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”あさ”。

 きのう、せかいのすみっこへかえっていったおひさまが、まっしろなすがたになって、はんたいのすみっこから、こちらへやってきます。

『きょう』という、あたらしい()の、はじまりです――。


”そら”がまだ、としおいたくらさをけして、おさないあおさをつけるさらにまえの、なにもない”まっしろ”なころ……。

 タカくんたちさんにんと、そのほかのなかまたちは、ながーいたびをおえて、すなはまへととうちゃくしました。

 きのう、タカくんが、”うみ”でのエサとりをはじめるために、とびたった……あの”りく”でした。

 いつぞやかに、タカくんが”もり”をたんけんしていたらたどりついた、ひとやすみするのにちょうどいい()がはえているばしょの、すぐちかくでもありました。


「どっこいせ」

「おっとと……」


 カメさんは、すなはまにつくとすぐに、タカくんにせなかからおりるようにいいました。

 カメさんにそうやってせかされたこと、そして、すなはまにしんちょうになっておりたことで、タカくんは、ちょっとだけよろけてしまいます。

 けれど、きちんとあしですなをつかみ、”りく”にたつことができました。


「ゴホッ! ゴホッ!」


 カメさんは、”うみ”のほうにむかって、つよくせきこんでいました。

 そのせなかを、ペンギンさんたちが、よーしよーしと、さすります。

 カメさんは、とってもながくいきているどうぶつです。

 つまり、とってもとしおいている、ということです。

 そんなカメさんが、いちにちのはんぶんものあいだ、タカくんをせなかにのせつづけていたのです……。

 たくさんのペンギンさんたちでも、タカくんのからだをささえつづけることが、たいへんだったのですから、つかれてしまうのも、ムリはありません。


「だいじょうぶですか、カメさん。……ご、ごめんなさい」


 タカくんも、カメさんのからだをしんぱいして、こえをかけました。

 そして、あやまりました。

 すると、せきがやんだカメさんが、タカくんのほうへ……ゆっくりと、ふりかえります。

 とても、やさしいえがおを、していました。


「なにを、あやまることがあるのです……? むしろワシは、キミに、かんしゃしたいぐらいじゃよ。キミとであえたことで、もういちど、”うみ”をぼうけんすることが、できたのじゃから……。もういちど、”うみ”のひろさを、しることができた……。そして…………うつくしい、ほしぞらも。キミとであっていなかったら、ぜんぶ、みれなかったものじゃ」

「…………」

「ほっほっほ。そんなかおをしなさんな。こう、げんきにうごいていても、としじゃからな……。”とし”にはだれも、かてますまい……」


 カメさんは、さみしいことばをいいましたが、でも、ぜんぜんさみしそうなようすでは、ありませんでした。

 それどころか、”うみ”のむこうがわからさしこんでくるひかりに、()をキラキラとかがやかせ、”そら”をみあげては、うっとりとしたかおをしていました。

 ……タカくんは、しずかに、あたまをさげました。


「コレ。よかったら、もっていってよ!」


 タカくんがあたまをあげたそのとき、よこからはなしかけてきたのは、ペンギンさんでした。

 まえにだしている、ペンギンさんのりょうてのうえには――ちっちゃなちっちゃな、けれどとってもきれいな、かいがらがのっていました。


「きのう、エサとりをしていたついでに、みつけてきたんだ。さいしょは、たべるためにとっておこうかなっておもったんだけど……あのときは、おなかいっぱいで、たべそこねてさ。つぎは、”たからもの”としてとっておこうかなっておもったんだけど……よーくかんがえてみれば、ボクたちは、いつでもコレをとることができるなっておもって。そんなのは、”たからもの”でもなんでもないや。もっと、”たからもの”としてふさわしいだれかがいるんじゃないか…………ってね!」

「…………」


 タカくんは、ペンギンさんの()のうえから……そっと、くちばしで、かいがらをつかみました。

 ペンギンさんは、まんぞくそうに、うんうんと、うなずいています。


「それは、もうキミのものだ。たべるなり”たからもの”にするなり、すきにしてくれていいよ」

「……っ。ありがとう、ペンギンさん」

「あはは。いいっていいって」


 ペンギンさんは、すこしだけ、てれくさそうに、ほっぺたを()でかきました。

 すると、


「ボクもー!」

「ワタシもー!」


 ドタドタと、ペンギンさんのほかのなかまたちも、つぎつぎに、タカくんのもとにちかづくと、りょうてのうえにのっけた、きれいなかいがらを、おいていきます。

 あっというまに、タカくんのまわりは、きれいなかいがらでいっぱいになり、ちょっとした”おたからのやま”になりました。

 ……しかし、


「それじゃあ……ちと、もってかえれませんなぁ。ほっほっほ」


 カメさんのいうとおり、タカくんは、それだけおおくのものを、くちばしにくわえてはこぶことができません。

 ペンギンさんたちは、うでをくんで、う~~ん、とかんがえました。


「ん……?」


 タカくんが、かいがらのやまから()をうつして、かおをあげると、そこにカメさんのすがたが、ありませんでした。

 タカくんが、どこへいったんだと、キョロキョロあたりをみまわすと……いました。

 カメさんは、タカくんたちからすこしはなれたところで、のっそりのっそり、あるいていました。

 カメさんのむかうさきには、すなはまにながれついた、”うみ”からはぐれたモノがいくつかありました。

 カメさんは、そのうちのひとつをくちにくわえると、また、もどってきました。

 ペンギンさんは、まだ、う~~ん、う~~~~ん、とまゆをまげて、しかめっつらになってかんがえこんでいます。

 そのペンギンさんのかたを、ポンと、たたきました。


「コレを、つかってみては、どうかね?」


 カメさんにきづいたペンギンさんは、カメさんのくちにくわえられているモノをみました。

 そして、あっ! そうか! と、くもりがかったかおが、パッと、はれました。

 ペンギンさんは、カメさんから”それ”をうけとると、すぐにタカくんのもとにちかづいて、いーっぱいのかいがらを、ひとつにあつめだします。

 ふたりのなかでは、おもっていることが、いっしょのようです。

 しかし、タカくんには、なにがなんだか、さっぱりわかりません。


「……? どういうことなんだ、なにをしているんだ、いったい……。というか、”それ”はなんなんだ……?」

「”うみ”にはえている、()()ですじゃ」

「……!」


 いつのまにいたのか、タカくんのとなりに、カメさんがいました。

 カメさんが、つづくことばのなかで、”それ”をどうつかうのかをいいおえるまえに――「できた!」と。

 ペンギンさんは、どうやら、なにかのさぎょうをおえたようです。

 タカくんがあしもとをみると……そこには、”うみ”のくさとやらでつつまれた、いっぱいのかいがらがありました。

 ひとつになって、タカくんのあしに、くくりつけられていました。

 つまり、”うみ”のくさは、いっぱいのかいがらをはこぶための、ちょっとした()()()()のようになっていたのです。


「それくらいであれば、”そら”をとぶのに、じゃまにはならないでしょう」


 カメさんは、タカくんからはなれて、ペンギンさんのとなりにならぶと、そういいました。

 ザザーン……という、しずかななみのおとが、そのときになって、やけにはっきりと、タカくんのみみにのこりました。

 ひとりと、ふたりは、おたがいにむかいあったまま……しばらくは、なにもいわないままでした。

 けれど、そこにいつづけるのが、くるしいじかんでは、ありませんでした。

 ふたりはもちろん、タカくんも……いまは、じゆうになって、そのおだやかなじかんのなかを、およぐことができていました。



「キミが……これからどこまでとぶことができるのか、ひじょ~に、たのしみだ」



 さいしょにくちをひらくのは、やはり、カメさんでした。

 カメさんは、ニッコリわらったあと、タカくんに…………せなかをみせます。

「また、どこかで」と、いいのこして。

 タカくんを、ずっとのせつづけていたせなかの”いわ”が、そのとき、とってもとってもおおきな”やま”のように、タカくんの()にはうつりました。


「こんどは、おっこちないよう、きをつけてね! ……まぁ、おっこちちゃっても、そのときはまた、たすけてあげるよ!」


 ペンギンさんも、ニッコリとわらいながらそういうと、カメさんのあとにつづきます。

 ほかのなかまたちも、「じゃあね!」「げんきでね!」と、くちぐちにいうと、ふたりのあとにつづいていきます。

 ドボン! ザブーン! …………。

 それぞれのおとをならしながら、”うみ”のなかへ、はいっていきます。


「…………っ」


 タカくんは、おおきくまえへでると、バササッ! と、つばさをいーーーーっぱいにひろげて、


「ありがとう! ありがとう! ほんっっとうに! ありがとうっ!!」


 ポロポロと……ポロポロと……。

 なみだをながしなら……。

 みんなにむかって、おおきなこえで、かんしゃをつたえました。

 それがきこえたのか、タカくんのことがまだ()になったのか……カメさんとペンギンさんのふたりは、”うみ”のなかへもぐるまえ、さいごにもうちいど、タカくんのほうをふりかえり――


「こまったときは、おたがいさまじゃよ」

「こまったときは、おたがいさまってね!」


 ほとんどいっしょにそうさけぶと、とぷん……と、”うみ”のなかへ、かえっていきました。


「ありがとうっ!! ありがとうーーっ!!」


 みんなのすがたがみえなくなっても、タカくんはしばらく、つばさをあげさげして、ふりつづけました。

 パラパラと……はねがいくつおちても、タカくんは、かまいませんでした。

”うみ”のむこうがわからやってくるまぶしいひかりが、かぜが、あまりにもあたたかくて、ここちよくて……タカくんのむねから、()から、かんしゃのおもいがあふれでて、とまりませんでした。

 せかいは、そんなタカくんを、しずかに…………ただただ、やさしく、つつみこんでいました。




「さて、これからどうしようか……」


 おひさまは、きょうもかわらずポカポカと、そらたかくのぼっていました。

 きがつけば、もうおひるどきになりそうです。

 タカくんは、ポツンとひとり、まだすなはまにいました。

 ふしぎと、タカくんのおなかは、ペコペコではありませんでした。

 さっきペンギンさんたちからもらったかいがらを、さっそくたべるひつようは、なさそうです。


「…………」


 タカくんは、”うみ”をみました。

 ずっと、ずーーっとむこうへ、()をこらしました。

 タカくんは、”うみ”にたいして、()のうえでみていたときとは、またちがった()()()()をもっていました。

 ()のうえでみていたときのほうが、もっと、ずーっとむこうがわがみえていたような()がしていたタカくんでしたが、なぜか『いま』のほうが、くっきりはっきり、”うみ”のあおさがみえているようにおもえたのです。

 むこうがわへいってみたいなと、タカくんは、つばさがウズウズするのをかんじました。

 ……けれど。

 それよりも、タカくんは、もっと『いま』のけしきをみていたいと、そうつよくおもいました。


 ザッ…………ザッ…………。


 なにをいうわけでもなく、タカくんは、あるきはじめました。

 あしですなをつかんで、けって、またつかんで……。

 ときどき、やわらかいなみにあたっては、とまって……。

 ゆっくりと、ゆっくりと、じかんのながれをたのしむように……。

 どこへたどりつくかもわからない、おわりのみえない”うみ”と”りく”のまんなかを、フラフラと、あるいていきました…………………………………………。




 

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