第7話 それぞれの想い③
ルイ達が地下室の構成された魔法陣から転移された場所は、町の建物が壊れ崩壊した瓦礫の中だった。
風が勢いよく吹き荒れ、いたる所で竜巻がうなりをあげている。
視線の先にいる同じ様な姿の人間が、ぶつかり合い剣を打ち当てるたびに轟音が鳴り響き、振り下された大剣が大地に亀裂を生じさせた。
視界の端に、アルベルトとジルウィートの姿を見つけた。
「アル、ジル無事か!」
走り寄ろうとすると、アルベルト達と、ルイ達の間に炎の渦が壁のように舞荒れる。
風に炎が舞い上がられ、焼き尽くそうとする。
「どこを狙っているのです!」
声と同時に、頭上から炎を目掛けて氷柱が降り突き刺さる。氷柱は炎を食い、凍らせていく。
ガシャーン、金属のぶつかる嫌な音が波打つ様に響いた。
斜め下から振り上げた大剣を、真上から青い剣が叩き落とすかのように振り下ろしていた。
「まだ、やる、か」
その言葉で分かる。何度もこの攻防を繰り広げてきたのだ。
ギリギリと歯ぎしりを立てながら、琥狼の男である刀悟が大剣に力を込め押さえ付けていた青い剣を弾き飛ばした。
反動で刀悟と、青い剣の持ち主、琥狼の娘ユズがそれぞれ吹っ飛ばされる。
盾になる壁も建物もない。2人は勢いのまま、後方に吹き飛び刀悟の姿が見えなくなる。
ルイはもう一人、吹き飛ばされてくるユズを受け止めようとした。体をしっかりと捕まえたが吹き飛ぶ力が強く、さらに押されていく。
ムーランが後方から衝撃を吸収し、体を優しく包み込む障壁を発生させる。そして、ザールからジェスの村を囲む光の防御壁を同時に構築し展開していた。
押さえきれずにいたルイを、キールとキーグがその後ろから2人を支え、走って来たアルベルトとジルウィートが自分たちの体で受け止めた。
魔力の尽きかけたムーランと、それを支えたマリベルも歩きながら近付いてくる。
引き摺った地面は煙を上げ、漸く動きを止めた。
少しの静寂の後、ルイの腕を押しのけて起き上がろうとしたユズが体を動かす。限界に近いであろうその体は傷だらけで、捕まえていた手は血がべっとりと付いている。
ふらふらっと立つと、そのまま前のめりで足をよろけさせる。どさっと地面に手をついて、転げてしまっていた。
大きく肩を上下させて苦し気に呻いても、さらに落とした剣を取ると杖にして今度こそ立ち上がる。
彼女の目は、のそのそと歩いてくる者だけしか見ていない。
もうどちらも、満身創痍だ。
「もう他の解決方法はないのか!」
分かっていても聞いてしまう。後ろから抱え込んでルイは、前に行こうとするユズを無理矢理引き止める。
「あ、あの男、は、ここ、で…殺さ、ないと…ダメ、です」
「俺たちも」
「ダメ…、あれ、は…」
声も出せないほど疲弊していても、琥珀の瞳は輝きを消さないでいた。
「死ぬなんて許さない。僕たちを頼れ!何でもいい、何でもいいから。僕たちは、いつだって、ずっと一緒だ」
後ろから受け止めていたアルベルトが大声で叫んだ。
「…」
刀悟が動かないのを見ると、ユズはゆっくりとルイの腕を掴むと振り返った。一人一人の顔を確認しているみたいに思える。
「待って、い…て、下さ、い」
「だから俺も」
ルイは引き下がるつもりはなかった。手を離したら消えてなくなりそうで怖かった。二度と彼女に触れられない気がしてならなかった。
ユズは横に頭を振った。
そして、片手で首元にある紐を引っ張り出した。銀色の歪な四角形が4つ重なった飾りの首飾りだった。
手で紐を引きちぎり、ルイに手渡した。
「…だい、じな、もの。戻って」
大きく息を吸う。
「くる、ま、まで、あずっかっ」
もう一度、息を吸い呼吸する。
「てく…ださ、い」
それだけ話すと、ユズはまた前に向き直り、重い体を引きずながら歩いていく。
後ろ姿が、引き止めることを拒絶しているかのようだ。
渡された首飾りは、緑色にぼんやりと光っている。
支えられたムーランが飛び付くように、ルイの手のひらにある銀の飾りを見る。体が震え出し、前を歩いていくユズの背中を、目を見開いて見ながら固まっていた。
「ここに…」と無意識に声に出していた。