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あるところに、『タカくん』がいました。
おおきなつばさに、りっぱなくちばし、キリリとかっこいいかお、キュッとひきしまったからだ……。
タカくんは、うまれたときから、それらをもっていました。
とくに、そのなかでもタカくんがじまんにおもっていたのは、”おおきなつばさ”でした。
なぜなら、おおきなつばさは、そらのせかいでタカくんを、だれよりものびのびと、はばたかせたからです。
タカくんがそうおもっていたように、タカくんのまわりにいたなかまも、なかまのそとがわにいたどうぶつたちも、みんなおなじことをおもっていました。
『そらのせかいで、いちばんつよいのは、「タカくん」だ』……と。
そんなタカくんは、きょうも、きもちよくそらをとんでいました。
おひさまのひかりが、ちょっとだけまぶしい、おひるどきのことです。
ポカポカと、あたたかいひざしをせなかいっぱいにあびて、キラキラとひかるかわのうえや、サワサワとかぜにゆれるきぎのすきまを、すいーっと、とおりすぎていきます。
「ふぅ、かぜがきもちいいなあ。でも、きょうはなんだか、エサをさがすのにずいぶんつかれちゃったな。どこかで、ひとやすみしようか……」
タカくんはいつも、はやおきでした。
ふあ~あ、というあくびをなんどもしちゃいますが、じまんの”おおきなつばさ”をきれいにととのえるためでした。
それから、タカくんはなかまたちとごうりゅうすると、エサをさがしに、”うみ”や”りく”のうえを、おしゃべりしながらとびまわりました。
そうして、おひるになるころには、いちにちぶんのエサがてにはいる、というわけです。
いつものタカくんなら、「こんなのへっちゃらさ!」と、バサッとつばさをもちあげてクルリとまわり、なかまたちに、まだまだとべることをじまんしていました。
しかし、きょうにかぎっては、どうしたというのでしょう……なかまたちとおしゃべりしていても、エサをさがしていても、タカくんにはいつものようなたのしさがありませんでした。
それどころか、ハァハァ、ゼェゼェ、といきをきらして、つかれてしまうほどでした。
「ああ、なさけない、なさけない。ボクは、そらでいちばんつよいヤツなんだ。ここのところ、おきるじかんを、もっとはやくしちゃったからかなぁ……。でも、そんなことぐらいで、へこたれてちゃあ、ほかのみんなにわらわれちゃうぞ」
いつもなら、ほかのみんなといっしょに、おひるごはんをたべるタカくんでしたが、そういうわけがあったため、ほかのみんなとはわかれて、ひとりでやすむことにしたのです。
「へぇ~、めずらしいこともあるもんだなあ。もしかして、むりをしてとんでたんじゃないの?」と、なかまたちにいわれたタカくんでしたが、「なに。ちょっとしたきまぐれだよ」と、すずしいかおでこたえました。
ほんとうは、なまぬるい、モヤモヤとしたきもちがあったのですが、タカくんはそれにプイッとそっぽをむきました。
しばらくひとりでとんでいれば、そういったきもちがスー……ときえていくことを、タカくんはしっていたのです。
「あ。いいところをみつけたぞ」
そうして、タカくんがもりのなかをとびつづけて、しばらくたったころ、タカくんはもりのはしっこにやってきました。
もりのなかにあふれていた、きぎのみどりは、そこでおしまいでした。
そのさきには、あおい”そら”よりもあおい、まっさおな”うみ”が、あたりいちめんにドーンとひろがっていました。
そんな”うみ”をながめるばしょにぴったりな、せのたかいいっぽんのきを、タカくんはみつけたのです。
えだのふとさも、あしでつかんでやすむおおきさとしては、ぴったりでした。
「ふぅー……」
つばさをおりたたみ、えだをあしでつかんだタカくんは、ホッとあんしんしました。
まるで、つばさをつくっている、はねのいっぽんいっぽんから、ドロッとしたよけいなものが、いっきにながれおちていくようでした。
「それにしても、きれいなながめだなぁ。きょう、たまたまみつけたばしょだったけど、この”そら”のうえは、みんなとなんどかとおってるんだ。けれど、みんなといっしょのときには、ふしぎときづかなかったよ。ここは、なんだかとても、おちつくばしょだなぁ……」
おもわずすいこまれてしまいそうな、ふかいふかーい”うみ”のあおいろに、タカくんはめをほそめてうっとりとしていました。
と、そのとき、ググウ~と、タカくんのおなかから、おならのようなおとがなりました。
「おわっ!?」と、びっくりしたタカくんでしたが、そういえば、おひるごはんをまだたべていなかったことにきづきました。
「おっとっと、いけないいけない、ボクとしたことが。けさ、はやおきしてとってきたエサをたべるのもいいけど……よくみると、このきには、あかくてまるまるとしたくだものが、いーっぱいみのってるじゃないか。……よし、きめたぞ。きょうは、おひるごはんに、こいつをいただこうじゃないか」
ジュルリと、くちからたれるつばをのみこんだタカくんは、いまとまっているえだから、ヒョイヒョイっとうえにいどうすると、くだもののひとつにはなをちかづけました。
クンクンとにおいをかぐと、まあなんともあまずっぱくておいしそうなにおいが、はなのなかにひろがってくるではありませんか。
タカくんは、たまらず、くだものにかぶりつきました。
シャキシャキしていて、みずみずしくて、のどもかわいていたタカくんにとって、そのくだものはごちそうでした。
タカくんは、ひとつをたべおわると、となりのふたつめ、さらにとなりのみっつめ……またまたとなりのよっつめと、パクパクパクパク、よくばりさんになってたべつづけました。
「ぷっはあー! あーあ、たべたたべた~」
おなかがまあるくふくれたころになって、タカくんは、ようやくたべるのをやめました。
でも、このくだもののおいしさをきにいったタカくんは、あしたも、そのつぎのひもたべたいなぁとおもい、くだものをじぶんのいえにたくさんもちかえることにしました。
ひとつひとつ、くちばしでとっていては、とてもじかんがかかってしまいます。
そこで、タカくんは、いいことをおもいつきました。
「そーれ! えい、えい、えーーーーい!!」
タカくんは、くちばしでえだをつかむと、ゆっさゆっさと、きをゆらしはじめました。
すると、えだについていたくだものたちが、ポト、ポトト、ポトポトポト……と、えだからはなれて、じめんにおちていきます。
あとは、じめんにおりて、おちたくだものたちをゆっくりとひろいあつめて、おおきなはっぱでくるんでひとつにすれば、ぜんぶもってかえることができる……というのが、タカくんのかんがえでした。
どうやら、そのかんがえは、うまくいきそうです。
「フフン、どんなもんだい。ボクにかかれば、ざっとこんなもんだよ」
タカくんは、ちょっとだけとくいになって、はなをならしました。
さてさて、さっそくくだものたちをひろいあつめようかと、タカくんは、じめんにおりるためにつばさをひろげ――
「あー、いったいなぁ~。まったく、だれだい、ボクのあたまにいしなんてぶつけたヤツは!」
ギョッと、タカくんは、おもわずおどろいてしまいます。
それは、タカくんのものではありませんでした。
そのとき、ひびいてきたさけびごえは、まったくべつのだれかのものでした。
タカくんは、さいしょにとまっていたえだのところにもどって、はっぱのかげにかくれて、しせいをひくくしました。
こえがひびいてきたほうこうは、ひだりでも、みぎでも、うえでもありません……。
”した”でした。
けれど、じめんのほうではありません。
さらに、もっと、”した”でした。
タカくんは、おそるおそる、くびをのばして、”した”をのぞきこみます。
じめんがみえて、おちたくだものがいくつかみえて……。
それからさき、もっと”した”の…………まっさおな”うみ”のうえに、ポツンとひとつうかんでいたのは、まるでノコギリのような、ギザギザしたものでした。
「ややっ。なんだ、あれは」