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琥珀と銀狼  作者: シロ
第二章
14/24

第8話 帰る場所①

体が重い。

痛い。

視界がぼやける。


何をやっているんだろう。


なぜ、目の前の恐怖に向かうのか。


振り向くと、いつも一人だと、必要とされないと、誰もいない色の褪せた世界にいた。


あの頃より、笑うことも泣くことも、上手くできないのに、


笑ってくれる、泣いてくれる、変わった人もいる、この世が、


初めて楽しいと思えた。

普通の日々が、これほど何事もなく終え、

次の朝が、待ち遠しいなんて、思えるぐらいに。



次は…朝が来るか分からない。


生半可な行動は何ひとつ通じない。


全てを捨てなければ、消える命の数は始めから同じだ。

異質は異質なりの花の咲かせ方がある。…最後の…。


青い剣を引きずりながら歩く。

もう後ろは振り向かないと決めた。


何もかも重く体にのしかかる程なのに、気持ちは晴れやかだった。


「あははっ」


擦れた声で笑う。


「何がおもしろい」


刀悟が憎々しい棘のある言い方をする。


「あなたは、何のためにここにいるのです?」


声になってはいなかったが、どうやら読み取れているらしかった。なら、都合が良い。


「この世は私が統べるべき場所だ。邪魔な者共は消さなくてはいけないだろ」

「誰が決めたんです?」


改めて刀悟の顔を見る。ユズと同郷だと分かる名前。姿は違えど根底は同じだ。


「何だと」

「元は同じ世界にいたのでしょう?同じ時間の枠にいたかは知りませんが私たちは異質な存在。本来ならば、この世にあってはならぬ者」


驚いたのか、信じられないという顔をした。


「私もあなたと同じ名前がある」

「どう見ても、姿が戻ればこの世の者だろ」

「私には、この世に体がある。それだけのことでしょう。私を産んだ女がいるという簡単なことでしょう」


刀悟はじっとユズを見た。何かを探るかのようだ。


「お前、混じっているな」

「混じる?」


意味の分からないことを言う。


「あはははっ、これはこれは」


一人で納得して、また、くだらないことを言う。


「お前、私と共に行かぬか。ここでは生きにくかろう。同じ琥狼と言われる者だ。私ならお前を助けてやれる」

「…」


同じと言われたくない。

激しい苛立ちが、神経を逆撫でする。


後ろから『ユズ!』と名を呼ばれる。何度も何度も。

それは、温かく心地の良いもの。


彼等からには刀悟が一方的に話しているように見えるかもしれない。声すらまともに出ないユズと、会話が成立する訳ない。

ムーランやアルベルトなら、分かっているかもしれないが、それに答えている時間はない。


「誰も待つ者もいない。くだらないだけの世を一緒に歩きたいとは思いません。これで最後にしましょう。何もかも」

「決裂か。ならば仕方ない。一撃で終わらせてやろう」


2人の間に風が吹く。

2人の白銀の髪が宙に舞う。


大剣と青い剣が絡み合う。

ギシッと鈍い音を立て、お互いの刃と刃が睨み合い交差する。

一歩も譲らずに、押し攻める攻防が続く。


「この子がただの剣だと思いましたか?」


引き攣りながら、口を孤を描く。

徐々に優劣が見え始める。


「負け惜しみか」


刀悟の足がジリジリと後ろへ下がっていく。

大剣が悲鳴と思わせる音をさせ、刃に亀裂が走る。


「この子は、命を吸い取る剣。吸い取ったモノを純粋な力に変える剣です」


さらに力を入れて剣を押し攻める。


「戯言で私が怯むと思うか」

「嘘なんて言いません。切り札はとっておくものでしょ?」


青い剣はギリッと音を立てる。大剣のさらなる威力を吸い取る。『くっ』と刀悟自身の体が押され、片膝を地面につけた。


バキッ、大剣の根元は砕け、2つに折れ刃先は粉砕される。


そのままユズの手に握られた青い剣は、粉砕した大剣の刃先があった場。刀悟の首元から体へ、グサっと斬り抜かれた。


「かん、たん、に、には、終わ、わらん。すべ、て、焼き…つくして…」


体はバタっと地面に崩れ落ちた。砕かれた大剣の根元は夥しい血が付き、倒れた刀悟の手に握られている。


その血の先は、ユズの脇腹だった。崩れ落ちる前、力尽きる前にユズの脇腹に突き刺したのだ。


「うっっ」


呻き声が出る。


 熱い?上から?


脇腹の痛みより、激しい熱さが上から感じる。

見上げて、驚愕した。


空には、炎を核とした巨大な球体がさらに広がりつつある。


 なんてことしやがる


剣を鞘である体に吸収すると、炎の球体を包み込むイメージを強く浮かべる。


空に大輪の花が咲く。


『氷華』全てを凍らせる美しい氷の花。

炎の球体を幾重にも包み込み、花を閉じる。

包んだ中から反発して飛び出す炎を、新しい氷の花がさらに咲き、包み込んでは閉じていく。


「ユズ!」


駆けて近付こうとする仲間との間に、氷の壁を出現させた。心の奥にあった壁のように。

後ろを見ず、頭だけを横に振る。


命の炎は衰えず、包み込む氷の花を溶かし広がろうとした。

空の空気も何もかも凍らせ、大輪の花は花火の様に閉じては咲いていった。


「ばく、は、つ、す、する」


ありったけの出る声を出した。


押さえ込んだ炎から、反発して外に出た炎が大爆発を起こした。爆風が吹き荒れ、瓦礫や砂埃が竜巻となって上空へ巻き上げる。地面は激しい揺れで地響きが広がっていく。


視界は砂埃で何も見えなくなる。




どれくらいの時間がたったのだろう。砂埃は治まり、夜空には綺麗な星空が見える。

空に咲いた大輪の花は、影も形もない。

地面に体を丸くして揺れを凌いだルイは、頭を上げ体を起こした。静まり返って、さっきまでの爆発は嘘の様だ。後ろには、他の者がルイと同じ様に体を起こし始めている。


離れた場所で立っていたユズがいた。


 良かった…ユズがいた。無事なん…だ?


異変はすぐ起きた。

ユズはその場で座り込むと、そのまま人形のようにバタっと地面に倒れた。


 ……。


固まってしまった。動けなくなってしまった。。倒れたユズを呆然と見た。

ルイだけではない。アルベルトもジルウィートも2人共、これ以上ない程、ユズを見ているが動こうとはしない。


走ってゆく者がいた。キーグがユズに走り寄り、体を抱き上げていた。キールが自分の上着を脱ぎ、ユズの腹部に巻き付けて、マリベルに『早く』と大声で呼ぶ。


「しっかりするんだ。ユズ、目を開けろ!」


腕が抱きかかえた間から、力なく落ちる。指の先から赤い水がポタポタと滴る。

ルイは立ち上がると、歩き出す。そして、歩みが早くなり走り出す。


 嫌だ…嫌だ…うそだ…


「ユズ!」


キーグからユズの体を大切に抱き渡された。

小さく小刻みに息をしているのが感じられる。

閉じた瞳は何も反応をしめさず、左目の額にかけて焼きただれた後が赤く残っていた。


彼女から預かっていた銀の首飾りが、緑色を消し、銀本来の色をも消し褪せてしまっている。


転ぶように何度もバランスを崩しながら、ジルウィートがユズの前まで来て、彼女の腕を持ち上げ、手を握りしめた。


「何やってんだよ。早く起きろよ。…約束したよね…だから寝てないで…」


声は涙と重なって、溶けてゆく。


「アルベルト!、手伝ってちょうだい!惚けてる場合じゃありませんわ」


回復術を発動させながらマリベルが、アルベルトに怒鳴りつける。普段は温厚で、大声を上げることすらないマリベル。そのマリベルが激しく荒らげていた。


「…あ、あぁ…。すぐ…行く」


立ち上がるが、すぐ座り込んでしまう。


 何もかも追い付いていかない。

 目の前が霞んで、よく見えない。

 声が遠くからしか、聞こえない。


心の中、アルベルトの不安と信じることができない気持ちが言葉になって、ルイに伝わってきた。

アルベルトに向かって『アル、アル、しっかりしろ』何よりもはっきりとした声で言う。その声が彼を正気にさせた。

ルイの通った声が頭の中を目覚めさせたようだ。


「今、行く」


今度はちゃんと立ち上がる。ユズの足元に駆け寄ると、彼女の姿を目に焼きつけるように見ている。

何も言わず、マリベルの横に移動し回復術を発動させ始めた。


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