えぴろーぐ
「おや? なんだ、あれは……」
どれほどあるいたのか、わかりません……。
どれほどじかんがたったのか、わかりません……。
ずっと、おなじけしきがつづくなかで……タカくんは、ふと、どこかみおぼえのある、”ギザギザ”をみつけました。
それほど、とおくはなれているわけではありません。
あと、ひとはばたきすれば、たどりつくばしょに、”それ”はいました。
「んー…………?」
タカくんは、いちど、たちどまりました。
そして、よ~~~~く、めをこらしてみると――
「あ」
ひとことだけ、こえをこぼしました。
そのこえが、タカくんがおもっているいじょうにおおきかったのか……”ギザギザ”は、タカくんのほうに、ゆっくりと、からだをむけました。
すると――
「あ」
”ギザギザ”も、タカくんとにたようなこえを、こぼしました。
「…………」
「…………」
ふたりは、かたまったまま、しばらくうごきませんでした。
いままで、しぜんにながれていたじかんが、そのしゅんかんだけピタリと、とまってしまったかのようでした。
けれど、まもなくして――ワッハッハッハ!! というわらいごえが、こおりついてとまってしまったじかんを、とかしました。
「なんだい、タカくん。そのち~~っぽけなかいがらと、”うみ”のくさは! ボクはてっきり、こーんなおおきなシャチでも、つかまえてくるのかとおもったよ。あーあ、きたいして、そんしたなぁー。まったく、きのうはいったい、なにをしてたっていうんだよ」
”ギザギザ”のそのことばに、カチン! ときたタカくんでしたが……それほどおこることなく、フン! とつよめにはなをならすと、ニヤリとわらいました。
「え、エサをさがしてたのさ……。キミこそ、”りく”でぜんぜんエサがとれなくて、ベソをかいてるんじゃないかっておもってたよ。なんだい、サメくん。そのち~~っぽけな、あかいくだものは。しかも、たったひとつじゃないか! あーあ、こんなのだったら、はじめから”しょうぶ”なんて、するんじゃなかったなー。ボクははやめにこのすなはまにきて、ず~~っと、キミをまってたのさ。ちょうど、ひまつぶしのさんぽがおわったところでね。まったく、まちくたびれちゃったよ……」
”ギザギザ”――サメくんは、タカくんのそのことばに、カチン! ときましたが……それほどおこることなく、ケッ! と、そっぽをむきました。
「ぼ、ボクだってそうさ……! キミがぜーんぜんこないから、ここでさきにまってたのさ」
「う、ウソだ……! ボクが、ここへさきにきたんだよ」
「ボクだって……!」
「いーや、ボクだ……!」
「ぼ、ボクだ……っ。…………」
「ボク……………………」
「……………………」
「……………………」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
また、じかんがピタリと、とまってしまいました。
ふたりは、しばらくなにもいわないまま……しかし、そのばしょから、いっぽもうごくことも、ありませんでした。
……………………………………………………………………………………。
……また、ずいぶんと、じかんがたち――――
「コレ、ひとつ……あげるよ」
「……!」
そっぽをむくサメくんのとなりにいたのは――タカくんでした。
こえにきづいて、サメくんがふりむくと、そこにいたのは……そっぽをむく、タカくんでした。
タカくんのくちばしには、きれいなかいがらがひとつ、くわえられていました。
「…………。どうして……?」
サメくんは、”おどろき”と”ふしぎ”がいりまじったこえで、タカくんにたずねました。
タカくんは、「ハァ……」と、ためいきをつくと、サメくんのほうはみずに、”うみ”のほうへからだをむけました。
あしもとに、くわえていたかいがらと、”うみ”のくさにつつまれている、いっぱいのかいがらを……そっと、おきました。
ゆるゆると、くさのむすびめがほどけて――ジャラっ……! と、なかみがすがたをあらわします。
サメくんは、こえはだしませんでしたが、めをまるくして、おどろきました。
「――ボクは、きづいたんだ」
タカくんのこえに、サメくんは、タカくんのかおをみました。
タカくんは、ぼーっとしたかおで、”うみ”のむこうがわを、みつめていました。
「ボクは、”そら”をとべるから……うえのせかいはもちろん、したのせかいのことも、なんでもしってるって、おもってた……。でも、ぜんぜんだった……。ボクのしらないせかいは、したどころか、うえにも、まだまだあったんだ…………。……――キミにであうことができたから、そのことにきづけたんだよ。サメくん」
「……っ!」
サメくんは、もっとびっくりしたかおになりました。
それから、タカくんのとなりで、サメくんは……タカくんとおなじように、”うみ”のほうへからだをむけました。
「……じつはね、タカくん。それは、ボクもなんだ。キミにであえたから、ボクもきづいたんだ。――ボクたちは、そのままでよかったんだって。…………。もしかして……ひょっとすると、ボクたちって、あんがいスゴイやつらなのかもしれないね」
「……っ!」
タカくんは、ギョッとおどろいたかおになって、おもわずサメくんのほうをむきました。
ギザギザで、とんがりあたまで、おっかなくて……こわそうなみためをしているサメくんでしたが、サメくんは、いつものサメくんのままでした。
そんなようすのまま、しずかに、わらっていました。
「フッ……。キミは、"うみ"をおよげてすごいなぁ、サメくん」
タカくんも、サメくんにつられて、わらってしまいました。
「フッ……。キミこそ、"そら"をとべてすごいじゃないか、タカくん」
へんじをするように、サメくんもまた、わらいました。
「コレ……たべるかい?」
サメくんは、ひとつだけもっている、あかいくだものを、タカくんのほうへスス……と、よせました。
「……まったく。みんな、おなじことをいうんだなぁ」
「ん? なんのはなしだい?」
「……いいや、なんでもない。こっちのはなしさ」
タカくんは、そういうと、あかいくだもののはしっこを――シャリっ! と、たべました。
「じゃあ、ひとくちだけ」
モシャモシャとたべるタカくんをみて……サメくんは、タカくんのあしもとにあった、きれいなかいがらをひとつだけ、てにとりました。
「じゃあボクも、ひとつだけ」
「どうぞどうぞ」
ふたりのかおは、とても、うれしそうでした。
「――ねぇ、サメくん。ひとつ……”しょうぶ”をしないかい?」
「”しょうぶ”?」
タカくんのことばに、サメくんは、くびをかしげました。
タカくんは、”うみ”のむこうがわ――このすなはまからいちばんちかい”しま”を、くちばしでさしました。
そして、タカくんは、こういいました。
「あそこまで、どちらがはやくたどりつけるか、きょうそうするんだ。あぁ、もちろん、サメくんは”うみ”をおよいで、ボクは”そら”をとんで……だ。――どうだい? ワクワクするだろう?」
サメくんは、さいしょはタカくんのことばを、ふしぎそうにきいていましたが、じょじょに……ニヤリと、タカくんのようにわらいました。
「……うん。うん、そうだねっ! じつに、おもしろそうだ。はやくきょうそうしよう、タカくん! よーし、まけないぞー!!」
「よしきた! そうこなくっちゃ!!」
ふたりは、きょうそうのはじまりである、”りく”と”うみ”のまんなかのいちにつくと……”つばさ”と”て”を、パン! と、うちならしました。
「どっちがまけても、うらみっこなしだよ! タカくん!」
「フン、それはこっちのセリフだよ! サメくん!」
ザザーン……と、ちいさくてやわらかいなみが、こっちにきて、ふたりのからだに、あたりました――。
「「よーいドン!!」」
ふたりは、ほとんどどうじに、”そら”と”うみ”を、およぎはじめました…………。
それからというもの、ふたりはたびたび、すなはまへきては、きょうそうをするようになりました。
どちらがかって、どちらがまけたのか……。
それは、ふたりにしかわからないことです。
そして、ふたりは、そんなことさえわからなくなるほど……まいにちまいにち、すなはまでであいました。
いつしかそこは、”ふたりがきょうそうをするばしょ”としてゆうめいになり、いろんなどうぶつたちが、やってくるようになりました。
ふたりは、やってきたどうぶつたちに、”そら”と”りく”でとれたたべもの、また”うみ”でとれたたべものなどを、わけあたえるようになりました。
どうぶつたちは、さらにあつまるようになりました……。
ふたりのきょうそうをみるもの、おはなしをするもの、いっしょにあそぶもの……。
”そら”と”りく”と”うみ”と……これまでであうことのなかったせかいのどうぶつたちが、そこでかおをあわせて、であうようになり……そのすなはまは、”ふたりがきょうそうをするばしょ”から”みんながあつまるたのしいばしょ”に、じょじょにうつりかわり、さらにゆうめいになりました。
タカくんとサメくんも、みんなとおなじようにしました。
きょうそうをしたり、おはなしをしたり、いっしょにあそんだり……。
たとえ、おおあめがふったり、ゆきがふったり、かみなりがおちてきたりして、あえなくなるひがあっても……。
はれたつぎのひには、きまって、そのすなはまでであいました。
そして、タカくんは”そら”や”りく”でのはなしとたべものを、サメくんは”うみ”でのはなしとたべものを、おたがいにこうかんしました。
こうして、このせかいで、だれよりもあたたかく、だれよりものびのびとくらすようになったふたりは……。
それがあたりまえになるぐらいに、ながいながーいじかんを、ともにすごしました…………。
タカくんとサメくんは、わかれるそのひまで、けっしてくちにはしませんでしたが――。
かけがえのない、『ともだち』でした。
おしまい。
これにて完結です!
連載形式にして、ながながと付き合わせてしまい、申し訳ありませんでした。。
いかがでしたでしょうか。この物語が、少しでもあなた様の心を温かく包んだり、背中をちょびっと押したりできていれば、それ以上の喜びはありません。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
数多きらめく創作のはしっこにいる私を見つけてくださったあなた様に、どうか幸あれ。
またどこかでお会いしましょう。それではっ!
……それと、もしよろしければ、他の作品も見ていってくださいね!特に『異世界道中のお道具屋さん』とか!