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琥珀と銀狼  作者: シロ
第3章
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第2話 巫女

数日もすると支えもなく起き上がれるようになり、部屋の中をゆっくりと歩き回れるまで回復した。

ただ左の端、火傷の後みたいについた赤い痣は少し薄くはなったが消えることはなかった。


腕の痣も見えにくい目も、そして顔の痣も、すべて左側。何か意味があるのかととも考えてみたが、頭が真っ白になるだけなのでやめて置くことにした。


 正直なところ、何も覚えていない。

 村や町はどうなったのか?あの男は死んだのか?

 王子は無事なのか?


教えて欲しいと頼んでみたが、ユズの体が落ち着くまではダメだと断られた続けている。

あれだけの事をやらかしたので、ものすごく心配症にさせてしまったみたいだ。


その日は、だいぶ落ちてしまった体力を少しでも取り戻すため、大廊下を歩いていた。

壁に手を付け、往復しているだけで運動になるからだ。


「……」


この宮は廊下は長いし広い。

自分はすごい所にいるんだなと、すこし怖くなった。


後、ひとつ変化がある。ユズ自身の事だ。

自身の事と言うが、ものすごく曖昧にしかユズにも説明が出来なかった。


今まで気にすら止める事がない。分からないままで終わっていた。

そんな風に感じていたことが、ユズの中で変化をもたらしている。


答えを求めてしまうと、何か胸の中がもやもやとして頭をかかえてしまう。

変わりつつあるのに、それがまだ分からない。


自分という者に、居心地の悪さを感じていた。


「おい聞いたか?」

「何をだ」

「エンレインの森近くの集落に、銀の湖の巫女が現れたと騒いでいるらしい」

「銀の巫女?聞いたことがないぞ」

「大昔の伝承で伝えられている巫女だと。その女も、風貌がとても変わってるってさ」

「どんな風にさ?」

「すごい美少女だか、美人だかだってさ」


ルイの宮に入る扉の前には、宮殿の衛兵が交代で門番をしている。

その門番2人が話しているのが聞こえていた。

普段からルイの宮には、人の出入りは必要最低限にしてある。女官や府官女達が勝手に入って来てしまわないようにしている。


今はユズが怪我により体調も悪いので、関係ない者はさらに出入りを固く禁じていた。

ユズは大廊下で、その門番の声に足を止める。


 銀の湖の巫女?


聞き慣れない名前に、話に聞き入ってしまっていると、横から声がした。


「おかしいですねぇ」


神出鬼没、夜王がいつの間にかユズを支えている。


「突然出てくると、びっくりしますから…。で、何がおかしいんです?」


ユズの胸元に指をさしている。


「巫女は完全に消えてしまいましたからねぇ。ここにそれがある限り、銀の湖の巫女の意志を持つ者など存在しませんよ」

「?」


首にかけている紐を引っ張り出し、銀の飾りを夜王に見せた。


「それですよ」


夜王は飾りに手を触れると「もう戻して下さい」と言った。


「どういう意味ですか?」

「そのままの意味です」

「??」


 これがあると、その巫女は新たに存在しない?

 これと巫女が関係しているってこと?


「考えている通りですよ。その飾りは巫女の魂のカケラが宿ってます。最後のカケラがねぇ」

「ちょっと待って下さい。そもそも銀の湖の巫女って何ですか?」

「人間で言う神代という時代に、狼を祀っていた一族がいましてね。祭祀を行える者を巫女と呼んだんです。代々、一族で狼と意思疎通が出来る女が選ばれた。と聞いてますねぇ」

「……」


ゆっくりと大きく息をするユズは、夜王に目を向ける。何だか、とても嬉しそうに、にこにこしていて顔と話しが一致しないでいた。


「まるで会ったことがあるみたいですね」

「ええ。呼び出されましたから。代償はそれです」

「えっ?」


思わず夜王の胸元を掴んで、「どういうこと!?」とくらい付いていた。

力を入れて掴んでしまい…。


「いたっ」と脇腹を押さえ、くらっと目眩を起こしてしまった。


「急に力を入れるからですよ。まぁ、とても役得ですけど…」


夜王に抱きかかえられていた時、扉が開く。

入って来たお方は、驚いて固まっている。その後ろにいる2人が慌てて扉を閉めていた。


「…ユズ」


ルイが声をかけ、夜王を見る。

夜王は「はぁー」とため息をついていた。


悪魔って、こんな人間臭い行動をとるものなのかと、ユズは夜王を見ながら思う。少し前、初めて会った時とは比べものにならないほど人間らしくなっている。

支えられている状態のまま、ユズは人間味にあふれた夜王を眺めていると、器用にも一瞬、片目をつむり、ユズに視線を向けていた。


「…」

「私が話したことに驚いて、この状態ですね」

「は?」


仕方ないですね。今回だけですよと、抱えていた手を離すと、ルイの方へゆっくりとユズの体をもたれさせた。


「銀の巫女と言えば分かるのでは?」

「そのことか。とりあえず中で話そう。いいなユズ」

「かしこまりました。後、もう大丈夫ですので、失礼しました」


失礼な態度になっているとユズは、手を離した夜王の腕を支えにしようと手を伸ばした。

伸ばした手は空を切り、体は宙に浮いている。


「うわぁ!」と声に上げたものの、慌てて口をふさぐ。ユズはルイの両腕で抱き上げられていた。


「無理をするなと言っただろう。回復術があまり効かないのだから、お前が考えているほどには治っていないんだ」

「た、体力を取り戻すために、少し動いていただけです。だから、歩きたいのですが…」

「今はダメだ」

「はい、承知致しました」


夜王の目は、何かを言うことを考えていると分かるのだが、早くこの状況を終わらせたいユズは大人しく運ばれることにしたのだった。

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