閑話 —— ユリア——
相田由利亜は今、そう今だ。
大きな木が並んだ、うっそうと生い茂る草の中に立っていた。
友達と学校の校門で手を振り、「また後で」と声をかけて足を踏み出したばかりだった。
「な、なに、ここ?」
彼女は高校に入学したばかり。迎えの車が外で待っているはずで、帰ってからお気に入りのショップへ友達と出掛ける予定だ。
父は世界中に支店を持つ大会社の社長。親戚も有名人やら政治家やらが多くいる。
生粋のお嬢様。姉も大学生で姉妹揃うと、周りが勝手に寄ってくる。有名な美人姉妹として名が通っていた。
何ひとつ不自由な事などなく、彼女の言葉ひとつで何でも揃ってしまう。
「お父様、お母様、姉さん!」
呼んでも返事どころか、カサカサと音が返ってくる。気持ち悪く寒気が体中に這い回る。
「ウー」赤黒く光る目が草の中から見えると、ゆっくりと由利亜の前に大きな巨体を現した。
「キャー」
尻もちをつき腰が抜けてしまい動けなくなってしまった時、由利亜の片目が熱くなった。
そして、気を失い倒れ込んでしまう。
「あったかいな…」
気がつくと何かに包まれていた。ゆっくり顔を上げると、さっきいた巨体の獣が由利亜を包んで眠っていたのだ。
「…」
由利亜は気がついた。彼女だって本は読む。
SFやファンタジー、誰しもが夢中になる物語。
「もしかして…魅了ってやつ?!」
若いというのは理解度も早い。
「やっぱり私は、どこに来てもすごいのよ」
自分は異世界に運ばれ、この魅了だと思われる力を手にした。この巨体の獣を見ればわかる。
この後、この森に狩猟の為にやって来たエインの集落の若者と共に集落に辿り着く。
エインで巫女の話しを聞き、力を使い自らを「巫女ユリア」と名乗りをあげた。
「ユリア」がこの世で踏み出した一歩。
それは、何も知らなさすぎた彼女の幼さ。
特別を履き違えた、彼女の初まりであった。




