカ! プンスカ! と、まっさおな”うみ”とははんたいに、からだをまっかっかにして、いそいで”うみ”のなかへかえっていきました。


「ボクよりよわいくせに、ムキになっちゃって……かわいそうなヤツだな。かちまけなんて、さいしょからきまっているっていうのに」


 サメくんのようすをみて、タカくんはフンとひとつはなをならすと、バサッと、つばさをひろげました。

 タカくんも、そろそろかえろうかなとおもったのです。


「ずいぶんとながいあいだ、やすんじゃったな。みんな、しんぱいしてないといいけど……」


 タカくんは、うみとは()はんたいのもりのほうへ、すいーっと、とんでいきました――。

 

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